第55話 食いしん坊ギャルと腹ペコの理由

「ふぅ~…もうお腹いっぱいっす…これ以上はもう食べられないっす…」


「流石に半分ことはいえ…結構きついわね…あたし、明日の夜はジムに行かなきゃだわ…」


 さて、たっぷりバケツプリンパフェを平らげた二人は見た目以上に量があったパフェに満足して、机に突っ伏しダウンしていた。


「あぐあぐあぐ…うむ、うまいのじゃぁ!」


 と、相変わらず慣れない手つきでパフェにがっついているコンはせっかく綺麗に盛られていたそれを、不規則につついていた為、もはや見た目の美しさは残っておらず、ぐちゃりとした見た目はグロイ何かに成り下がったそれを、掬ってはパクリ、掬ってはパクリと飲み込んでいた。


「おい、コンよ…お前本当に一人で食べきるのか…しっかし、こんなに食べて大丈夫なのか?心配になってきたぞ…?」


 俺は残ったコーヒーを啜り、飲み干すと、常に腹ペコで大量に食料を詰め込んでいるコンにふと疑問に思ったことを尋ねてみた。


 すると、コンはきょとんとした顔をして目を丸くして、一瞬食べる手を止めると少し考え込むような仕草で目をつむり首を傾げると、こちらの質問に答える。


「うーむ…その、人間も腹が減れば飯を食って栄養を補給するじゃろ?」


「ああ、まあそうだな」


 と、頷き相槌を打つとコンは一口パフェを口に運び、続ける。


「人間にとっての食事は失った栄養を補給する手段じゃろう?ワシら土地神も同じく食事から力を補給することは可能なのじゃが…土地神の基本的な力の源は信仰心なのじゃ。じゃが、今のワシらにはそれは殆ど残っておらぬのじゃ…」


 と、コンは一度言葉を区切るとグラスに注がれた水を一気に飲み干す。


「ごっきゅごっきゅ…ぷはっ!じゃから今は人と同じく食事で失った力を補給しておるのじゃがの?どうしてもそれだと効率よく力を回復させるのは難しいのじゃ…」


「な、なるほど…?」


「本来土地神は人の目には見えぬのじゃが、こうして顕現しておるとどうしても力を消費してしまうのじゃ…あの、あれじゃ…人間で言う所の常に全力疾走で体力を消費しておるようなものじゃ。ずっと動いておるとお腹がすくじゃろう?それと同じようなものなのじゃ」


 と、淡々と答えると、すぐにまたパフェと格闘しだす。


 あんなに大量にあったパフェも、喋りながらもがっつくコンの前ではもう既に半分程になっていた。


「てことはあれか?普段は消えている方が燃費は良いのか?」


「うーむ…そうとも言い切れぬのじゃ。単純に一度消えてしまうと再び顕現するのにそれなりに力を使うからの…できれば一度顕現したら極力顕現しっぱなしにしておく方がよっぽど効率が良いのじゃ…あぐあぐ…」


 なるほどな。


 だからコンはいつも大量の飯を食ってエネルギー補給をしていた訳か。


 昨日妄りにいたずらを仕掛けた花奈は知らなかったとは言え、それを聞くと少しばつが悪そうな顔をしていたが、素直に「コンちゃん、ごめんっす…」と、謝り、ちびちびとグラスに注がれていた水を啜って小さくなっていた。


「ん?気にするでない。おぬしらからはからの。心配するでないのじゃ!」


 しかし当の本人は気にした様子も無く、器の底に溜まっていたカラメルソースを掬い取ると、綺麗にかき集めてプリンパフェを完食すると、ポンと腹に手を当てて口の周りを舌でペロリと舐め回し、満足そうに頷いて言う。


「ふぃ~…ご馳走様、なのじゃぁ~!実にうまかったのじゃ~!」


 にこにこと笑顔のコンはちろりと舌を出して、右手の甲を当てると、くしくしと頬っぺたを拭っていた。


 お前は猫かよ…。


 と、突っ込みたくなる気持ちを抑えて、備え付けの紙ナプキンを手に取りコンの口を拭ってやる。


「…ほら、食ったら行くぞ?樹も花奈もそろそろそれでいいか?」


 と、俺が視線を移し二人の方を見ると、花奈がスマホを操作して先程取った料理の写真をSNSにアップしているところだった。


「うっわー流石ビジュアルの鬼っすね。さっき投稿したばかりっすけど…見て欲しいっす。これ、もうイイネが百超えたっすよ…やっぱ時代はバケツプリンっすね…感服っす、二つの意味で」


 そこには若者を中心に普及しているSNSの画面が表示されていた。


 俺はあまりこの手のSNSを使って写真をアップロードしたり共有するということはないのだが、主に情報収集として人探しをする時に覗いたりはする。


 まあ今時誰でも簡単に投稿して共有できるこういうツールはかなり普及しているので、花奈の開いた画面に特に興味も湧かなかったのだが、ものの三十分程で百件も反応が付くというのは確かに凄いなとは思った。


「花奈のフォロワーは随分と食いしん坊が集まってるみたいだな?」


 と、返してやると花奈は頬を膨らませて膨れっ面になると、ぶーぶー文句を言ってくる。


「酷いっす四季っち、あれっす、SNSで手っ取り早くバズるには猫の写真と食べ物っすよ!これ今時の常識っすよ?べ、別に私が食いしん坊って訳じゃないんっすよ…ホントっすよ?」


 と、必死で言い訳してくるがもう遅い。


 こいつのメディア欄はやれパフェだの、アイスだの、山盛りパスタだの、カラフル団子だの…そういう類のもので埋め尽くされていた。


「その弁解はまあ、もう遅いとだけ言っておこう…」


「うぅ~…四季っちのいけずー!」


 と、ぶーたれる花奈を放っておいて、席を立つ。


「ちょっとトイレ行ってくる」


「あ、逃げたっす!」


「違うわ!コーヒー飲んだから尿意がだな…って、トイレくらい普通に行かせろよ…ったく!」


「あはは、ごめんっす。待ってるっすから行ってらっしゃいっす!」


 悪びれずあっけらかんと言う花奈に本当に悪気はないんだろう。


 普段からノリの軽いやつだが、こういう所にはちゃんと気を配ってくれるから助かるのだが、やはり年頃の娘相手というのはちょっとオッサン的には精神的に疲れる。


 まあ、悪いやつではないし、仕事の面でもコンの面倒を見てくれたりと助けられることは多々あるのだが、やはり若者特有のノリというか、そういうテンションの温度差というか…それに合わせるのはやはりちょっと苦手だと改めて思った。


「コン、樹達とちょっと待ってろよ?」


 コンの方を向いてそういうと、コンはメニュー表を再びじーっと見つめてはこちらの問いかけに気が付くと、上目遣いで言うのだった。


「のう、おぬしよ。わし、こののうこうみるくあいすというのが気になるのじゃが…食べてもよいかの?お願いなのじゃ…」


 と、うるうると瞳を潤ませると胸の辺りで両手を組んで尻尾をふりふりと悩まし気に左右に揺らしている。


 俺は顔に手を当てて首を左右に振ると、溜息を吐いて言う。


「ああ、もう好きにしろ…その代わり大人しくしてろよ…?」


 俺がそう言い終わるとコンは両手を上げてにっこり満面の笑みを浮かべる。


「わーい、なのじゃ!」


 神様の食欲恐るべし…。


 気を付けないとまじで財布の中身がマッハでやばいな…。


 俺はそんな様子を見届けると、店の奥にある暖簾をくぐり、お手洗いと書かれた扉を開いて、トイレの中へと駆けこむのだった。


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