第54話 たっぷりバケツプリンパフェとハンバーグ
料理が来るまでの間、コンはしきりに卓上調味料の小瓶をつついて中身を確かめていたのだが、胡椒の瓶に鼻を近づけて匂いを嗅いでいた時は、飛び出した粉末を吸い込み、思いっ切りくしゃみをして、鼻から立派な鼻水を垂らしていた。
「ふぇっくっしょい!!…ふぇぇ…なんじゃこれは…鼻がムズムズするのじゃぁ~…」
と、間抜けな顔をしながら胡椒の瓶に悪態を吐いていたコンを見て、樹も花奈もやれやれ…と、言った様子で、にこやかにほほ笑みながら、樹はすかさずナプキンを差し出して、鼻を拭ってあげていた。
「ほら、コンちゃんお鼻…チーンってしちゃいなさい?」
「おお、すまぬ樹…ずず!」
「全く、胡椒は直接嗅いじゃ駄目よ?お鼻が痛くなっちゃうわ…」
「うむ、次から気を付けるのじゃ…うー…まだ鼻が変な感じじゃぁ…むずむずするぅ~…」
「あらあら…」
と、むくれるコンを宥めていると、店員さんが料理を運んできた。
「お待たせしました。こちらサンドイッチとコーヒーのセットと、ハンバーグランチご飯少なめ、オムライスはこちらのお客様でよろしかったでしょうか?」
「猫ちゃん!…ねこ…ちゃん?」
と、店員さんがそれぞれにお皿を配膳すると、コンの目の前に置かれた黄色い卵で包まれたオムライスの絵柄はケチャップで描かれたちょっと顔面が崩れ気味の何とも言えない出来の猫(?)のイラストが描かれたものだった。
一瞬の沈黙はあったものの、白い湯気の立ち上るそれに、スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいると、猫自体に既に興味を失ったのか、スプーンを握ってきらきら輝く瞳をこちらに向けて「食べても良いのか?」と、顔に書いているみたいだった。
「それでは失礼いたします。伝票こちらに置いておきますのでお帰りの際レジまでお持ちください。それでは、ごゆっくり…」
と、丁寧に一礼して店員さんは下がる。
「まあ、せっかくだし…食べるか…。いただきます!」
「いっただっきまーす…なのじゃ!」
「そうね、いただきます」
「あ、ちょっと待ってっす、写真撮らせて欲しいっす!」
と、一瞬花奈が静止すると、慣れた手つきでスマホを操作してあっという間に写真を撮っていく。
ピロリン、ピロリン…と軽快な気の抜ける音が数回響き渡ると、花奈はスマホを置いてフォークとナイフに手を伸ばし、じゅんわりと肉汁溢れる熱々のハンバーグを切り分け、口に運ぶ。
「お待たせしたっす!それじゃいっただっきまーす!…ん!このハンバーグ、柔らかくて味がしっかりしててジューシーっす…うまーい!」
と、我先にと料理にがっつく花奈だったのだが、それを見たコンは対抗意識を燃やしたのか、右手に持ったスプーンを「えいっ!」と、オムライスに突き刺して、何とか具を掬い、口に運んでいた。
「ああ、花奈ずるいぞっ!このっ、このっ…くぅぅ…まだるっこしい!よし、できたのじゃ…いっただきまーす…あむ、もぐもぐ…んーっ!んまーっ!」
もぐもぐと一生懸命慣れないスプーンを使って口に運ぶコンの皿に、樹が切り分けたハンバーグを乗せてやると、コンは一瞬考え込む様にフリーズしたが、深く考えるのをやめたのか、そのままスプーンでぶっ刺して食べるという逆に器用な事をやっていた。
「うおぉお…これも、うまいの…じゅんわりじゃぁ…じゅんわり…うまぁ…!」
と、肉の塊を口に頬張りもっくもっくと咀嚼するケモミミ幼女は実に満足気に尻尾と耳を小刻みに震わせては、料理を頬張っていた。
そんな様子を見た俺と樹も料理が冷めない内に各々食事を開始して、しばしの間皆が食事に舌鼓を打ち、沈黙の時間が流れるのだった。
運ばれてきた料理は普通に美味しかった。
俺も二人から少しおすそ分けを貰い、逆にサンドイッチを分けたりとシェアして食べていた。
味見させて貰ったハンバーグは、溢れる肉汁とスパイスの配合が絶妙でどこか既視感があったのだが、先程食べたコロッケの味がそれに近かったのかもしれない。
もしかしたら、近いし肉の仕入れはそこでやっているのかもしれないなと思った。
サンドイッチはハムときゅうりとトマトとレタスを挟んだシンプルなもので、食パンにライ麦を使っているので少し茶色味がかった香りの強めのパンだったが、味自体はシンプルで、野菜がシャキシャキしており食感が良かった事以外は特に言うことは無い。
食事を終え、コーヒーを飲みながら一服していると、花奈が指を鳴らし先程の店員さんを呼びデザートを持ってくる様に伝えると、暫くして厨房から直径三十センチくらいの大きさで、深さ十五センチくらいの透明なガラス製のボウルを二つ手にして戻ってきた。
「あら、ほんと大きいわぁ…食べきれるかしら?」
そう言う樹だったが、樹の体格のせいもあってか、目の前に置かれたボウルも樹と比較するとちょっと小さく見えてしまうのだが、コンの目の前に置かれたそれを見ると確かに大きくも見える。
これが目の錯覚ってやつだろうか?
「うっわー…実物は更に凄い迫力っすね…これは、食べ応えありそうっすよ…」
「おお、何やら甘くて良い香りがするのぅ…ふへへ…上に乗ってるのはくりーむじゃな?ふふ、朝食べたから分かるのじゃ!」
と、女子二人はたっぷりバケツプリンの迫力に押され気味な様子だったが、どちらかというと期待感の方が高そうで、その表情からウキウキとした気分がこちらにも伝わってくる様だった。
店員さんがテーブルにそれを持ってくると、土台であるバケツプリンの上に、リンゴ、ミカン、イチゴ、メロン、バナナ、パイナップル、マンゴー、ブルーベリー、ラズベリーといった色とりどりのフルーツを盛り付け、更に生クリームとチョコレートソース、そして猫の顔の形をしたビスケットが二枚ささっていた。
間近で見るとその迫力に思わず気後れしてしまうのだが、コンと花奈はこれを見ただけでやる気十分、鼻息を荒くして今か今かと待ちきれない様子だった。
「のう四季よ…これは、食べても良いのじゃろう?」
と、耳をピコピコと動かし、尻尾をブンブンと激しく揺らして目を輝かせている。
「あ、コンちゃん食べる前に写真撮るっすよ!これは絶対SNS映えするっすよ!」
と、花奈は再びスマホを操作して写真を撮る。
角度を変えながら何度かピロリンと気の抜ける音を響かせると、気が済んだのかスマホを置いてスプーンを手に取る。
「よっし…それじゃ、コンちゃん食べるっすよ!樹っちゃんこれは気合がいるっす…ちょっとでもきつかったらすぐに言うっすよ!」
「はいはい、これはあたしも頑張らなきゃね?」
と、樹は腕まくりをして気合を入れている。
「食べるのに気合って…まあ、確かにこれは気合がいるかもしれんなあ…」
「のう、もう良いか!?」
と、完全にお預け状態を食らった子犬の目でこちらを見ているコンに、苦笑しながら言った。
「ああ、もういいぞ。誰も取らないからゆっくり食べるんだぞ?」
「あいなのじゃ!いっただきまーす!」
と、俺がそう言うと元気よく右手を上げて返事をしたコン。
耳と尻尾も揃ってピンと上に向けて立っていたのがまた可笑しかった。
返事をするとすぐにスプーンを手に取り、一口クリームとプリンを掬っては口に運び、身悶えさせながら目を輝かせ、小刻みに体を震わせて感動を全身で表している様子だった。
「こ、これは…うますぎるぅなのじゃぁ…!うますぎて頬が落ちてしまうかとおもったのじゃ…!」
と、スプーンを持っていない方のてを頬に当てるとその手で頬を支えていた。
「あらあら、そんなに気にいったのかしら?どれ、あたしも一口…って、これ本当に美味しいわね…。結構な大きさだから味は大味なのかと思ったけど、ミルクの香りがしっかりしていて、甘すぎず、それでいて濃厚なコクが口に広がるわー!」
凄い具体的に言うじゃないか…そんなに言われると少し興味が出てくるが、俺は流石に今朝パンケーキも食べたばかりなので、過剰に糖分を摂取するのは避けたかった。
「ねえ、花奈ちゃん?これは、やばいわね…油断してたら本当にペロッと食べちゃいそうだわ…」
「そうっすね…樹っちゃん…これは、マジで美味しすぎるっす…!フルーツのとこがやばいっす…酸味と甘みのコラボレーションがベストマッチっす…これ作った人天才っすよ…」
と、二人とも喋りながらもスプーンは止まらず、次から次へと口に運んでいる内に、器に乗っていたバケツプリンはどんどん減っていき、やがて消えてた。
「ふぃ~…満足っす…めっちゃ美味しかったっす…これ、毎日食べたいっすけど、流石にカロリーがやばいっすね…うぅ…明日が怖いっす…」
「そうねぇ…ま、美味しかったしそこは良いんじゃないかしら?あまり考えすぎちゃ駄目よ?」
「うぅ…そうするっす…」
コンの方もスプーンを逆手に持って悪戦苦闘しながら、ほっぺに大量のクリームを付けて、ガッツガッツとまさしくパフェにがっついていた。
「あぐあぐあぐ…!くぅぅぅぅ~…うますぎるぅぅぅ…のじゃぁ~!」
俺はもっと味わって食えば良いのにと思いつつも、そんな様子を見守りながらコーヒーを飲み、食後の一服を満喫していたのだった。
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