第3話 変態のレッテルと母心(2)

「突然の事で理解し難いとは思います。ですが、どうかそのようなモノであると納得していただけると幸いです」


彼女はそう言うと、また深く頭を下げる。


「急に神様とか言われても~困る~…。ってか、あたしら掃除しにきたんだけど腹減ってるから~とりあえず、ご飯食べていい?おなかぺこぺこだし~…」


 こちらは相変わらずのマイペースさで、花奈は持ってきたリュックサックを下ろし、境内の上にレジャーシートを敷いているところだった。


「あ、たっちゃ~ん、神社の中ってレジャーシートいいんだっけぇ?」


 気だるげに問いかけると、樹の方も困惑した様子で続けた。


「ふぅ…。何が何やらさっぱりだけど、そうね。とりあえず、お弁当持ってきたから一緒に食べましょう?それからでいいから、詳しく説明して頂戴。それと花奈ちゃん、そういうのはあたしじゃなくて、そっちの美人さんに聞きなさい」


 何とかこの場を収めようと、樹もリュックを下ろし境内へと上がる。


 すると久那妓さんは「構いません。そちらに行っても?」と問いかけてきた。


 神様と食卓を囲むとか、一体どういう状況なんだとますます混乱することになったが「いいにおいがするのぅ…」というコンの一言を切っ掛けに空気は一変し、ランチタイムは自然な形で開始することができた。


 とは言っても、俺もさっき稲荷寿司を食べたばかりであるのだが、まだお腹は空いていたのでご相伴に預かることにした。


 久那妓さんとコン、俺と樹と花奈はビニール製のレジャーシートの上に座り込み、後発組の二人が持ってきた弁当箱の中身を見て目を丸くする。


 稲荷寿司も十分美味しかったが、見た目で間違いなく手間がかかっているのが分かった。


 一段目には唐揚げやウィンナーやミートボールや焼き肉等といったお弁当の定番が。


 二段目には色とりどりの野菜やお肉を使ったものや、生クリームを挟んだデザート系のサンドイッチが。


 三段目には稲荷寿司が入っていて、ノーマルな稲荷、黄色い沢庵とレンコンのちらし寿司の入った物、刻んだ山葵菜を混ぜ込んだ物、かりかり梅とゆかりご飯の混じった物等バラエティーに富んでいた。


 目を輝かせて尻尾をブンブンと左右に震わせ「これ、食べてもよいのか!?」と期待に満ちた表情を浮かべ訪ねるコン。


 樹と花奈は顔を見合わせ、フッと息を吐くと、肩を上下させて脱力する。


「ええ、良いわよ。ほら、こっちへいらっしゃい。お姉さんが取ってあげるから、沢山食べなさい!」


 そう言って人数分の皿と箸を配って回る樹に、花奈はリュックから飲み物を取り出しコップに注いでいた。


「ジュースとお茶どっちにする~?とりあえず入れちゃうからテキトーに取ってねー?」


 テキパキと動き回る二人に感心しつつも、誰がお姉さんだ!と、心の中でツッコミを入れ樹に手渡されたお皿とお箸を持ってどれから食べようか?と悩んでいると、久那妓さんも手渡された皿と箸を眺めて、尻尾をぱたぱたと控えめに揺らしているのを見て和んだ。


 細かいことを気にしていないコンは、お弁当の中身に興味津々な様子で「これはなんじゃ?」と一つ一つ指差すと「これは唐揚げ。鶏肉に衣をつけて油で揚げたものよ。こっちはサンドイッチ。パンに野菜やお肉を挟んだものよ。甘いのもあるわよ!」と、律儀に一つずつ答えていて、樹の面倒見の良さが発揮されていた。


 一個ずつ丁寧に説明してくれる樹の言葉にいちいち反応するコンを見て自分の口元が緩むのが分かる。


「四季っち…やっぱ、ロリコン…」


 と、花奈がこぼしながらこちらをジト目で睨みつけてくる…視線が痛い。


「いや、あれを見たら誰だってそうなるだろ!」


 コンが可愛いのが悪い。


 そう、可愛いは罪なのだ。


「まあ、それはそうねー…この子、コンちゃんっていうの?んもぅ、めちゃくちゃ可愛いわ~…ほら、こっちもお食べなさい!これ、ローストビーフっていうとっても柔らかいお肉をステーキソースとヨーグルトソースで和えた自信作よ~!」


 そう言ってコンの目の前にサンドイッチを取り分ける樹。


 コンも樹から素直にそれを受け取ると”はぐっ!”と勢い良くパク付く。


「ふぁああああ…ぁああはぁああぁあ……っ!」


 頬に手を当てて、咀嚼しては目を輝かせてるコン。


「こ、これも美味いのぅ~!おおっ、こっちも舌の上でとろけて…はぁああ…もっと食べてもよいか!?」


「ええ、沢山あるからどんどん食べて?」


 それを眺める樹は、目を細めとても優しい顔つきをしていた。


 花奈は花奈で久那妓さんの方にも飲み物を配ったり、サンドイッチや稲荷寿司を渡している。


「その…私まで頂いてよろしいのでしょうか?」


 困惑気味に伺う久那妓さんだが、料理を受け取った時に尻尾がぱたぱたと左右に揺れていて、期待を隠しきれていなかった。


 ケモミミ親子可愛い。


「大丈夫~。ってか、食べきれるかどうか分かんないくらい多めに作ってきたからぁ~、丁度いいかも~?掃除してたらどうせ腹減るし~、つまみながら~って考えてたから問題なっしん~?」


 何故疑問形なんだ。


 という花奈の言葉を聞いて、おずおずと久那妓さんも割り箸を使い料理に手を付け始めた。


「これは…大変美味しゅうございます…」


 まずはシンプルな稲荷寿司から口にした辺り、親子だなぁ~と思いながらも、久那妓さんは少しずつ他の料理にも手を出していく。


「こちらは…ほぅ、蓮の根を刻んだ物と…沢庵?こりこりとしていて…食感がいいですね」


 あっという間に一つ食べ終えるとすぐに次へ。


「これは…紫蘇?若梅の食感とほのかな酸味が鼻に抜けます…癖になるお味ですね」


 一個食べる毎に耳がピコピコ動き、尻尾はゆっくりと左右に揺れる。


「ってか、久那妓っちもコンちゃんも美味しそうに食べるからぁ~作った甲斐があるぅ~」


 久那妓っち…て、おいおい。


「いえ、とても美味しくて…すみません、年甲斐もなくはしゃいでしまって…」


 口元に手を当てて頬を赤らめる久那妓さん。


 今更恥ずかしがっても仕方があるまいて。


「しかし、本当に美味しいよ、これ。わざわざ作ってくれてありがとな!」


 実際に頂いたものは本当に良く出来ていて、非常に美味しかった。


「へっへ~ん、たっちゃんと一緒に前日から仕込んでおいたのだぁ~。ブイ!」


 花奈は両手でピースしてウィンクしていた。


「そうなのよぉ~…花奈ちゃん、また腕上げたわねぇ~このハンバーグも冷めても柔らかくて美味しいわぁ~…って、それどころじゃないでしょ。まずは説明してもらわなきゃじゃないの!」


「あ、忘れてた~!だるぅ~ってことで、四季っち説明よろ~?」


 急に冷静になる樹。


 それを見て一瞬だけ便乗していた花奈だが、マイペースにミートボールやハンバーグを口に放り込んでいる。


 俺は俺で少しずつつまんでいたのだが、説明をと言われても正直良くわからん。


 そう思い視線を久那妓さんの方へ向けると、何個目になるか分からない稲荷寿司を頬張り、急いで咀嚼すると「こほん!」と咳払いをしてこちらに向き直った。


「…あまりにも美味しくて…お恥ずかしい所をお見せしてすみません。とりあえず信じて頂けるかどうかは分かりませんが、こちらをご覧になって頂けますでしょうか…?」


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