第40話 風呂上りとおすそ分け

 コンを椅子に座らせてからニュースサイトの記事を一通り読み上げると、身体を反らして再び俺の顔を覗き込む様に言う。


「んで、これがどうしたのじゃ?薬やら酔っ払いやら…何か仙狐水晶に関係があるのかの…?」


 と、至極当然というか理解が追い付いていない様子だった。


「まあ、あくまで可能性の話で確証はないんだけど…ほらこれ見てみ?」


 と、俺は先程気になっていたニュースのページを開き、コンに画像を見せる。


「ほらこれ…狼の印が付いてるだろ?これ、今俺達が調べている組織のマークに似てないかと思ってな?」


 と、言って俺は画像を拡大しボールペンの引っかける部分を表示させると、狼の遠吠えのポーズをした印をコンに見せる。


「ん?だから何なのじゃ…?」


 と、いまいちピンとこない様子のコン。


 確かに仙狐水晶に直接関係があるかと言えば微妙なトコだが、これがバッドウルヴスの仕事の一つということが分かれば、もしかしたら警察も動いてくれる可能性があると思ったまでだ。


「まあ、薬を売ってる様な奴らが相手だと分かれば、警察も本腰入れて捜査してくれないかなと思ってな?」


「その警察が動いてどうなるのじゃ?仙狐水晶は返って来るのかの?」


 と、きょとんとした様子で問いかけるコンだが確かにコンの疑問も分かる。


「まあ、持ち主である地主さんに盗難品を認識してもらえば、時間はかかるだろうけど確実に戻って来るとは思うぞ?それじゃダメか?」


 と、コンの質問に答えると、コンは頬を膨らませて手足をブンブンと動かし抗議する。


「それじゃ、いつ戻るかわからんのじゃ!それじゃ遅いのじゃ…母様は今もずっと寝ずに昇華の作業をしておるのじゃ…」


 と、じたばたしたかと思えばすぐにしゅんと項垂れて、ピンと張っていた耳と尻尾もダラリと垂れ下がり元気が無くなってしまった。


「母様も言っておったが、なるべく早く元の状態に戻す必要があるのじゃ…」


「コン…」


 唇を鳥の嘴の様に尖らせて、しゅんと項垂れるコン。


 この様子を見ると、コンはコンなりに久那妓さんの事を考えて必死に頑張っているんだなと素直に思えた…。


「すまん、一応相手のやっている事を知れば、そこから突破口が見えるかもしれないと思ったんだ。警察の話はやっぱりなしで、とりあえず明日その組織に関係のある人物に接触してみるつもりだ。だからその時に淀みの気配の感知とかお前にしかできない事を頼んだぞ?」


 と、俺は項垂れている頭にポンと手を置き、わしゃわしゃと撫でまわす。


 すると、いつもは嫌がるコンだが今回は素直に俺のされるがままになっているどころか、頭を押し付けて逆にすりすりと擦り付けてきた。


「ま、安心しろ。絶対に取り戻すからな」


 と、俺が言うとコンは押し付ける動きをやめて、コクンと頷きそのまま俯いていたのだった。


 ◇


 とりあえず、pcの電源を落とし風呂に入った俺は、冷凍庫からスペシャルバニラアイスを取り出し一人で食べていると、先に寝ていたはずのコンが案の定台所にやってきて、俺の目の前で涎を垂らしていたので、仕方なく半分分けてやった。


「半分と言わず、全部くれても良いのじゃぞ?」


 と、流石に調子に乗っていたコンに俺は軽くデコチョップをかましてやる。


「きゃうん…!」


 と、情けない声を上げて、涙目になりながら大人しく自分の分のアイスを美味しそうに平らげていた。


「ふふふ…流石はすぺしゃるじゃぁ~!この、まったりとした甘さと何とも言えぬ舌触りと口溶け…えへへ…うますぎるのじゃぁ~!」


 と、両頬に手を当てて尻尾をブンブン揺らして身もだえするコンが可愛かったのでまあ半分くらいなら許容しよう。


「ったく、それ食ったら大人しく寝るんだぞ?」


 と、俺が言うとコンはこちらに向き直ると、きょとんとした顔でコンは言う。


「なんじゃ、今日は一緒に寝てはくれぬのか?」


 と、至極当然というか当たり前のことを言うかの様にコンは続ける。


「えあこんの効いた部屋で毛布に包まって、誰かの側で寝るのは心地が良い…というより、安心するのじゃ…」


 と、にんまりと笑顔を浮かべて言うコンだが、誰かの側って…ばあちゃんや母さんじゃダメなのだろうか?


「ばあちゃんや母さんじゃダメなのか?」


 俺がそう疑問に思い問いかけると、コンは首を横に振ってはっきりと否定する。


「とーこやハルが嫌なわけではないのじゃが、おぬしの所が一番落ち着くのじゃ!」


 と、さらっとそんなことを言うものだから、俺も強くは言えなくなってしまった。


 というか、こうも気持ちをまっすぐにぶつけられると、照れくさくて、これ以上何も言えなかったのだがそれは内緒だ。


「あのなぁ…まぁ、狭くなるが…コンが良いって言うなら…いいのか?」


「良いのじゃ!」


 と、そう言うコンはアイスの入っていた皿をべろべろと舐め取り、最後の一滴まで味わって逃さない様にと、なんとも意地汚い様な事をしていたが、自分の分を食べ終えると、シンクに皿を置いて水で軽く流してさっさと二階駆け上がっていた。


「はよくるのじゃぞ?先に行って待っておるからな?」


 と、途中で振り返ってそう言うと、にこっとはにかんで先に行ってしまった。


「ったく、しょうがねえなあ…?」


 と、アイスを食べて身体は冷えていたはずなのだが、頬がほんのり熱くなっているのを感じて、人差し指でぽりぽりと掻いて誤魔化す。


 コンの様子を観察してばかりいたので、スペシャルアイスはすっかり溶けて液状になっていたが、俺はそれを啜り取る。


 って、これじゃコンの事言える立場じゃないな…。


 と、軽く自己反省してから平らげると、同じくシンクに皿を置いて軽く水洗いしてから、スマホで明日は連絡あるまで作戦会議と樹達に連絡を入れて、自室に向かうのだった。


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