第44話 待ち合わせと意識高い系幼女と勘違い

 さて、待ち合わせは中央区にある駅近くのコンビニのはずだが…お、さっそく発見。


 見慣れた緑と白の看板が目印の骨なしチキンが名物のコンビニの入口付近でスマホに目を落としていた見慣れた人影があった。


「おーい!樹ーきーたーぞー!」


「だーっ!こら、危ないから窓から身を乗り出すな!」


 と、コンがボタンを操作して窓を開けると、窓から身を乗り出して勢い良く腕をブンブンと大きく振る。


 俺の必死の静止にもお構いなしのコンは、元気に笑顔で手と尻尾をリンクさせるが如くブンブンと振りまわしている。


 俺はせめてもの抵抗というか、何か事故があってはいけないと気が気でなかったので、スピードを気持ちゆっくり目にして、コンビニの前に車を横付けてハザードを付ける。


 樹は今日も暑くなるのを見越してか、白地に黒色のボタンがアクセントのシンプルなワイシャツに、一昨日履いていた黒のスキニージーンズを着ていた。


 浮かぶ大胸筋がぴっちりとシャツに張り付いており、窮屈そうだったが、屈強な感じが見て取れてとても似合っていた。


 膝の辺りに一部の破れがあるが、筋骨隆々の樹がそれを着ていると、それもまたダメージジーンズの様で見事に様になっている。


 肩からは黒い革製のショルダーバッグを下げていたが、こちらも下げているというより、身体に張り付いているといった印象を受けるが、白のシャツにワンポイントとして見事に生えており、色味を意識したモノトーンコーデと言われればとても似合っていた。


 その声に気が付いた樹は、スマホから顔をあげるとコンの方にニコリと笑顔を向けて近づいていき、少し屈んで目線を合わせてから、挨拶を返していた。


「あら、お出迎えありがとうコンちゃんおはよう。でも、危ないから車から身を乗り出しちゃ駄目よ?」


「樹おはよ、なのじゃ!」


 と、分かったのか分かってないのか、悪びれた様子は無く、コンは相変わらず能天気にニコニコとほほ笑むだけだった。


「四季ちゃんもおはよう。今日は作戦会議って言ってたけど…手がかりは掴めたのかしら?」


 と、樹が窓越しにこちらに問いかけてくると、俺は丁度その事も話そうとしていたので、後ろのドアを開けて樹を車内に招き入れる。


「ああ、丁度その事も話すつもりだったんだ。とりあえず乗ってくれ。花奈はどうした?まだ来てないのか?」


「ええ、今お手洗いに行っているわよ。もう少ししたら来ると思うから待って頂戴ね?」


 俺の質問に答えると、樹は素直に後部座席に乗り込み、シートベルトを装着して座り込む。


「了解…あ、俺も買うもんがあるから、車見てて貰っても良いか?」


「ええ、いいわよ。いってらっしゃい」


 樹に了解を取って俺はシートベルトを外し、車から降りる。


 俺の動きを目で追っていたコンは、俺の真似をしてシートベルトを外すと、こちらを凝視していた。


「サンキュー助かるよ。すぐ戻るからコンは樹と待ってるんだぞ?」


「じーっ…」


 樹に礼を言って、コンに待てを命じてからコンビニへ向かおうとすると、後ろ髪を引かれる様な気がして振り返る。


 すると、窓枠に手を乗せて、お尻を突き出し、尻尾を悩まし気にふよんふよんと揺らしながら眉根を寄せ何かを訴えたそうな何とも言えない表情を浮かべたコンがとにかく凝視していた。


「じーっ…!」


「あら、コンちゃんも行きたいのかしら?」


 見かねた樹が声をかけると、コンは分かりやすく嬉しそうに尻尾をブンブンと振り動かして言う。


「ワシも行っても良い…かの?」


 おいおい、こんなに分かりやすいやつは他に居ないぞ…。


 樹も居るし、たった数分くらい待たせるくらいそんなに大した問題でもないと思うのだが…まあ、一緒に行くくらい別にいいか…。


 ただこれから買う物は出来れば子供(?)には悪影響を与える可能性があるからあまり購入するところを見られたくはなかったのだが…。


 俺は両手を広げてさもありなんといった様子で、息を吐き出し言う。


「ああ、いいぞ」


「わーい!なのじゃ~!」


 ぶんぶんと揺れる尻尾が更に激しく揺れ動き、両手を上げて万歳をするコンが、開いた窓からそのまま飛び出そうとするのを押さえつけ、助手席のドアを開き、そこからちゃんと降りてもらう。


 助手席の足元に置かれていた俺のリュックから財布を取り出し、それだけ持って扉を閉める。


「わーい!って…子供か!」


「子供じゃないもん、ワシ土地神様だもん!」


「はいはい…わかったよ…」


 分かりやすくはしゃぐコンに突っ込みを入れると、ぷりぷりと頬を膨らませて腰に手を当て、抗議するかのように尻尾を俺の身体に叩きつける様にブンブンと動かして見せるコン。


 そんな様子に苦笑を堪え、コンの頭に手を乗せてぽんぽんと軽く撫でてやる。


 一瞬ピクリと体が反応して、耳が揺れ動いたりもしたが、その後はすぐにいつもの様子で目をつむり、ぐりぐりと自分から手の方へ頭を押し付けて”もっと撫でろ!”と催促しているみたいだった。


「うー…たちゅきぃ…また、四季の奴が馬鹿にしおる…」


「ふふ、大丈夫よコンちゃん。コンちゃんがあまりにも可愛いから、四季ちゃんは照れてるだけだから…」


 樹に助けを求めるコンだったが、本気で嫌がっていないのは誰の目に見ても明らかなので、樹も若干苦笑気味に、フォローを入れてくれる。


 まあ、本当にちょっと恥ずかしい気持ちもあったので、図星を突かれると微妙に辛いのだが、そこは絶対に顔に出ない様にしよう。


 俺のそんな心情を知ってか知らずか、コンはぐりぐりと寄せ付けていた頭を離し、両手を頬に当てると身をよじり、くねくねと内股で身もだえし始めた。


「え、えへへ…そうかのぅ…ワシ、可愛いかのぅ…!」


「ええ、とっても。コンちゃんは今日も世界一可愛いわよ?」


 樹がそんな様子のコンを上手くおだててくれるおかげで、俺の恥ずかしい心情を吐露する事は無かった。


 言われたコンは満更でもない様子で、頬が緩み切ってふにゃふにゃなにやけ顔になっていたが、俺が行こうとするとハッとした表情を浮かべ、こちらに再び磨り寄って来ると、身体でしなを作ってふさふさの尻尾を俺の腰辺りに巻き付かせる様に這わせて言う。


「なーんじゃそうじゃったのかぁ…ふふ、ワシの魅力を前に照れておったのじゃなぁ~?ふふふ、可愛い過ぎるワシの為に、めいぷる味を貢いでも良いのじゃぞ?」


「やっぱりそれが目的かよ!」


 魂胆は見え見えだったが、一応ツッコミを入れつつ、コンの手を取り手を繋ぐ。


 手を繋ぐとコンは素直に俺の手を握り返して、巻き付けた尻尾を解除して、再び尻尾をふよんふよんと動かして言う。


「ふふふ…約束はしてもらったからの!こんびににめいぷる味が売っているのは確認済みじゃ!」


「お前…いつの間に…!?」


 どうやら全部計算済みの様で。


「ワシを侮るでない!先日のこんびにでの予習はばっちりなのじゃ!」


 どうやら一昨日の事を覚えていたらしい。


 食に対する意識が高すぎて、驚いた。


「流石大飯食らいの神様幼女…食べ物の事となると異常なくらいの記憶力だ…」


「ほっほっほ…そう褒めるでない!」


 そのせいで、思っていた事をそのまま口に出してしまい、コンにも聞こえてしまったようだった。


 コンは無い胸を張って空いている左手をポンと胸に当てって自信満々でそう言い放つ。


「いや、褒めてないが…」


 俺は若干呆れ気味にそう言うと、コンは口を開き漫画やアニメならガーンという効果音でも発生しそうな様子でフリーズして、がっくりと肩を落とす。


「なぬっ!そうなのかっ!?」


 と、振り向き樹の方に視線を移すコンだったが、微笑ましい漫才をいつまでも続けている俺達に樹は見かねて声をかけてきた。


「ふふふ…ほら、早く行ってきなさいな。路駐も長すぎるとお巡りさんが来ちゃうわよ?」


「あ、そうだった…すまん、ちょっと行ってくる!」


 樹に言われて慌てる俺の様子を尻目に、コンは相変わらず呑気にマイペースで、俺に手を引かれながらも、後ろを振り向いたまま、空いている左手を大きく頭上に掲げて左右に振ると元気よく言い放つ。


「行ってくるのじゃ~!」


「はいはい、行ってらっしゃい」


 と、漫画やアニメの様にコロコロと賑やかに表情が変わるコンに対して、樹も控えめに手を振りながらニコリとほほ笑み返すのだった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 作品のフォローと☆☆☆を★★★にする事で応援していただけると、ものすごく元気になります(*´ω`*)




 執筆の燃料となりますので、是非ともよろしくお願いいたします(*'ω'*)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る