第23話 着せ替え人形と破壊力

 さて、クレープ屋を後にした俺達はマップで確認していた子供服売り場を目指し、エスカレーターに乗っていた。


 子供服売り場は二階にあるらしいが、ただっ広い田舎のショッピングモールを移動するのは苦労した。


 エスカレーターに驚いたコンが、手すりに乗ってそのまま駆け上がって行こうとするのを必死で止めたり、その様子を見ていた警備員さんに頭を下げたりと、踏んだり蹴ったりだった。


 挙句の果てに誘拐ではないか?とあらぬ疑いをかけられたりと、世知辛い世の中だと思った。


 そうこうしている内に、目的地に到着したのだが、これがまた俺の頭を悩ませた。


「うわ…基本的にこんなとこに用事はないから来ることは無かったが…なんつーか…凄いな。服ってこんなに一杯あるんだな…」


 と、子供服売り場を目の当たりにした俺の率直な感想がそれだった。


「同じようなのが一杯あるだけじゃなくて、なんだこれ…フリフリつけ過ぎだろ…」


 と、近場に遭った一着を手に取ると、ピンク色の生地に白のレースのフリフリを大量にあしらったお姫様のドレスの様なスカートがあった。


 ご丁寧に水色や赤いラメなんかも入っていて全体的にきらきらした服という印象を受ける。


 しかし…俺からしたら、こんなもの普段使いしてたら不便で仕方ないと思うのだが…。


 やはり、女の子というのは見た目重視なのだろうか…よく分からん。


 と、手に持ったスカートを棚に戻し、コン達に声を掛ける。


「お前ら…着せ替え人形にして遊ぶのはいいが、ちゃんと目的を忘れるなよ?」


 と、目的を確認しようとしたところ…。


「お目が高い!こちらのお嬢様にはこういったお召し物はいかがでしょうか?こちら、今年の夏の新作でございます!」


「いえいえ、是非こちらの商品等いかがでしょうか?こちら夏にぴったりの素材で出来ていて、涼しくて履き心地も良く、お嬢様にピッタリかと!」


「こちらは特注のデザインでして、メーカー直販のうちの店限定の品となっています!お嬢様に是非お召いただきたい!」


 と、あちこちの店からなぜか店員が押し寄せて来ていて、三人を取り囲む様にコンは次から次へと渡される衣服に困惑しつつも、律儀に大人たちの着せ替え人形になっていた。


「の、のう?このすかーと?とかいうのはすーすーするのじゃ!」


 もみくちゃにされているコンだったが、着替える度に歓声があがり、褒められおだてられていると、まんざらでもない様子でファッションショーを開催していた。


「あーら!コンちゃん素敵よ!その水色のスカートよく似合ってるわあ!」


 と、樹が褒めると、コンは頭をかいて「えへへ…そうかの?」と照れて俯いていたが、花奈が次の衣服を手渡すと、すぐにそれに着替える為に試着室へと消えて行った。


「うっわー…コンちゃん髪の毛サラサラ…凄いね、超似合うじゃん!」


 と、声が聞こえ、試着室のカーテンが開くとまた歓声が上がった。


 花奈が勧めたのはトップスは白のオフショルTシャツ。


 肩の部分をカットしており、コンの白い肌と鎖骨が露出していて、通気性も良く夏にぴったりだった。


 肩ひもの部分には控えめなレースのフリルが付いており、肩の部分はキュッと引き結ばれて、逆に腕の先端の方に行くに従って広がる様な作りになっていた。


 ボトムはタイトなショートパンツで、濃いインディゴブルーのデニムパンツ姿だった。


 膝上十五センチくらいの丈のショートパンツからは、健康的な脚がスラリと伸びており、合わせてある靴も白の合皮で出来たシンプルなシューズで、足の甲の部分はワンポイントとして大き目の白いリボンの形のモチーフが付いていた。


 正直これ程とは思わなかった。


「うおぉ…」


 俺は感嘆の声が漏れたのが恥ずかしくて、すぐにそっぽを向いてしまったが、はっきり言って、ジュニアモデルとかそういうのでもおかしくないと思える程似合っていて、可愛かった。


「その…どう…かの?似合って…おるか?」


 と、コンが問いかけるのは俺だった。


 その視線に耐えかねて、口籠ってしまったが何とか言葉を捻り出し、伝える事に成功した…。


「その…正直想像以上だった…似合ってる。かわいいよ…」


 と、頬を掻いて恥ずかしさをごまかしつつ、コンに言葉をかける俺。


「お似合いですよー!」


「是非うちの宣材に使わせてください!」


「あの、この後ご予定は?」


 と、店の人は口々にコンを勧誘しようと必死に言葉を投げかけていたが、花奈が割って入る。


「はいはーい、ストップ!ストップ!そういうのはマネージャーを通してねー?といは言っても、この子をどっかに渡すつもりはないからさっさと捌けた捌けた~」


 と、集まっていた店員を手で追い払うと、花奈は胸を張ってコンの頭にポンと手を置いて撫でていた。


 追い払われると素直に応じる店員ばかりで助かった。


 まあ、流石に一般客相手にこれ以上の行き過ぎた行為を行うことはほぼ無いだろうが、だとしてもスカウトとかやり過ぎだと思ったが、まあコンが可愛いから仕方ないっちゃ仕方ないのか?


 俺もすっかり親ばかの仲間入りだな…と、少し反省しつつ、視線をコン達のいる試着室の方へ移すと花奈が自信満々にアピールする。


 ふんす、と鼻から息が漏れている様で、胸を張って右手を腰に当てながら花奈は言った。


「ふっふーん!花奈ちゃん自慢の夏コーデなのです!コンちゃん可愛いから何着ても似合うんだけど、こういう清楚系が絶対映えると思ったんだよねー」


 と、サラサラの髪を撫でてコンを前に押し出す花奈。


「ふっふーん!四季っちには効果抜群だったみたいっすね?」


 と、俺のしどろもどろな様子を見て花奈は勝ち誇った様に続ける。


「とりあえず、コンちゃんどっすかこの服。気に入ったっすか?」


 と、尋ねるとコンは花奈の目を見て首を傾げると素直に頷く。


「うむっ!四季も似合ってると言っておったし、この服動きやすいのじゃ!気に入ったぞ!」


 と、コンは尻尾をふりふり動かしてにんまり笑うと、くるりとその場で一回転すると試着室の鏡に映る自分の姿を確認していた。


「お買い上げ確定!この服はあーしからのプレゼントっす!コンちゃんに買ってあげるっすよー。それと記念撮影ぱしゃー!」


 と、コンにスマホを向けてカメラを起動すると、自撮りモードで写真を撮る。


 ぴろりん、と軽快な音が鳴るとカメラのファインダーが切られ、その姿を記録していく。


 顔を寄せ合いツーショットでギャルとケモミミ幼女の映像が記録されると、さっそくスマホを操作して何かしている様子だった。


「ふっふっふーこれは秘蔵フォルダに保存しとくっす!」


 と、目を細めてにっこりと笑っている花奈を尻目に樹はまた次の服を持って来ていた。


「ねえ、これもどう?」


 と、差し出されたのは黒い無地のワンピース。


 それを見た花奈の反応は意外なもので、歯を食いしばり拳を握りしめて悔しがっている様だった。


「ぐぬぬぬ…その手があった…樹っちゃんやるじゃん!」


 と、悔しがる花奈に樹は言う。


「ええ、こういうのもありでしょう?やっぱり素材が良いからシンプルなので十分よね~?」


 と、花奈にそれを手渡すと試着室へとコンを誘導する。


「コンちゃん、次はこれ着てみてもらえる?」


「ん?わかったのじゃ!」


 試着室のカーテンを開けると、コンは素直についていき、カーテンを閉める。


 衣擦れの音が聞こえてきて数分でまた出てきた。


「思った以上だったわ…流石コンちゃん…」


 と、シンプルな黒のワンピースを着たコンは先ほどの花奈の選んだ衣装とは違い、シンプル故に可愛さが際立っていた。


 黒の無地で飾り気がないかと思いきや、胸の部分には細かい刺繍で薔薇の花が目立たないデザインで入っている。


 袖口や裾の端部分にも同じような刺繍が入っていて、可愛かった。


 ウエスト部分を少し引き絞っていて、身体のラインが細く浮かび上がる様な作りになっているそのスカートは、コンの金髪の髪と尻尾も相まってとてもよく似合っていた。


「そうかの?この服は軽くて着心地がよいのじゃ!」


 と、こちらも偉く気に入った様子だった。


「これもお買い上げ確定ね」


 と、樹は腕を組んでウンウンと、頷くとまた新しい服を探して、棚を漁っていた。


「あのなあ…」


 と、半ば呆れつつも女の子の買い物は長いと相場が決まっているので、そこはもう諦めた。


 ぐぅ…、と間抜けな音を立てて鳴る腹の音に、空腹感を感じた。


 俺は今日何度目かのため息を吐くと、少し離れたところにあるベンチに腰掛け、スマホを確認する。


 現在時刻は十二時半。


 結局殆ど服選びに時間を費やしてしまっていたのかと、嘆くばかりだが、それ以上に進展が無い事に焦りを感じていた。


「ま、午後から本腰いれるかな…?」


 と、一人プランを立てしばし目をつむり、休憩をとるのだった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 作品のフォローと☆☆☆を★★★にする事で応援していただけると、ものすごく元気になります(*´ω`*)




 執筆の燃料となりますので、是非ともよろしくお願いいたします(*'ω'*)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る