第42話 初めてのブラックと甘々カフェオレ
俺は顔を洗い、軽くうがいをしてキッチンに戻ろうとすると、コンも後ろにぴったりとくっついてきて、俺がしたように同じく顔を洗い、軽くうがいをしてどこか誇らしげにしていた。
「つっやつやーぴっかぴかーごろごろぺーなのじゃぁ~!」
謎の歌まで歌い出してご機嫌の様子のコンは、どうやら相当に期待が高まっている様子だ。
「おい、コン顔洗ったらさっさと席に着け!出来立ての一番おいしい時を逃したら勿体ない!早く食べちまうぞ!」
と、俺が言うとコンはハッっとした顔をして、とととと、と急ぎ足でキッチンの方へと駆けていく。
「すふれぱんけーきのすっぺしゃるあいすー!なぁーのじゃー!」
と、両手を広げてキーンと言いながら走る昔の漫画の様な走り方で去っていくコンを見送り、俺もその後に続く。
席に着くと俺の分も用意されており、丁寧に盛り付けられたパンケーキは見た目もさることながら、匂いもばっちりで、メープルシロップの甘い香りが食欲をそそる。
「朝からヘビィーだ…って思ってた時もあったが、食べたらまじで軽くてびっくりするんだよなこれ…」
と、皿の上にあるパンケーキに備え付けのベリーソースをかける。
ラズベリーとブルーベリーの赤と紫のコントラストが、黄金色の生地に映え、甘酸っぱい香りと、赤と紫の色味が追加され、より美味しそうに見えた。
「では、頂きます」
と、手を合わせてフォークとナイフで切り分けて一口分を掬うと、しゅわっとした感触で、スッと溶ける様にすんなりとナイフが入る。
フォークに刺すというより乗せる感じで生クリームとソースを絡めてから口に運ぶと、口の中でトロリととろける食感の後に、生地と一体になったメイプルシロップの香りがふんわりと鼻を抜け、甘い生クリームの濃厚さをベリーソースの酸味がさっぱりと引き締め、軽やかな口当りを実現させて実に美味しかったの一言に尽きる。
「ウマッ!」
と、俺は思わず口から洩れてしまい、それを見ていた母さんも納得の表情を浮かべうんうんと頷き小さくガッツポーズしていた。
「ふふっ、四季お代わりもあるから良かったら食べて?」
と、笑顔で勧めてくる母さんに俺は指を二つ立てて追加を依頼する。
「あと…二枚頼む!」
「はいはい、じゃあ焼いちゃうわね?」
と、どこか嬉しそうに作業に取り掛かる母さんを尻目に、コンは初めて使う食器に悪戦苦闘していた。
最初こそ自分の似顔絵が描いてある事に興奮し、鼻息荒く尻尾を左右にぱたぱたと大きく揺らして目を輝かせて喜びを表現していたのだが…。
「うー…この、ないふとふぉーくとかいうのは…中々難しいのじゃ…」
と、右手にフォーク、左手にナイフを逆手に持って、フォークの背でパンケーキを潰して押さえ、ナイフで切るというよりもナイフを串の様にしてパンケーキに突き刺し、せっかくふわふわのパンケーキをぼろぼろにしながら眉間に皺を寄せ、口の周りに生クリームとチョコレートとベリーソースを付けたコンが苦々しい顔をしてこちらを眺めていた。
「うぅ~…」
「はぁ…ちょっと貸してみ?」
「しかし…」
「ほら、いいから…」
と、見かねてコンからフォークとナイフを渡す様催促すると、最初こそ抵抗していたが、次第にこれ以上は埒が明かないと観念したのか、素直に明け渡すコン。
「ほら、こっちのフォークで押さえて、ナイフで切る。ナイフは右手でフォークは左手だ。切り分けてやるから、フォークで刺して食べるんだぞ?」
と、既にコンの手によってぐちゃぐちゃになっていたデフォルメのコンが描かれたパンケーキを、食べやすい様に一口サイズに切り分けていく。
コンはその様子を興味深そうに眺め観察していたが、それほど量も多くない為すぐに切り終えて、ナイフを置いてフォークだけ手渡すと、素直に受け取った。
「ないふが右で、ふぉーくが左で…ぬぁ~頭が割れそうじゃ…」
と、耳をぺたんと閉じて早々に諦めてしまい、最終的にはフォークを使うどころか手掴みでパンケーキを頬張り、口一杯にパンケーキを詰め込み、生クリームで流し込むという、フードファイターもびっくりな食べ方をしていた。
「あらあら…そんなに美味しかったかしら?」
と、母さんはそんなコンの様子を調理しながら嬉しそうに眺めていた。
多少行儀は悪いとはいえ、ここは家の中だし汚したとしても後で掃除すれば良いだけの話だ。
美味しそうにパンケーキを頬張るコンは、にっこにこで満面の笑みを浮かべ、両手をソースでべとべとにしながら、次から次へと切り分けたパンケーキを口に運び入れると、もくもくと咀嚼してゆっくりと嚥下する。
その様子はさながらリスとかハムスターまんまで、神様の威厳とかそういうのはもはや完全に喪失していたと思う。
そんな様子を見ていると、俺の中でちょっとした悪戯心が芽生えてしまう。
いや、ほら、可愛い子には悪戯したくなるじゃないか…。
悪魔の囁きが俺をそそのかすと、俺はおもむろにカップに手を伸ばす。
「コン…とりあえず、このコーヒーと一緒に食うともっと美味しくなるぞ?」
と、パンケーキと共に用意していてくれたコーヒーを指さす。
砂糖やミルクはセルフサービスなので、もちろんブラックだ。
温度は入れてから時間が経っている為、若干温く感じるくらいだが、熱々で火傷されても困るのでこれくらいで丁度良いと思う。
コンは一瞬食べる手を止めると、頬袋一杯に入ったパンケーキを持っきゅもっきゅと咀嚼し、何も疑わず言われるがままにコーヒーの入ったカップを手に取ると、両手で持ち口を付け一気に啜る。
「おお、本当か!ふふ…もっと美味しくなるのじゃぁ~…ずずず…。ゴクゴク…ブフッッッ!って、に、にがっ!苦いのじゃ!なんじゃこれはぁ!?」
と、コーヒーを啜ったコンは口一杯に広がる苦みと渋みと酸味に目をくるくる回して吹き出し、尻尾の毛をブワっと逆立て、耳もピンと立ったかと思えば、小刻みにピクピクと震えると、二、三秒フリーズしてカップを置き、怒りの形相でこちらを凝視していた。
「し~き~…!!お主、やりおったなぁ~?」
と、形の整った眉を逆八の字に吊り上げて口の端からどす黒い液体だばーっと零しながら、何故か笑顔でこちらに詰め寄るコン。
あらー神様でも怒ると笑顔になるんだな~…。
ぴくぴくと口角を震わせて、こちらに詰め寄るコンの形相は、レッサーパンダの威嚇位の威力があり、怒っているのだが如何せん可愛すぎて全然怖くなかった。
「いや、すまんあまりにも美味しそうに食べてるもんだからつい…てへっ!」
「てへっ!で済むかこの大うつけ者がっ!ええい、そこに直れ!その腐った性根叩き直してくれるのじゃっ!」
コンは怒りながら自分の席からぴょんとテーブルを挟んだ向こう側の俺の席の前に飛び移ると、今にも噛みつきそうな程の剣幕でこちらを睨みつけ威嚇している。
「うーっ、うーっ!呪うぞー祟るぞー!」
と、コンなりに精一杯の仕返しをしようと画策している様子だが、俺はそんな様子ですら可愛く感じてしまい、一口大に切り分けた自分の皿に乗っているパンケーキを生クリームをたっぷりと付けて、無理矢理コンの口に突っ込む。
「こら、聞いておるのか!って、わぷっ!もっきゅもっきゅ…うまいのじゃぁ~…」
と、一口パンケーキを口に放ってやると、途端に怒りは空気の抜けた風船の如く、ぷしゅーと音を立てて鎮静化した様だった。
逆立っていた尻尾の毛や耳も、今は大人しく、しゅんとしていた。
「ほら~まだ追加くるからゆっくり食べるんだぞ~?ほら、また切り分けてやるからな~?それとコーヒーはそのまま飲むと苦いが、ミルクと砂糖たっぷりで飲むとまろやかで美味しいんだぞ~?」
「ぐぬぬぬ…もう騙されぬぞ…しかし、ミルクと砂糖たっぷりとな?…ふへへ…ちょっとくらいなら…試してやるのも良いかもしれぬのぉ…う~じゃが、また苦かったら…うー!四季のあほ!」
と、最終的には罵りの言葉を受けてしまったが、それでもコンはミルクと砂糖たっぷりという言葉に釣られて、結局母さんにカフェオレを作って貰うと、それを美味しそうにちびちびと舐め啜り、パンケーキも朝から五枚程平らげたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※お知らせ
【第2話 ケモミミ幼女、コン様見参!】に挿絵が付きました!(*´ω`*)
物語本編をフォローしていて、私をフォローされていないので通知が来てないよ!という方は是非ご覧になっていただけると幸いです。
作品のフォローと☆☆☆を★★★にする事で応援していただけると、ものすごく元気になります(*´ω`*)
執筆の燃料となりますので、是非ともよろしくお願いいたします(*'ω'*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます