第45話 コンビニダンジョンと0MP

 コンビニの中は相変わらず贅沢というか、快適に過ごせるようにとエアコンが良い感じの温度に調節されており、蒸し暑い外の空気から一気に開放されて、汗がスッと引いくのを感じる。


 ひんやりと涼しい店内は軽快なBGMと、繰り返し流れる販促の店内放送が流れており聴いているとなぜかちょっと癖になりそうな気がする。


 多分それが目的で意識の刷り込み、サブリミナル効果を狙って同じ音楽を何度も流しているという物だろうが、どうしてコンビニに寄ると毎回あのホットスナックのケースに入っているチキンが食いたくなるのか、ちょっと分かった様な気がした。


 と、俺がどうでもいい事を考えていると、コンは文明の利器の力によって完全にとろけ顔である。


 尻尾をぱたり、ぱたりとゆっくり左右に振りながら、耳をぴこぴこと小刻みに揺らし、目を細めて今にも床に突っ伏しそうな程店内に入った瞬間からリラックスしていた。


 駄目だこの神様幼女、文明の利器の便利さに触れ過ぎて、野生に返せなくなっちゃう!


「おい、こら…快適なのは分かるが…絶対にそのまま寝そべるなんてことはするなよ?」


 だらけ切ったコンの顔を見て、放っておくとそのまま床に突っ伏して寝そべりそうだったので、釘を刺す。


「なっ!そ、その様な事神であるワシがするわけがなかろう!?ただちょっとその…外は暑いから…この、つるつるの床は…気持ちよさそうじゃのぅ…と、思っただけじゃ!」


「寝そべる気満々じゃねーか!いいから大人しくしてるんだぞ…?ほら、メープル味買うんだろ?ちょっと待ってろ…はぁ…」


 案の定である。


 図星を突かれたコンは頬を紅潮させて、腰に手を当て唇を尖らせると、尻尾を素早く動かし、図星を突かれたことで気まずくなったのか、そっぽを向いて視線を反らす。


 若干呆れ気味に俺がそういうと、コンは流石に寝そべる様なことはしなかったが、今度はガラスの壁にもたれかかり、頬っぺたを引っ付けて、涼んでいた。


「うはぁ~…ひゃっこくて、気持ちいいのじゃぁ~…」


「もういいや…頼むからそこで大人しくしててくれよ…はぁ…」


 と、俺は半ば諦めモードで手で顔を覆い、二、三回首を左右に振りため息を吐くと、目当ての物を探しに行く。


 入口から入ってすぐのレジ前付近に目当ての物は陳列されていた。


 黄色い箱のブロック状のカロリー調整ビスケット。


 一箱四個入りのその味はチョコとメープルとチーズといったオーソドックスな品揃えで、俺は迷わずメープル味をチョイスする。


 コンの分と俺の分とで一応多めに買ってストックしておこう。


 俺はメープル味だけ四つ程手に取り、小脇に抱える。


 すまんな、緑と白のコンビニ中央区駅前店付近のメープル愛好家諸君。


 ここのメープル味は俺らが買い占めてしまったぜ…。


 と、いるのかいないのか分からない愛好家諸兄に心の中で謝罪を述べつつ、目的を達成すると、冷蔵の棚から飲み物…コンはスポーツドリンクでいいか…と、自分用の緑茶とスポーツドリンクのペットボトルを取り出し、レジに並ぶ。


 駅前だけあって、やたらと人が多く、店内は人がそこかしこに溢れており、俺が列に並ぶとなぜかそそくさと他の客もレジに並び始める。


 コンビニあるあるだと思うのだけど、何なんだろうな、この現象。


 最初こそレジ待ちの列には三人程並んでいたのだが、空いているレジの内二つを店員が効率よく回し、スーツを着た男性と、同じくスーツを着た女性、それとおばあさんがレジに並んでおり、おばあさんの側のレジは若い外国人の男性店員が対応しており、レジの操作に慣れていない感じが見て取れた。


「ゴヒャクニジュウゴエンデース、オバアサン、アリマスカ?」


「え?電子マネーで頼むよ?」


「Oh!ワカリマシタカー!?」


 片言の外国人店員よ、何故疑問形なんだ。


 慣れない手つきでレジを操作しつつ、電子マネー支払いのボタンを押した店員の姿を確認すると、タッチ端末にスマホをタッチして支払いを済ませるおばあさん。


 おばあさんだからと侮っていた…電子マネーを使いこなし、ポイントカードまで常備していた。


 むしろ列に並んでいる時から既に準備しており、店員である外国人よりも支払いやシステムに馴染んでいた。


 恐るべし適応能力!


「アリガトゴザイマシター!マタコイヨー!」


 そこはタメ口なのか!


 ツッコミ所のある店員の口調が気になりつつあるが、シャリーンと音が鳴り、おばあさんの会計が終わると次は俺の番だ。


 手に持った四つのメイプル味と、二本のペットボトルをレジに置くと、商品を手に取り、バーコードを読み取っていく店員。


「アリガトゴザイマース、フクロハアタタメマスカ?」


「いや、袋はいるが温めるな!」


「スミマセーン、マチガエマシタ!」


「頼むぞほんと…」


 素なのか天然なのか分からなかったぞ…。


「オハシツケトキマース!」


「なんでだよ!?」


「フォークノホウガヨカッタカ?」


「そこじゃねえよ!」


「ニホンゴムツカシイ…」


 商品のバーコードを読み取り袋に詰めて行く店員。


 メイプル味のブロックを纏めて袋に入れると、顔を上げてそう言ってくる。


 これはあれだ、本人は至って真面目に頑張っているやつだ。


 ただちょっとだけ、日本語が不自由なだけだ。


 そこを責めるつもりは毛頭ないが、素っ頓狂な事を言われるとなんだかなあ…という気持ちになってしまった。


「はぁ…とりあえず、それ通したら電子タバコもくれ…そこの黒いやつと、替えのタバコも頼む…」


「リョウカイシマシター!」


「そこは分かるのか…」


「コチラアゲタテデース!」


「いや、チキンじゃねえから!」


 綺麗な三段落ちを披露してくれた店員に、見事にツッコミを入れると、並んでいた後ろの他の客から少しだけ笑いが起こったのを感た。


 俺は頬まで赤く染めて、恥ずかしい思いをしてしまったのだが、もうさっさとこの場から立ち去ってしまいたいと、心の底からそう思ったのだった。


 全く…店員といいコンといい朝から中々MPを削ってくれる展開じゃないか…。


 俺はコンビニという現代社会のダンジョンに迷い込んでしまったようだ。


 いや、店員に悪気があるわけではないのだろうけど流石に付き合いきれんぞ…。


 俺は手で顔を覆い、溜息を吐いて指さしで電子タバコ用の機械と専用のカートリッジ式のタバコを指さして指示を出す。


「これとこれをくれ…。あと、袋も頼むぞ…」


「アア、コレトコレネ!イッコデイイカ?」


「ああ、それで頼む…」


 ピッ、ピッとバーコードを読み取り金額が表示されると、店員はそれを読み上げる。


「ゴウケイ、三千九百八十円デース!」


 俺は財布からカードを取り出して端末を指さし、支払いの方法を伝える。


「クレジットで」


「ワカリマシター!」


「アリガトゴザマシター!レシートハドゴザイマスカ?」


 どございますか?とは一体何だ?と突っ込もうとしたが、これ以上長居すると俺のMPが尽きてしまうので、首を左右に振って要らないとジェスチャーで要らないと伝えると、店員は軽く一礼して次の客を呼び込んでいた。


「オマチシマシタ!ツギノヒト、キタヨ!」


 もはやわざと間違えているのか?と言いたくもなるがここは我慢だ。


 はぁ…朝から無駄に消耗してしまった…。


 袋に入った商品を左手に持ち、入口付近のガラス窓で涼を取っているコンを迎えに行く。


「ぬぁぁ…わし、ここに住むのじゃ…これはひやっこくて最高じゃあ…のぅ…」


 と、完全にだらけ切って窓ガラスにむにむにの頬っぺたを張り付けて、頬ずりしているコンの首根っこを引っ掴み、無理矢理引きはがす。


「ほら、樹も待ってるし早く行くぞ…って、だから窓を舐めるな!」


「ぬあっ…!良いではないか窓ぐらい!れろっ…!うむ、冷っこくて気持ち良かったのじゃが…味はせんのうぅ…」


「当たり前だろうが!まあ、いいや…とりあえず、行くぞ?」


 色々言いたいこともあったが、店員とのやり取りにMPを奪われてしまった俺はもう突っ込む気力も起きない。


「はぁ…俺のMPはもうゼロだよ…」


「えむぴぃ?とはなんじゃ?」


「そこは突っ込むな…流してくれ…」


 心の声が駄々洩れになってしまっている…いかんいかん…これはちょっと、糖分を補給して休憩せねばなるまいて…。


 俺はコンを小脇に抱え直し、そのままコンビニを後にしたのだった。


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