第30話 運動不足とえれべぇたぁ

 コンを撫でまわし、その撫で心地を堪能した俺は一度軽くコンの頭をぽんぽんと優しく撫でると、空になったペットボトルを受け取り、自販機の横の備え付けのゴミ箱にそれを放り、再び真夏の炎天下である屋外へと足を踏み出した。


「うし、また探すぞ。コン行くぞ?」


「あいなのじゃ!」


 と、水分補給により活発さを取り戻したコンは尻尾と耳をフリフリと動かし、俺の後を追って付いてくる。


 自動ドアを潜り、外に出ると直射日光とアスファルトの反射熱がじりじりと肌を通して伝わってくる。


 すぐに掌にはじんわりと汗が噴き出して、湿っぽくなっているのを感じ、不快感が高まる。


「んじゃさっきのとこから回るぞ。コンお前はそっちの列だ。頼んだぞ?」


「了解、なのじゃ!」


 と、再び先ほど作業を中断したA区画の列の続きから見て回る。


 大体一列あたり四十台程度の車が並んでいるので一列あたり二分くらいで見て回れる計算だ。


 キョロキョロと一台ずつステッカーのある車を探していると、この区画にはどうやら無いみたいだった。


 見落としていた可能性も無くはないが、ざっと見た感じでそれらしいものは無かったのでさっさと次の区画へと移動することにした。


「コン、次はそっちだ。移動するぞ?」


「うむ、分かったのじゃ…」


 と、コンは素直に俺の後にとことこ着いて来て、B区画、C区画、D区画と見て回る。


 全体を見渡す頃には大体二時間が経過しており、俺も全身汗だくでシャツが張り付いて気持ち悪かった。


「ないのぅ…すてっかぁ…」


 と、口を尖らせて俯くコン。


 陽射しは傾き、現在時刻は四時半。


 ほぼ真上にあった太陽も今では西日となっていて、少し雲が出て気温は高いが時折作られる陰に助けられて何とか屋外駐車場を制覇し、残すところ見て回る箇所も屋内駐車場のみとなっていた。


「まあ、そう言うな。後は屋内駐車場だけだ。もしかしたらもういない可能性もあるが、そん時はそん時だ」


「それもそうじゃの…」


 と、次の区画である屋内駐車場の方へとぼとぼ歩いていると、スマホに着信があった。


 ディスプレイには笹原の文字が。


 俺はスマホを操作し電話に出る。


「はい、もしもし。どうした、何かあったか?」


 と、尋ねると電話口の樹は少し興奮気味で、早口で言葉を紡ぐ。


「四季ちゃん、いたわ!見つけたわ!」


「本当か!?」


「ええ、間違いないわ!さっきの二人組!」


「今どこだ?どこに向かっている?」


「今は二階のアパレルショップを回っているトコ!そのまま尾行するわ!…あ、花奈ちゃんソコ右に曲がったわ!」


「あ、了解っす!そのまま追跡するっす!」


「ってことだから、そのまま追跡を続けるわね?四季ちゃん達は車見つかった?」


「いや、こっちは見つからなかった。徒歩の可能性もあるが、まだ見ていない箇所は屋内駐車場だけだ。とりあえず、俺らも二階の駐車場に向かう。引き続き監視頼んだぞ!」


「オッケーりょーかい!なんか刑事ドラマとかの張り込みみたいでわくわくするわねこれ…あ、動き出したわ!そっちも早めに追いついてね!それじゃ、また動きがあったら連絡するわ!」


「了解、バレない様気を付けて!んじゃまた!」


 これでようやく動ける!


 俺はスマホをポケットに放り込み、コンに声をかける。


「コン、二人組が見つかったぞ!とりあえず、今二階にいるみたいだ。俺達は屋内駐車場に先回りして行って、車を探すぞいいな?」


「うむ、任せるのじゃ!」


 と、返事をすると俺とコンは駆け出していた。


 ここから屋内駐車場へ向かうには少し距離があったが、何とか疲れた身体に鞭打って足を動かす。


 目的地に行くには今朝車を止めた所の入口から入って、そのまま右方面へ行きエレベーターを使って二階に上がる必要があった。


 スタスタと軽快に道行くコンに比べると、俺の足取りは重く体力の低下を実感せざるを得なかった。


「はぁ…はぁ…こんなことなら、鍛えておくんだった…」


 後悔先に立たずだと、心底思った。


 休日の昼下がりのショッピングモールの駐車場をダッシュで駆け抜けるオッサンと幼女の二人組…しかも、先程までキョロキョロと辺りを見渡して、目当ての車に乗るでもなく、ただひたすら歩いているだけだと、警備の人に目を付けられそうだったが、そんなことは気にしている場合ではない。


 幸い入口に到着するのに五分もかからなかったので、警備員に声をかけらることは無かったが、じんわりと滲む汗の不快感の方が深刻な問題だった。


「はぁ…はぁ…!」


「何じゃ、このくらいで情けないのぅ…ほれ、行くのじゃろ?」


 と、入口のドアの前に着く頃には息を切らし、肩が上下する俺を見かねて、コンは俺に向き直ると、その紅葉饅頭の様な小さな手を差し出して言う。


「はぁ…はぁ…ちょっと、まて…」


 と、我ながら情けないが膝に手を吐いて呼吸を整える。


「すぅ…はぁ…すぅ…はぁ…」


 と、二、三回深呼吸をすると幾らか落ち着き、早鐘を打っていた心臓の鼓動もようやく緩やかになって、落ち着きを取り戻していた。


「すまん、待たせた!」


 と、差し出された手を握り、コンに先導される形でエレベーターの前に進んで行く。


 上の階へ行くボタンを押すと、プラスチックの硬い感触が指を伝わり、ボタンに橙色の光が灯る。


 暫くすると、ポーンと音を立てて扉が開き、箱の中から降りる客が溢れ出し、その横で到着を待つ客がちらほらとこちらの様子を伺っている様だった。


「あ、すみません乗ります…」


 と、謝罪しつつ、コンの手を引いてエレベーターに乗り込み二階のボタンを押すと、他にも数名の乗客が乗り込み各々停止する階を押していく。


 すると先程と同じく橙色の光が灯り、停止する階を表示していた。


 俺達はボタンの前に位置取ると、そこに手を繋ぐ形で二人並んで到着を待つ。


 エレベーターに乗り込み階を指定すると、一息付けたが、そのタイミングで大人しく着いて来ていたコンがクイッと、俺の手を引き寄せ何かを言いたそうにこちらを覗き込んでいた。


「どうした?」


 と、視線を向け少し腰を落とし耳を近づけるとコンは手を揃えて音が漏れない様に耳打ちをする。


「のう…これはなんじゃ?」


 と、コンが小声で俺に話しかけてくるので、手短に答えてやる。


 人間の耳の位置で…いいのか?


 と、一瞬迷ったが一応どちらでもギリ聞こえるくらいの位置に身体を動かして、同じく手で覆ってから耳打ち(?)をする。


「これはエレベーターって言って、目的の場所まで瞬時に運んでくれる優れものだ。喋ると舌噛むから静かにしておくんだぞ?」


 と、早口で言うとコンはハッと目を丸くして、自分の口を両手で覆い俺の目を見て、コクコクと頷いていた。


 そんな様子に苦笑しそうになったが、俺は必死にそれを堪えて移動する階を示す画面を眺めながら軽く頭を撫でてやった。


 そうこうしている内に、ポーンと軽快な音が鳴るとスピーカーからアナウンスが流れ始めた。


「二階でございます。ドアが開きますご注意ください」


 すると、駐車場のエントランスフロアに到着したエレベーターの扉が開きぞろぞろと数名が下りる。


 俺もコンの手を引きその後に続き、エレベーターを降りてスマホを取り出す。


 ロックを解除して先ほどの通話の相手である樹に再びこちらから連絡を入れるか一瞬迷ったが、到着したことだけは伝えておかねばならないので、メッセージで到着したことと、現在地であるA区画を伝えると、樹の方から着信があった。


「もしもし、そっちはどうだ?」


「ナイスタイミングよ四季ちゃん!丁度今多分駐車場に向かっているわ!」


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