第43話 メイプルゾンビと化かされ探偵

 結局パンケーキは自分の分を一枚丸々コンに食われてしまったので、二枚で我慢して、食後のコーヒーで一服しているところだった。


「ふぅ~美味しかった…腹も膨れたし…そろそろ本題に入りたいんだけど…ばあちゃん、どう?連絡取れた?」


 と、俺はカップを机に置いてばあちゃんの方に視線を向ける。


 ばあちゃんは俺達と同じくパンケーキを誰よりも嬉しそうに食べていた。


 普段は甘いものはそんなに食べないばあちゃんなのだが、このパンケーキだけは特別な様子で、コンと同じく今丁度お代わりを貰い二枚目に手を着けているところだった。


 筋骨隆々の筋肉ばあちゃんがナイフとフォークできちんと切り分け、一口大に丁寧に切り分ける姿を見ると、何かちょっとおかしかった。


 パンケーキをフォークで掬い、口に運び咀嚼すると、ばあちゃんはこちらに視線を向けて、ゴクリと嚥下してから口を開く。


「ああ、その事なんだけど、政さんのとこの息子さんねえ…最近家に帰ってないそうなんだよ…」


「まじか?」


 俺が聞き返すとばあちゃんはフォークをこっちに向けて、頬杖をついて言う。


「マジもマジ。大マジだよ。ガラの悪い連中とつるむ様になってから、仕事もすっぽかして帰ってこないんだとさ。政さんも困ってるみたいだよ?」


 言い終わるとばあちゃんは再びナイフでパンケーキを切り分け一口、また一口と口に運ぶ。


「にしても。本当にこれは美味しいねえ…あたしゃこれの為にトレーニングしてるみたいなもんだわさ!」


「もう、母さん大げさですよ。はい、追加分焼けましたよ。熱いですから気を付けてくださいね?」


 母さんが追加で焼いたパンケーキを運び、ばあちゃんの所に持ってくると、先程までまだ半分くらい残っていたパンケーキはもう消えていた。


 いつの間に食べたんだよ…。


 と、多少大げさに誇張してはいるが、本当に好きなんだろうなというのが伝わってきた。


 確かに美味しいから納得なのだが、それはそれとして政さんの息子さんにコンタクトが取れないとなると、バッドウルヴスの情報を集められない…これは困った。


「んー…なんとか連絡つかないの?」


「そりゃ、あたしに言われても仕方ないさね。そんなに会いたいなら直接政さんのとこに行って聞いてみりゃいいじゃないの。どこに行ったかは分からなくても、行きそうな場所のアテくらいはあんじゃないのかい?」


 と、ばあちゃんは会話を早々に切り上げ、新たに追加されたパンケーキに夢中になっていた。


「んー…そうだな…一度政さんのとこに行って聞いてみるか…よし、それじゃさっさと向かうか。ごちそうさま…時は金なり善は急げだ!」


 そう言って立ち上がり、コンの方に視線を移すと、フローリングの床に仰向けに寝そべり「もう食えんのじゃー…」と、お腹を膨れさせて満足げにさすっているケモミミ幼女。


 もはや完全に野生では生きていけない飼いならされた猫の様だった。


「ま、大丈夫だとは思うけど気を付けな。あんたまでガラの悪い連中に絡まれたら大変だからね」


 と、ばあちゃんは一応心配してくれている様子だ。


「おう、まー危なくなったらすぐ逃げるよ。何とかやってみるさ」


「ま、がんばりな」


 と、一言言うと新たなパンケーキを切り分け、一口また一口と舌鼓を打ち「んー…うまい!」と、感嘆の声を上げていた。


「おい、コン…とりあえず、政さんの所に行くからさっさと起きろ…!」


 と、ごろ寝してくしくしと手の甲で顔を洗っていたコンに声を掛ける。


「ふぇ…わかったのじゃ…!くぁ~…!」


 目を丸くして欠伸をするコンに本当に「お前は猫か!」と、突っ込みたくなってしまったが、これ以上話がややこしくなっても面倒なので心の中に止めておいた。


「何とかコンタクト取れたらいいけどなぁ…」


 俺は目の前にあった僅かな希望が潰えてしまい、また振り出しに戻ってしまったショックから願望が漏れてしまい、がっくりと肩を落とす。


「なんじゃ、四季、元気出せ!何とかなるのじゃ!」


「ああ、そうだな…ありがとう。コン…」


 コンは立ち上がり、手櫛で乱れた髪の毛をくしくしと整えるて言う。


 俺は能天気に明るい根拠のない励ましを受けて、空返事を返し部屋に荷物の入ったリュックを取りに戻るのだった。


 ◇


 荷物を取りに戻って、車に放り込むと昨日と同じく窓を全開にして軽く換気する。


 時刻はもう午前十時を回っており、軽く車のボンネットを触ってみたが、朝だというのにもう既に熱を持ち、むわっとした熱気が籠り車内はさながらサウナの様だった。


「とりあえず、政さんのとこに行く前に樹達を拾うぞ。今日は三人同じ車で移動だ。情報共有しながらの方が後から報告する手間が省けるからな」


「あーい、なのじゃ!」


 俺がそう言うと、元気よく右手を上げて返事をしたコンは、慣れた様子で助手席のドアを開き、そこにピョンと飛び乗ると、シートベルトを自ら装着して、出発の時を待っていた。


 コンは耳を小刻みに揺り動かし、尻尾をぱたぱたと振って期待に満ちた表情でこちらを覗き込んでおり、顔にうっきうきとか、わくわくとか書いてある様に見えるのだが、遊びに行くわけじゃないんだぞ…?


 あ、違う。


 この顔はあれだ、車に乗ればメイプル味のビスケットが貰えると思っている顔だ。


 だからか…昨日微妙に嫌がっていた車移動なのに、今日はやけにすんなり乗るのか…。


 全く現金な奴だ。


 朝から俺のスフレパンケーキを奪い取り、結局五枚も平らげたというのに、もう次のおやつ待ちとは…。


 まあ、メイプル味のビスケットなんて安い物だから別に良いのだが、どんだけ食うんだよという好奇心より、あんなに食べて大丈夫か?という心配の方が強くなってきたぞ。


「その期待に満ちた顔をやめなさい…今日は無いぞ?」


 と、俺が言うとコンは脳天に落雷が落ちた時みたいに首をがっくしと落として項垂れる。


 先程まで元気よく動かしていた尻尾も、だらんと垂れ下がりやる気を失っている様子だった。


 仕方ないだろう?昨日結局あの後時間が無かったので買い足してないのだから。


「な、なぜじゃぁ…ワシ、あれが唯一の楽しみじゃったのに…」


「あのなぁ…昨日お前が食ったからだろうが…」


 口をへの字に曲げて、完全に目から輝きが消え、まるでこの世の終わりみたいな顔をしているコンに呆れつつも、声を掛けたのだが聞く耳どころか完全に戦意喪失している様子だった。


「駄目じゃ…ワシあれがないと、もう生きていけぬ体になってしまったのじゃ…。み、見ろ…こんなにワシの手は震えておる…めいぷる~めいぷる味をよこせ~と訴えかけておる…」


「メイプルゾンビかお前は!あ~もうっ…!後で買ってやるからちょっと我慢しとけ!」


 俺がそう言うと、コンは先程までの様子とは打って変わって、耳と尻尾をピンと尖らせぱたぱたと動かし表情もけろっとしたいつもの元気なコンに戻り、目はきらきらと期待に輝いていた。


「ぬっふふふふ…流石四季なのじゃ~!分かっておるではないかぁ~!」


 尻尾で俺の左腕を軽くぺしぺしするのをやめさせて、とりあえず換気が終わった車内の窓を閉めエアコンをかける。


「ったく…さっきのこの世の終わりみたいな顔は何だったんだよ…完全に化かされた気分だ…」


「ほっほっほ…ワシは狐じゃからの!化かすのは得意な~のじゃ~!」


 こりゃ完全に一本取られたわ。


 幼いとはいえ化け狐だ。


 演技はお手の物という訳か。


 職業探偵の俺の目を欺くとは中々やるじゃないか…。


 まあ、メイプル味くらいで期限直してくれるなら安い物だ。


 ここは素直に化かされておこう。


 それが大人ってもんだろう?


 決して、ちょっと悔しいとか…お、思ってないんだからな?


 と、心の中で自分に言い聞かせて、車を発進させて樹と花奈を迎えに行くのだった。


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