第3話 変態のレッテルと母心(3)
「…あまりにも美味しくて…お恥ずかしい所をお見せしてすみません。とりあえず信じて頂けるかどうかは分かりませんが、こちらをご覧になって頂けますでしょうか…?」
久那妓さんはそう言って立ち上がると、二、三歩後ずさりそこで静止する。
「…解!」
短く何かを口にしたかと思えば、刹那青白い閃光が放たれる。
「ちょ、まぶしっ!」
「わっ、なにっ!」
眩い閃光を直視してしまった俺達はチカチカと明滅する視界を取り戻そうと、両目を擦り視界を確保する。
二、三度擦れば幾分かましになり、ぼやけてはいるが視界がクリアになってくる。
「母様~」
と、尚も呑気なコンの声を聞き、視線を戻すとそこには天井まで届きそうな程の巨大な白い狐が先ほど久那妓さんが佇んでいた場所にちょこんと行儀よく収まっていた。
「え?どゆこと?」
花奈がそう言うと続けて樹も驚いた様子で言う。
「…驚いたわね…まさか本当にこんなことが起こるなんてね…四季ちゃんの冗談だと思っていたけど、これは…久那妓さん、よね?」
と、樹が尋ねると巨大な狐は一言「きゅお~ん!」と鳴くと、また眩い光に包まれる。
やがて光が収まり、視界が戻ってくると「母様~母様~母様~っ!」と、言いながらコンが駆け寄って行き、コンの傍には久那妓さんが先ほどと同じように立っていた。
「驚かせてしまい申し訳ございません。一応これが私の本当の姿です。人とは違う存在であり、神の様なモノである事はご理解いただけたでしょうか…?」
呆気に取られてしまい、俺を含め他の二人も目を白黒させて、今のが現実なのかどうか疑っているところだ。
「全員で夢でもみてるんじゃなければ、間違いなく今のは本物だったな…?」
俺がそう言うと、花奈は久那妓さんの方へ歩いていくとジロジロと頭の先からつま先まで眺め、久那妓さんの周りをくるくると回って観察していた。
「ってか、今のでっかい狐~どう見ても、久那妓っちだったよねぇ~?」
言葉を区切り久那妓さんは続ける。
「その、そんなにじっくり見られると恥ずかしいのですが…、ですが無理もありませんね…」
そう言うと、久那妓さんはぐいぐいと前のめり気味に押し寄せるコンを抱き寄せ「これ、コンご飯粒が付いてますよ…動かないで!」と、娘の頬からご飯粒を取り、それを口に運ぶ。
「んふふ~!」
と無邪気なコンを「全くこの子は…」と、再び撫でながらこちらに視線を向ける。
「その、信じて頂けたでしょうか…?」
と、若干不安そうにこちらの様子を伺う久那妓さん。
その様子を見て、率先して口を開いたのは樹だった。
「…正直、あれを見てもまだ半信半疑といったところだけど…」
樹はそう言うと視線を巡らせ、皆の表情を伺っている。
「さっきコンちゃんの耳とか尻尾とかを観察してみたけど、明らかに皮膚から直接生えていたし、偽物じゃないのは確かよねぇ。久那妓さんの今のやつも四季ちゃんが用意したドッキリだとは思わない程リアルだったし…でも、そうなると変なのよぉ…」
腕を組み、しなを作り考え込む様に目をつむるって続ける。
「その、神様だったとしてそれが、どうして私たちの前に姿を見せたわけ?今までずっと見えなかったわけでしょう?なのに私たちの前には現れた…これってどういうことなのかしら?」
確かにそうだ。先ほどから俺もその部分が気になっていた。
コンに急に神だ何だと言われても、顕現した目的がはっきりしておらずモヤモヤしていたのだ。
樹が問いかけると久那妓さんが答える。
「その事についてお話する前にまず私達親子の現状をお話しさせて下さい。お恥ずかしながら…昨今の現代化による影響で信仰心や信者は減り、私達の様な古い存在は忘れられつつあります。そのせいで土地神としての力が衰えてしまっているのです…」
確かに殆ど手つかずの山の頂にわざわざ足を運んで拝みに来る様な物好きはそうそういるものじゃない。
現に俺もばあちゃんの代わりでなければ、好き好んで登山をする気は無かったし。
久那妓さんは表情を曇らせ少し俯く。
だが、一瞬だけ曇ったその表情も娘には見せまいと、気丈に振舞うかのように慈愛に満ちた母親の顔をコンに向ける。
「次世代の土地神であるこの子も、信仰無き今となっては希薄な存在になりかねません。私達は人々の信仰によってこの地に留まり、その恩恵を授けることができるのですが…今となってはもはやその力もあと僅かしかありません。正直、このままだと消滅するしかないでしょう…」
「母様?」
コンは久那妓さんの顔を不思議そうに見上げると、ニコっと笑うと、尻尾をブンブンと振ってその胸に顔を埋める。
久那妓さんは「これこれ…!」と困惑した表情を浮かべるが、すぐに真面目な顔に戻り続ける。
「ですが、まだ現状維持できる程度には猶予があるので、信仰に関しては急を要する訳ではないのです…その、今年は三人来て下さったので多少力を回復することが出来ました…」
久那妓さんは俺らを見渡して続ける。
「すみません。それも問題ではあるのですが、実はそれだけではないのです…」
「と、言うと?」
樹が真面目な顔をして促す。
「実は、こちらの方が問題でして…。この社に祀っているご神体が、何者かに盗まれてしまったのです…」
久那妓さんは「ふぅ…」と息を吐いて続けた。
「この社のご神体である仙狐水晶なのですが…この地に巡る邪気や悪鬼といった邪なモノを封じ、制御する役割があるのです」
「ご神体?」
「そうです。四季さんは先ほどご覧になられたかと思いますが…そちらのご神体を安置する社の金具が折れ曲がっていましたよね?実は、何者かが無理やりこじ開けたせいなのです…」
「ほんとだ~折れてる~ぱしゃ!」
マイペース過ぎる花奈は、久那妓さんの言葉を聞いてすぐに社の前まで行くとその状態をスマホで写真に収める。
「本来なら、意識妨害と言いますか…正当な理由が無い限り、ご神体へ手を加える事は出来ない結界が張ってあるのですが、丁度私の力が弱まり、一時の眠りについた時に何者かが侵入してしまったのです…」
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