第56話 食レポとスパイギャル
用を足して戻ってくると、花奈が先程見せてくれたSNSをコンにも見せて戯れていた。
「あ、花奈!これ、このお肉のやつ!ワシこれ食べたいのじゃ!」
「あー…これはめっちゃ美味しかったっすよ!お肉が柔らかくて、とろっとろにとろける感覚で、絶妙なソースと油のバランスが…」
花奈はスマホの画面を操作して拡大したり、ムービーを再生したりしてコンにどう美味しかったか事細かに伝えると、コンはそれを聞いて今しがた巨大なパフェを平らげたばかりだというのにもう、涎を垂らしていた。
ちなみに、濃厚ミルクアイスが乗っていたであろう器にはもう既にアイスクリームは乗っておらず、綺麗に舐め取ったのかバニラの痕跡すら見当たらず、器に置かれていた銀色のスプーンが空しくキラリと光るだけだった。
「ぬあああ…それは、さぞうまいのじゃろうな!あ、これも美味しそうじゃ!」
「あ、これはねえ…そう、まさに味の宝石箱って感じでぇ~…」
味の宝石箱ってお前…食レポ芸人かよ…と思ったが口にするのはやめておいた。
「あ、四季っちお帰りっす!」
俺が戻ったことに気付いた花奈はチラッと横目でこちらを見て出迎える。
「ああ、ただいま…って、お前ら食ったばっかだろうにもう次の飯の話かよ…太るぞ?」
俺がそう言うと、花奈は一瞬詰まった様に「うっ…!」と、声を上げていたが、ぷいっとそっぽを向いて誤魔化す。
「ヒュー…ひゅー…あー、空気がオイシイナー、空気はカロリーゼロっすよー…?」
と、吹けていない口笛を鳴らし…いや、口から空気を漏らしてひょっとこみたいな口をして、頬を掻いていた。
やっぱ一応気にしてるんだな。
「さて、茶番はもういいか?そろそろ行くぞ?」
と、俺が置きっぱなしにしていたリュックを持つと、花奈が慌てた様子でそれを引き留める。
「あ、あ…待つっす、待って欲しいっす!ちょっと、これ!これ見て欲しいっす!」
と、花奈が見せてきたのはスマホの画面だった。
先程映し出されていたSNSのホーム画面だが、どうやら花奈のアカウントではなく、どこかの店の公式アカウントの様だ。
「えっと…これが何だ?」
「よく見るっす!ほら、これ!さっきの政さんの店のアカウントっす!ここ見て欲しいっす!更新がほぼ毎日で、しかも短期間で大量っすよ!こんなのギャルのおはようとおやすみの自撮りアップロードくらいの頻度っすよ!かなり豆っすよ!」
と、何故か自分のアップロード頻度を暴露している花奈だったが、確かにSNSのアカウントは頻繁に更新されている様子だった。
「しかも、ほら!美味い酒を求めて…って、お酒の写真ばっかっす!これ、やっぱり息子さんじゃないっすか?この写真が撮られたお店とか分かれば居場所分かりそうじゃないっすか?」
と、花奈がそう言うと確かにアカウントのメディア欄を覗いてみると、様々な酒のボトルやグラスに入った状態のモノ、更にはおつまみや料理と言った食べ物系が殆どだったが、所々に店の背景が写り込んでおり、確かにこれはヒントになりそうだった。
「おお!花奈ナイスだ!確かにこれは良い手がかりだ…よく気付いたな」
素直に花奈を褒めると花奈は胸を張って「ふふん!」と、得意げな顔をしていたのがちょっとムカつく。
「しかし、これだけだとまだちょっと情報が足りないな…さっき政さんに貰った電話で直接掛け合ってみる…にしても、何て話せばいいか分からんな…いきなり薬の話とかするわけにもいかんし…相手の出方を探るのが無難だが…うーむ…」
と、俺が悩んでいると花奈が更に得意げな顔をして続ける。
「ふっふーん!四季っち…今は情報化社会っすよ?ほらちょっと待つっすよ?」
そう言って花奈はメディア欄に表示されている画像をざーっと眺めると、そこに映っているテーブルや椅子、店の内装や装飾を紙とペンを使って、共通のものがあるかどうかメモを取り始める。
「あの、何してるんだ?」
「ああ、めっちゃ地味っすけど結局人間っすから、行きつけの店がもしかしたらあるかもしれないと思ってそれを探ってるっす!今はそれを見つけて印をつけてるっすよ」
と、上から順にスクロールして作業を続ける。
「んで、これを画像検索するっす!そしたら店の内装とかで居場所が分かるっすよ!どうっすか?褒めても良いっすよ!何なら後で夕飯も奢ってくれても良いっすよ!?」
と、また食べる事かよと内心思ったが、その手法には正直素直に関心した。
つか、花奈お前…こいつに探偵業を開かれたら俺の店もやばいかもしれないな。
「今時ギャルなめちゃ駄目っすよ!これくらい常識っす!」
えっへんと胸を張って手を動かす花奈に面食らってしまっていたが、コンと樹はニコニコと互いに微笑みながら、顔を見合わせていた。
何だこいつら、俺がいない間に何を話してたんだ?
と、気になるが今はそれは置いといて…。
「今時ギャルすげえな…映画の中とかならスパイにでもなれたかもしれないな…」
素直に関心した俺はそう言ったが、花奈は何を言ってるのか?と、いったきょとんとした顔で作業を続ける。
「なに言ってんすか?馬鹿な事言ってないでそんな事より、四季っちも手伝うっす!写真の中から共通してる家具とかテーブルとか装飾とかそういうの探すっすよ!息子さんの行きつけはきっとその店っす!息子さんはそこにいるっすよ!」
「…ああ、わかった。やってみよう」
ボケたつもりだったのだが、まさか真面目に返されるとは思ってなかった。
しかしまあ、花奈の情報収集能力と現代を生きる若者ならではの感性には素直に感心しつつ、大量にある写真を一枚一枚チェックするのはやはり時間がかかる様ので、俺と樹もスマホを操作して花奈の作業を手伝う事数分。
無数の写真の中にやはりテーブルや椅子が写り込んでいるものから、いくつか共通の物が見つかり、それを画像検索にかけると一件の店がヒットした。
「あったっす!ほら、花奈ちゃん大活躍っす!きっとここに行けば息子さんに会えるっすよ!情報引き出すっすよ!」
驚く事に、ものの数分で目的の店が見つかった。
どうやらお店はBARの様で店名を【
店内は白を基調とした洒落た内装で、装飾品や小物に至るまでほとんどの物が白で統一されており、バーカウンターには青いLEDライトを使用することで、どこか不思議な近未来を連想させる様な幻想的な雰囲気を醸し出している。
メニュー表にはやはりお酒の豊富さを売りとしているのか、オリジナルカクテルやシャンパン等、若者にウケそうなものが多かった。
エナドリ割のカクテルか…どう考えても寿命を縮めそうだけど…一度試してみたくはなった。
どんな味かは気になるし。
「まさか…本当にあるとは…」
「ええ、ほんとね…」
本当に見つかるとは思ってなかったので、素直に驚いた。
樹もまさかあるとは…みたいな顔をして呆けていた。
コンは興味なさそうにスマホの画面を眺めては、目を細めていた。
「うー…青色…めがちかちかするのじゃ…」
三者三様な様子を尻目に、花奈は勝ち誇ったかのように胸を張る。
「へへん、褒めてもいいっすよ?できれば特別報酬でバイト代追加とかだと嬉しいっす!」
調子に乗っているので即答する。
「それはない」
「がーん!」
俺がそう言うと、花奈はガックリと肩を落としアニメや漫画のお約束みたいなリアクションを取っていた。
「がーん!って…マンガじゃあるまいし、とりあえず見つけた事はお手柄だ。よし、特別報酬に何なら今からデザートでも奢ってやろう。よし、店員さんバケツプリンパフェもう一個!」
俺がそう言うと、花奈は血相変えて俺の方をがしっと両手で掴み、必死の形相で全力で止めてきた。
「私が悪かったです、ほんとマジでそれだけは勘弁してください!」
反応早いな!まあ、とにかく、これでやっと前進だ。
何とかやつらの情報が手に入る可能性がでてきた。
ここまで長かったが、仙狐水晶の在処と情報さえ掴めばあとは潜入してちょいと拝借するだけだ。
もう少しだ、焦らず行こう。
「分かればよろしい。まあ、店は夜からみたいだしとりあえず一旦解散するか?」
と、俺がそう言うと花奈がピョンと立ち上がり身を乗り出すと、とある提案をするのだった。
「あ、それなら海行きたいっす!」
「海…だと!?」
「海っす!」
まじっすか?
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