第24話 フードコートの稲荷寿司ときつねうどんと淀みの気配

 結局あれから更に時間を費やし、服選びが終わったのは時刻が一時を過ぎた頃だった。


 俺は少しげんなりした様子のコンの声によって起こされた。


「…ショッキングとは…その、気合がいるのじゃな…」


 と、散々着せ替え人形にされていたコンは、ようやく解放されたことに安堵しており、耳と尻尾も心なしかペタンとしていた。


 花奈が購入したオフショルTシャツとデニムのショートパンツ、靴には白のエナメル質の子供靴を早速装備していて、ショートパンツとシャツの隙間から尻尾を覗かせており、力なくゆらゆらと揺れていた。


「ま、お疲れさん。似合ってんじゃんソレ」


 俺はコンを労ってやると、待ちくたびれて暇を持て余していた間に買ったペットボトル入りのお茶をコンに渡してやる。


 コンはそれを素直に受け取り、蓋を開けるのに苦戦していると、横から樹がやってきて、軽々と蓋を開けるとそれをコンに渡してやる。


「ごめんねぇ~あまりにも可愛かったからつい…。でも、コンちゃんのお洋服沢山買ったわよ~」


 ウキウキで紙袋を抱えている樹は、手ごたえありと喜んでいて、まあ楽しそうだった。


「そ、そうかの?ワシ可愛いか…?」


 と、はにかみながら照れているコンは確かに可愛かったが、本題はそっちではないのだ。


 いい加減に思い出さないと、久那妓さんにどやされそうなので、ここいらで一応確認しておく。


「んで、多分それどころじゃなかったと思うが、淀みの方はどうだった?何か見つかったか?」


 と、コンに尋ねてみるとコンは首を横に振って答える。


「特にめぼしいやつは無しじゃ。人が多い故所々に小さい淀みはあったが…それでも、特段濃いやつは無かったのじゃ。あの程度なら放っておいても大丈夫なのじゃ」


 と、開けてもらったお茶を一口くぴくぴと音を鳴らして飲みながら答えるコン。


 数口飲み込むと、蓋を閉めて胸元にペットボトルを抱えたまま続ける。


「しかし…腹、へった…」


 と、何とも呑気なこのケモミミ幼女。


 さっきクレープも三人前食ってたのだが…本当に底なしなんじゃないかと思いたくなる程の食欲だ。


「あらあら…確かにもうこんな時間ね。花奈ちゃん戻ってきたらお昼にしましょうか?」


 と、樹もスマホで時間を確認するとそう言ってレジの方へ歩いていき、花奈と合流し呼び止める。


「花奈ちゃーん、いい時間だしお昼にしましょ~?」


 と、花奈を呼びかけると花奈も手を振って答える。


「おっけー!」


 と、その場で停止してこちらの動きを待つ姿勢のようだ。


「んじゃ、行きましょうか?三階のフードコートでよかったかしら?レストランとかの方がいい?」


 と、樹は俺とコンに確認するが、正直俺はどっちでもよかったので行ってから決めるのもありだなーとか思っていると、コンはぐぅぅ…と、何とも可愛らしい音を立ててお腹を鳴らして言った。


「ワシ、稲荷寿司が良いのぅ…」


 とのことだ。


「そう、じゃあとりあえずフードコートの方に行きましょうか?あそこなら稲荷もあるはずよ?」


 と、樹が言うとコンは樹に近づき目を輝かせて樹の手を掴む。


「…特大サイズで頼むぞ?」


 と、きらきらとした眼差しを向けられる樹は苦笑して、コンの手を握り返すと、ゆっくりと歩き始める。


「よっこいせ…っと…」


 年寄り臭いセリフを吐きながら、俺もベンチから立ち上がり二人の後を追う。


 結局空振り続きで気がめいってしまいそうだったが、まだ二日目である。


 勿論解決は早い方が良いが、そう焦っても見つからない物は仕方がないのだ。


 久那妓さんには悪いがもう少し時間がかかりそうだな…と思ったのだった。


 ◇


 さて、三階のフードコートに到着すると、コンは空かさず目を輝かせていた。


 目的は当然ながら多々ある飲食店なのだが、その中でひと際目を引いたのは、安いうどんの店だった。


「ふあぁぁぁ…っ!あ、あの店から、良い匂いがするぞ!ワシあれが良いぞ!」


 と、指さし樹の裾を引っ張りぐいぐいと進んで行こうとするコン。


 樹や花奈も「やれやれ…仕方ないなあ…」と、言ったような表情を浮かべつつ、コンに引っ張られて、うどん屋の前に来ていた。


「みんなもここでいいかしら?」


「あーしはパスタにするっす!濃厚な奴食べたいっす!」


「分かったわそれじゃ、買ってくるといいわ。あたしは…ぶっかけ大の冷にしようかしら…」


 と、樹が確認すると、花奈は別の店が良いとのことでそそくさと戦線離脱していた。


 俺は別に何でもいいのスタンスだったので、うどん屋で済ませる事にする。


「コンは…これでいいか?」


 と、俺が店頭に陳列されている稲荷寿司を指さすと、コンは首を上下に激しく動かし、前のめりになりながら今にも飛び出しそうな勢いで、頷いていた。


「それじゃ!それがよいのじゃ!」


 ぴょんぴょん跳ねながら、稲荷の前で元気に動き回っているコンを宥めて、俺達も注文することにする。


「こら、他の人もいるんだから暴れるな…。はぁ…とりあえず、注文取っておくからコンは席を確保しててくれるか?人が座っていない所だぞ?」


 と、コンは俺が店の列に並ぶと「あいなのじゃ!」と返事をして席を取りに行ってくれた。


 俺は何にするかな…腹は減ってきているが、がっつり行くほどではない…。


 うーん…悩む。


 メニュー表を見ると、かけうどん、温玉うどん、肉うどん、きつねうどん、限定品メニューで天ぷら爆盛うどん等無難な物から変わり種まで多種多様に揃っていた。


 ま、悩んでいても仕方ない。


 とりあえず無難な物でいいかと、トレーを持って店員の前に進んだ。


「すみません、温玉ぶっかけの冷大盛と、稲荷寿司を十個。あと、きつねうどん下さい」


 と、注文をすると若い店員さんがテキパキと指示をして、あっという間に持って来てくれた。


「はい、ぶっかけの大と、稲荷十個、それときつねうどんでお会計二千に百円になります」


 と、レジを操作して会計を済ませる。


「ありがとうございましたー!」


 お金を支払うと、商品を受け取りコンを探す。


 きょろきょろと辺りを見渡しているとお昼時ということで、フードコートはそれなりに盛況の様子だったが、四人掛けのソファ席にコンが座っているのが見えた。


 俺に気付いたコンが手を振って、誘導してくれたのでそっちに向かって歩いていく。


「はよー来るのじゃ~ワシの稲荷~!」


 そんなに声を出さなくても大丈夫なのだが…と、少し恥ずかしくなったので、速足で向かっていく。


 席に着くと、トレーを置いて食事を配膳する。


「食べても良いかの?」


 と、コンは目前にした稲荷寿司に今にも食い付きそうだったが、一応花奈を待ってから食べようと思ったので、静止しておいた。


「花奈が来てからな?」


「わかったのじゃ…じゅるり!」


 と、素直に返事をするのは良いが涎が垂れている。


 どんだけ食い意地が張ってるのかと思いつつも、素直に少し待つことにした。


 しばらくして、コンはついに我慢の限界を迎えたのか俺にぼやく。


「花奈はどこまで行ったのじゃ?」


 と、コンがきょろきょろと辺りを見渡すと、少し離れたところにあるパスタ屋さんの前に花奈は居た。


「ん、何やら取り込み中みたいだな?」


「ん~なんじゃー?」


 花奈は店の前に立ってはいるが、それ以前に二人組のチャラい男に絡まれていた。


 どうやら何か揉めている様子だ。


 ぱっと見注文しようとした花奈に、男二人が因縁を付けている感じだろうか?


 令和のこのご時世に白昼堂々と揉め事か…と、呆れはしたが、花奈も言い寄られて困っている様子だった。


 その様子を見かねた俺はスッと立ち上がると、一言残して花奈の方へ歩いて行った。


「ちょっと、行ってくる」


 と、並々ならぬ殺気というか怒気というか、そういうたぐいの感情が込められたセリフを残して、俺がが花奈の方へ駆け寄って行くと、花奈が俺に気が付いて声を掛けた。


「あんた達俺らのツレに何か用?」


 と、指をぽきぽきと鳴らしながらドスの効いた大き目の声を掛けると、チャラ男二人組は顔を見合わせばつが悪そうにしていた。


 何かを言っている様子だが、雑踏にかき消されて聞き取れなかった。


 恐らく悪態を吐いているのだろうが、いくらチャラ男が二人組だとはいえ、加勢に来られると分が悪いというものだろう。


 俺の登場にチャラ男二人組は、すんなり引き下がった。


 俺は去っていくチャラ男二人をずっと腕組をして睨みつけていたが、花奈がぺこりと頭を下げて、お礼をしているとようやく腕を解いて店に並んで注文を取っていた。


 暫くして、花奈と一緒に席に戻ってくると、花奈の手には注文が出来た際に呼び出す為のベルが握られており、人数分のコップと水を、トレーに乗せて運んできてくれた。


「おまたせー!いやーごめんね?何か変な人に絡まれちゃって…」


「ほんと、びっくりしちゃったわぁ~というか四季ちゃん怖かったけど、かっこよかったわぁ~」


 樹と花奈が隣同士に座り、それぞれ席に座ると、樹は水を配り、花奈はぐでっと机に突っ伏して不貞腐れていた。


「ま、災難だったな。大丈夫だったか?」


 と、一応確認すると花奈はコクリと頷きため息を吐いた。


「なんとか…もう、ああいう輩はこりごりっす…」


 と、心底嫌そうにしていた。


 そんなやり取りをしていると、隣に座ったコンが俺の裾を引っ張り何かをアピールしていた。


 忘れていた。


 こいつは腹ペコだったんだ、いい加減良しをだしてやらないと暴走するかもしれないな…。


 と、考えつつコンの方を向いて言う。


「ああすまん、花奈も来たから腹減ったろ?先に食べていいぞ?」


 と、俺がそう言うとコンはパッと顔を輝かせて稲荷寿司の方に向き直るが、フルフルと首を横に振って、もう一度俺の方に向き直り、まっすぐとこちらの目を見つめて言った。


「その、あの者達から濃い淀みの気配を感じたのじゃ!」


 コンはそう言った。


 淀みの気配を感じたのだと…。


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