第21話 おしゃれ番長とはじめてとポリスメン

「おお、二人共!おはよー…なーのじゃ~!」


 と、コンが声を掛けて二人の方へ駆け寄ると樹と花奈はこちらに向き直り、挨拶を済ます。


 二人共今日は昨日と違ってちゃんとおしゃれに着込んでいる様子だった。


 樹の方は上着は赤い生地に黄色いハイビスカス柄のアロハシャツを着ていて、パンツは白のチノパンを履いていた。


 筋骨隆々な樹のボディラインが強調されていて、上下ともにぱっつんぱっつんになっていたが、それもスタイルの良さで逆にまとまって見えた。


 履物も服装に合わせたサンダルを履いていて、茶色の革製のサンダルは柔らかそうで、履き心地も良さそうだった。


 花奈の方は黒い太ももくらいまである丈のトレーナーを着て、生足がそのまま覗くスタイル。


 恐らく中にショートパンツか何かを履いているのだろうが、ぱっと見長丈のスカートに見えなくもないそのチョイスは流石ギャルといったところだろうか?


 見事に日焼け対策とファッションを両立させており、肩から掛けている茶色いカバンも大きすぎず小さすぎず、ワンポイントとして見事に服装と調和が取れていた。


 履物はふくらはぎの下くらいまでを覆うブーツを履いており、厚底で黒のブーツを履くことで、無骨さとダボっとしたゆるさのバランスが何とも言えない絶妙さで、ばっちりと似合っていた。


「お、きたきた!こんちゃーん!おーはーよっ!」


「コンちゃん、おはよ。昨日は大丈夫だったかしら?四季ちゃんに何か変な事とかされなかった?」


 と、開口一番にコンの身の安全を確認するオカマことたつき


 全く、失礼なやつだ…。


 コンは花奈に抱き着くと、尻尾と耳をふりふり、ぴこぴこと動かして顔を埋めている。


 花奈もそんなコンを優しく受け止め、頭を撫でていた。


「おい、俺を一体何だと思っているんだお前は…」


 と、悪態を吐くもコンはその問いかけに素直に答えた。


「うむ、別に何ともなかったぞ!その…一緒に寝たし、多少強引ではあったが、優しくしてくれたのじゃ!」


 むしろ素直すぎた!


「おい、ちょっと待て、その言い方は誤解を招く!」


 と、コンの言い分に耳を傾ける二人。


「うっわー…四季っちサイテー!引くわー…こんなちっちゃい子に手を出すなんて!もしもしポリスメン?」


 花奈の中では俺はこんなちっちゃい子に手を出しそうなやつなのか…何か悲しいぞ…。


 そりゃ彼女いない歴=年齢だけど、別に悪い事はしていないし…何故そんな風に見られるのかと、本当に悲しくなる。


 生ごみを見るような目をこちらに向けると、高速でスマホを操作し、110番の画面を表示させる花奈。


「おい、それ以上プッシュするのはやめろ!」


 と、慌てて止める間もなく樹が間に割って入る。


「…四季ちゃん…ちょっ~と、お話…良いかしら?」


 にっこりと表情は笑っているが、目が全然笑っていない。


 樹の方も顔が強張り、気迫が伝わる程真剣マジだった。


「あの、目が全く笑ってないのだが…」


 そんな二人の様子を見て、不思議そうな顔をするコンだったが更に続ける。


 もじもじと内股気味に太ももをすり合わせ、両手の人差し指同士をくっつけて、目線を斜め下に向けて、色っぽい雰囲気を醸し出し、頬を朱に染めて言う。


「その、はじめてじゃったが、上手にできたのじゃ…二人は褒めてくれる…かの?」


「はじめてぇ!?」


「上手に!?」


 と、樹と花奈は二人同時にコンの言葉を復唱する。


「ちょっと、どういうことかしら?事と次第によっては…」


 バキボキと拳を握りしめ、指の骨を鳴らす樹。


「あの、すみません…知り合いに犯罪者がですね…」


 と、本気で電話を繋げる花奈。


 俺の扱い酷くねーか?


「おい、ちょっと待て…コン、お前はいったん黙ってろ。とりあえずこれ以上は本当に危ない…」


 主に俺の身が。


「ちゃんと説明してもらおうかしら?」


 仁王立ちで今にも俺に掴みかかってきそうな巨体の樹が、鋭い視線を向けて立ちふさがる。


 漫画やアニメならきっとこういうとき、ゴゴゴゴ…とか、ドドドド…とかそういう効果音が付いているだろうか?


 鬼気迫る表情の樹を花奈も止めるつもりはない様子で、場所の指定まで始めやがった。


「はい、はい…知り合いが犯罪者で、ロリコンみたいで…はい、今、ショッピングモールの駐車場に…」


「スト――――ップ!ガチで通報するな!なんもない、なんもないから!」


「犯罪者は、みんなそう言うわよね?」


 樹…お前もか…。


 と、二人共俺を完全に犯罪者扱いしているが、当の本人であるコンは首を傾げ不思議そうな顔をしている。


「ん?」


 と、こんな時まで可愛げを振りまく様に、口元に手を当ててあざとい感じで佇んでいると、コンは口を開いた。


「今朝のじゃが、四季は褒めてくれての?ぱそこん?というやつで教えてくれたのじゃ!」


 おい、誰かこいつを止めてくれ!


「朝からパソコンを使って何をしていたのかしら?」


「急いできてください!もう、アウトかもしれません!」


 あのなあ…。


「ちょっと待て、本当に何もないんだって。朝優しく教えたって…女児向けアニメのホームページを見せただけだっつの…」


 若干不機嫌になりながらも、何とか自己弁護を行う俺。


 何が悲しくて、高校以来の友達と仲がいいと思っていた仕事仲間にロリコン扱いされなければならないのか…。


 俺ががっくりと項垂れていると、コンが鬼気迫る表情の二人に向かって能天気に言う。

「そうなのじゃ!初めて観たがあれは良い物じゃ!ほれ、こうしてこうして~こうじゃ!どうじゃ、出来ておるか?」


 と、二人に身体を向けて女児向けアニメの真似をして変身ポーズを取るコン。


 しっかりと指先までピシっと揃えて、決めポーズの角度を調節している。


 テレビの前できっと練習していたに違いない。


 思った以上にしっかりと、ポーズを決めていたコンは、やり切ったとでもいうかの様なドヤ顔を晒していた。


 コンがそう言うと、二人は顔を見合わせて「へ?」「アニメ?」と、目を白黒させていた。


 一仕事やり終えたコンは、樹と花奈の反応を伺うべく、二人の顔を見渡すと鬼気迫った表情をしており、不安がっている。


「その…人に見せるのは二回目なのじゃが…うまくできていたかの…?顔が怖いぞ…?わし、下手じゃったか…?」


 と、眉を吊り下げ不安げな表情を浮かべるコンに、樹と花奈は互いに顔を見合わせて、気まずそうな顔をすると、すぐに否定して見せた。


「あ、あはははは!上手だったよ!そう、コンちゃん本当に変身しちゃうんじゃないかと思った!…あ、すみません、やっぱり勘違いだったみたいです、はい…大丈夫です!」


 すごい勢いでポリスメンキャンセルをキめる花奈。


「お、おほほほほ…なーんだ、勘違いだったのねぇ…コンちゃん上手だったわぁ!すごい素敵!」


 ぎこちない笑顔を浮かべて、茶を濁す樹。


 そんな二人の様子に「はぁ…」と、特大のため息を吐いて、一度目をつむり、首を左右に振る。


「誤解が解けたならよかったよ…ったく、人を何だと思っているんだ…」


 と、悪態を吐いて見せると二人共素直に謝ってくる。


「「疑ってごめんなさい!」」


 ペコリと腰を九十度曲げて、最上位の敬意を示す時のお辞儀だ。


「人生詰みかけたわ!…まあ、誤解が解けたならそれは良いとして…今日もその…よろしく頼む」


 と、深々と頭を下げる二人に対して逆にこっちも軽く腰を曲げてお辞儀をする。


 俺の声を聞いて顔を上げた二人は、その様子をみるやそれぞれ花奈が右手、樹が左手を差し出してくる。


「本当にごめんなさい。ええ、今日は任せて頂戴…お詫びにお昼は奢らせて?」


 と、右目をパチンと閉じてウィンクをする樹。


 花奈もバツが悪そうに視線を反らし、おずおずと切り出す。


「そのぉ~…今日はコンちゃんの服代とか、出させてもらいます…ごめんなさい」


 二人の謝罪を受けて、俺は苦笑するとそれぞれの手を取って握り返した。


「気にしてないよ、ほら、立ち話してる場合じゃないし…そろそろ中に入るぞ?コンもうずうずしてるしな…?」


 と、俺が声を掛けると二人共緊張がほぐれたのか、ホッと息を吐き肩を撫で下ろす。


「そうね、ほらコンちゃんこっちよ!」


「ういー、りょーかい。んじゃ、まずはどこから回ろっか?」


 樹と花奈は若干放置気味になっていたコンの傍に駆け寄ると、それぞれ左右で手を繋いで歩き始めていた。


 右側に樹、左側に花奈が。


 それを後ろから眺めていると、エイリアンの捕獲みたいだ…とかどうでもいい事が浮かんできたが、ぼーっとしている俺にコンが声をかける。


「ほら、どうしたのじゃおぬし!はよ中に入るぞ!ふふふ…美味しい物食べ放題なのじゃ!」


 と、ニコニコと涎を垂らしながらマイペースなコン。


「分かった分かった…今行くから!」


 と、後を追う俺。


 何か大事な事を忘れている様な気もするが、とりあえずショッピングモールの中へと入っていくのだった。


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