第9話 母は強し、夜は暗し(2)
「んじゃ、行くか?」
と、スマホと一応念のため自分の財布をズボンのポケットに仕舞い廊下へ出る。
「行くのじゃ~あ!」
と、コンも上機嫌で廊下へ出ると俺の後へ続いて玄関へと向かって歩き出した。
「いってらっしゃーい。気を付けてね~?」
「コン様、しっかり伝えるのですよ?」
と、キッチン兼リビングからは呑気な母の声と、念を押すばあちゃんの声が背中を見送ってくれた。
「わかったのじゃ!」
と、元気いっぱいに返事を返すコンを見て、微笑ましく思う反面、樹と対面した際にはどうなってしまうのか?と心配する考えが一瞬頭を
すっかり元気を取り戻したとはいえ、今さっきの出来事だ。
人間でも神でもそう簡単に気持ちが切り替わるのであれば苦労はしないし争いごとは発生しないだろう。
態度にこそ現れないが、やっぱりどこか堅苦しさを感じるコンの様子を心配しつつも、頼まれたお使いをこなす事に集中する。
「まぁ…なるようになるわな…」
と、ボソッと呟くといつの間にか玄関先を歩いていたコンが振り返る。
「ん?何かいったか、四季?」
慌ててコンに追いつくべく、靴を履きその後に追随する。
外はすっかり夜の帳が降りていて、じめっとした風が吹き抜ける。
湿り気を帯びた仄かな夏の香りが、鼻孔をくすぐると、本格的に夏の訪れを実感できた。
昼間の熱気が収まり、ひんやりとした心地よい風が、湯冷ましには丁度良かった。
この辺りは住宅地と田畑が混在している為、田んぼのあぜ道の横は街灯もわずかにしか立っておらず、夜になると殆ど真っ暗だ。
アスファルトで舗装されているとはいえ、トレーラーや農業機器が通るこの辺の道は所々
「…何でもない。それより、暗いから足元気を付けろよ?」
コンの問いかけに答えると、とてとてと可愛らしく先行するケモミミ幼女は、上機嫌で鼻歌混じりで時折スキップをしながら、約五メートル程の付かず離れずの距離を保ちながら歩いていた。
「あいすくりーむっ!あいすくりーん…!甘くて、ひゃっこくて…うまいのじゃ~!…と。なんじゃ四季、ワシは神じゃぞ?暗くとも一人で歩け…ふぇっ!?」
と、注意を促すも時すでに遅く、コンは
だが、コンはそのまま空中で水車の様にふわりと一回転すると、見事につま先から着地していた。
「ぽ、ぽち丸…おぬしは無事か…?」
スッとつま先から着地すると、両手を広げて水平に広げバランスを取る。
審査員が居れば間違いなく十点満点の点数が付く見事な着地だった。
着地が決まると真っ先に首から下げた相棒を両手に抱えて顔の前まで持ってくると、ぺたぺたと撫でまわしていた。
転んだ様に見えたが、そんな事はなさそうだ。
顔からこけたから焦ったが、上手く体制を変えて人間ではあり得ない受け身を取っていた。
流石は見習いとは言え狐の土地神様だ。
俺はほっと胸をなでおろすと、立ったまま小物入れと見つめ合うコン。
しかし、コンは首から下げた小物入れと見つめ合い、どこにも怪我がなかったかを念入りに確認する。
しかし問いかけたとしても、小物入れが返事をするわけもなく、プラスチック製のつぶらな瞳がその整った顔を見返すばかりだ。
見事な前転により不安に駆られたのか、その場を動こうとしないコンに、見かねた俺は一計を案じることにした。
「んんんっ…!」と、咳払いをして喉の調子を整えると、おもむろに声を出す。
「無事だワン!コンちゃんは平気かワン!?」(裏声)
某ネズミがモチーフのマスコットキャラクターみたいな声が出て、コンは一瞬ビクッと尻尾の毛を逆立てると、すぐに気付いてこちらに視線を向ける。
精一杯のフォローをしたつもりだったが、コンは逆に精一杯侮蔑の眼差しをこちらに向けて、睨みつけてきた。
「…おぬし、一体何をしておるのじゃ?」
痛い、痛い!視線が痛いから!
「いや、心配そうにしてたから励まそうと思って…」
後悔はしているが、反省はしていない!
俺の考えを見越してか、コンは大げさに「はぁ…」と、ため息を吐くと背中を向けて言い放つ。
「何をやっておるのじゃ…全くおぬしは…四季は阿呆じゃ!大うつけ者じゃ!」
「ちょ、それは酷い!」
呆れた様子でこちらに罵声を浴びせてくるが、肩の力が抜け、笑いながらコンは返してくれた。
「やーい、やーい、大うつけ~!」
「おいこら、待て大飯食らいの神様幼女!」
罵倒しながら五メートル程先へ先へと走って行くケモミミ幼女。
そしてそれを必死に追いかける、アラサーの冴えないおっさんこと俺。
「んな!誰が幼女じゃ!呪うぞ!祟るぞ!化けて出るぞ!」
ピタッと急ブレーキをかけて、こちらに身体を反転すると、いつものように「フシャー!」と、威嚇する姿勢を見せる。
「こんの大飯食らいが…何を言ってるんだ!はこっちのセリフだ!…そもそも既に化けて出てるだろうが…!」
俺がそう言うと、コンは口にぽかんとした表情を浮かべると、口に手を当てて言う。
「あっ…それもそうじゃの」
と、他愛のないやり取りをしながらコンビニへの道のりを進んで行くのだった。
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