第10話 怠惰な店番とパーフェクトビッグバンセット(1)
途中羽虫が飛び掛かってコンの顔面を直撃したり、野良猫が餌を求めて寄ってくるとコンが威嚇し始めるなど、イベントはあったが特に問題なくコンビニへと辿り着くことが出来た。
家から歩いて十分ほどの場所にある二十四時間営業のどこにでもあるようなコンビニだ。
市街地の中にしては広い駐車スペースで、時折トラックに乗ったガタイの良いオッサン達の休憩スペースとして重宝されていたりする場所だ。
「ほら、コンこれがコンビニだ。二十四時間朝も昼も夜も休まず開いてる店だぞ~」
と、蛍光灯の明かり照らす店内を指さして説明すると、コンは「おー?夜なのに明るいぞ…?スケスケで中が見えるが…祭りか何かか?」と、首を傾げていた。
「違う違う、これは電気っていう夜でも明るい便利なものだよ」
そう言うと、いちいち興味深々といった様子のコンは自分の顔が映るガラス窓の前に立つと、手をグーの形に握り、コツコツと軽く叩いてはその感触を確かめていた。
「うむむ…わしの顔が映っておる…何故じゃ?」
光の反射で少しのっぺりとした顔のコンが映っている窓ガラスは鏡の様になっていて、それが不思議なのかコンは自分の頬を引っ張ったり、両手で挟み込んだり、相棒のポチ丸を掲げてその後ろに隠れたりと、一通りリアクションをして見せた。
「それは光の加減で鏡みたいになってるだけだよ…そんなことより、ほら!アイス買うんだろ?早く中に入ろう」
俺がそう言って、入口の扉を押し開くと店内からひんやりと冷たい冷気が流れ込んできた。
「あ、こら…待たぬか!行くぞ、ポチ丸!」
と、鏡とにらめっこしていたコンもこちらの様子に気が付くと、相棒のポチ丸こともふもふな小物入れを大事に抱きかかえ、俺の後に着いてきた。
俺の後ろに隠れる様に、着いてくるコンは入店時に鳴る軽快なBGMと、やる気のなさそうな店員の「いらっしゃっせ~」という気の抜けた挨拶にビクッ!と、反応していたが、それよりも店内に立ち並ぶ商品に目を奪われ物珍しそうに周囲を物色していた。
「うおおお…なんじゃここは…凄いぞ、物が一杯ある…これ全部、何かの道具なのか?」
と、物珍しそうにするコンは入ってすぐの所にある栄養ドリンクのコーナーに釘付けになっている。
「赤…牛?怪物…?マムシ…?すっぽん…?な、なんじゃこれ…何に使うか分からんが、何やら物騒な名前じゃ…」
「それは飲み物だよ。飲みすぎは良くないが、まあ現代人の必需品みたいなもんだ」
そう言いながら入口近くにあった緑色の籠を手に取ると、特に好んで飲んでいるエナジードリンクの銘柄を一本籠にぶち込む。
風呂から上がってまだ何も飲んでいない事を思い出し、思わず手に取っていた。
「に、人間は…ううう、牛や、怪物を…飲む…のか?あわわわわ…」
コンはぶるぶると身震いして、頭に手を当てると何を想像しているのかその場にしゃがみ込んでしまった。
そんな様子を見て苦笑し、頭を軽くぽんぽんと撫でて声を掛ける。
「まあ、ただの飲み物だって。それよりほら、アイス買うんだろ?アイスはそこの…ほら、ガラスの戸が付いてる箱の中だ。好きなやつ選んでいいぞ」
と、アイスの箱を指さすとコンは立ち上がると目を輝かせてそこへ向かって突進して行った。
「ぬっ、あれか…?あれなのじゃな?よし、待っておれ今行くぞ~!ポチ丸~」
「全く…、おいこら走ると危ないぞ!」
と、後からコンを追いかける。
アイスの冷凍ケースの前に来ると、必死に背伸びをして中を覗き込んでいるコン。
「んしょ…んー!」
しかし残念ながら身長が足りず、結果何度も何度も背伸びをするので、ケースによじ登ろうとしていたので止めた。
「登んな!」
ぺしっ!と、サラサラの髪の毛が靡く頭頂目掛けて軽く手刀をかます。
「うおっ!なにするのじゃ!やめぬか!今忙しいのじゃ!」
と、言い放ち、右手で頭頂部を抑え、冷凍ケースとの格闘を中断しこちらへ向き直る。
「すまんすまん。ほら、そっち向いて」
と、冷凍ケースを指差す。
「ん?わしは忙しいと言うのに…全く、仕方のないやつじゃ…ほれ、これでよいか?って…何をする離せぇ!」
渋々といった様子でコンは再び冷凍ケースの方へ向き直る。
そこへ近づくと、コンの両脇におもむろに手を差し込みスッと持ち上げる。
「こら、暴れるな…ったく、これで見えるか?」
眼前に色とりどりのアイスのパッケージがある事に気付いたコンは目を輝かせて見渡しており「ふぁぁぁ…!」と、感嘆の超えをあげていた。
「うお!これがあいすくりーむ?というやつか…しかし、聞いてたより美味しくなさそうじゃ…どれもてかてかしておるし…堅そうじゃ…」
しかし、パッキングされたアイスを見てガックリと肩を落とし自慢の尻尾を不満げに控えめに揺らし、尖った耳も落胆の色を見せて垂れ下がっている。
「違う違う、これは商品が汚れたり乾燥したりしないように薄い膜に包まれてるんだよ。ほら、絵が描いてるだろ?これが商品の中身だよ。王道で言えばチョコレートにバニラにイチゴ…変わり種で言えばスイカ味なんてのもある」
そういうとパッケージを怪訝そうに眺めるコン。
しかし、パッケージの写真を見ると尻尾や耳も元気を取り戻しブンブン、ぴこぴこと、揺れていた。
「ほぉ…そうなのか…つまり、この絵に描かれているのが本体なのじゃな?」
「そうだ」
「うぅぅぅ…どれも、これも違っておって良く分からんのじゃ…」
コンはそう言うと、万歳の要領で手を上に掲げ、腕からストンと落ちると地面に着地した。
「コン?」
すると、コンは俺のTシャツの裾を右手でクイクイと引っ張り、上目遣いでこちらを覗き込む。
「うむ、考えても分からぬのじゃ!おぬし、すまんが選んではくれぬか?」
期待の眼差しを向けてくるコンは、口をきゅっと結びこちらの反応を伺っている様子だ。
「何でも良いのか?」
「ふふっ…!おぬしが選んでくれたものならきっと良い物じゃろう?期待しておるぞ?」
屈託のない笑顔を向けられ、責任重大な任務を与えられてしまった。
全く、久那妓さんといい、コンといい…唐突に難題を押し付けるのは神の習性なのか?
「分かった。ちょっと待ってろ」
「あい、なのじゃ!」
コンはそう言うと、右手を上げてニコリとほほ笑み元気良く返事を返した。
さて、頼まれたからには真剣に考えなくてはならない。
責任重大だ。
初めて食べるアイスという未知の存在に興味深々のコンだが、もとは狐である。
ふむ、ならチョコレート系は避けた方がいいか?
動物にチョコレートは良くない…って、ネットで見たことがある。
なら、無難にかき氷?
いや、ここはやっぱり…。
一瞬頭の中で自問自答を繰り返し、良さそうな物を選択する。
ケースの中身にあるのはどこのコンビニでも大体置いてそうな無難な商品。
外は餅に包まれて、中身は甘いバニラの香りとコクが人気のあのアイスを手に取った。
「じゃ、これにするか」
と、赤と白のパッケージの雪だるまが描かれた二個入りのアイスを籠に入れると、コンはぴょんっとその場でジャンプする。
籠の中を覗こうと必死でジャンプするコンは、どうやら選んだものに興味津々のご様子だ。
が、しかし。
籠の中が見える高さまでは飛べなかったので、すんなりと諦めた様子だ。
「ふふっ…。期待しておるぞ?」
妖艶にほほ笑むコンは正直可愛いと、思ってしまった。
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