第16話 デコチョップとクロスアームブロックと朝飯と(1)

 二階の自室へたどり着き、ドアを開けると中はまだ薄暗く、相変わらずコンはすやすやと寝息を立てて、眠っていた。


 ただし、先程被せたはずのタオルケットは蹴とばされて、部屋の隅の方まで吹っ飛んでいたが。


 一体、どんな寝相してやがる。


 と、一人ツッコミを入れている場合ではない。


 そうこうしている内にご飯が冷めてしまっては勿体ないのだから、早くこのケモミミ幼女を起こしてやらねば。


 そう思い部屋へ入り、ベッドの横に立つ。


 枕元に置いてあるリモコンを操作して、明かりをつけると乳白色の光が部屋を照らす。


 尻尾だけはふりふりと動いているコンの傍で佇んでいると、急に明るくなったことで寝苦しさを感じたのか、寝返りをうち入口とは反対側の方に向き直るコン。


 その際にちらっと覗く生足や、ふとももに惑わされない様、いかんいかんと頭を振って深呼吸して声をかける。


「はぁ…。ほら、コン起きろ…朝だぞ」


 と、声を掛けてみても反応なし。


 昨日寝た時間が遅かったから仕方ないと言えば仕方ないのだが…はてさて、どうしたものか。


 俺はもう一度息を吐き、今度は肩に手を乗せて軽く揺すりながら声をかけた。


「ほら、起きろ!起きろって…ごはん冷めちまうぞ?」


 と、言って揺すってやると今度は「んぅ…ん…んん~?」と、何やら唸って顔をしかめてはいるが、まだ起きない。


 もう一押しだがさて…。


 俺はどうするか、と思案していたがこれだけやっても起きないなら仕方ないと、意を決して最終手段にでることにした。


「ほら、起きろ~~~!朝飯、冷めちまうぞ~うりうり!」


 と、ベッドの上に膝立ちになりコンのほっぺに両手を添えると、親指と人差し指で軽く摘まむ。


 ぷにぷにの頬は、まるでつきたての餅の様な感触で、触ると絶妙な反発感がある。


 ぷにゅりと指に吸い付く肌は柔らかく、何度も触りたくなる様な感触だった。


 軽く引っ張り力を込めると本当に餅みたいに左右に伸びる。


 二センチくらい伸びたり、縮めたりを繰り返しながら感触を楽しんでいると、ようやく寝坊助のケモミミ幼女は「う~ん…」と、唸りながら丸くて大きな目を開き視線が重なる。


「起きたか…?」


「あと二刻~…」


 おい、今明らかに目が合ったじゃないか!?


 二刻ったら四時間じゃねえか…流石に寝過ぎだ!


 声を掛けるとまだ寝ぼけているのか、再び目をつむろうとしている。


 こうなったら仕方ない。


 この手は使いたくなかったが、起きないのだから仕方ない。


 そう、仕方ないのだ。


「はぁ…ほら、起きろこの寝坊助幼女!」


 と、額に向かって軽く手刀をかます。


 ストンと子気味良い音がして、手には硬いボーリング玉の様な感触が伝わる。


 流石に今のは効いたのか、コンは声にならない声を上げて悶えていた。


「っぁぁぁああ~…!」


 ベッドの上をゴロゴロと左右に転がり、あっちに行ったりこっちに行ったりと往復していると、遂にはベッドから落下してしまった。


 どすっ!と、鈍い音が鳴るとコンは叫ぶ。


「何するのじゃ!このたわけぇ!ワシは神じゃぞ!見習いじゃが…神じゃぞ!?呪うぞ?祟るぞ?…ふぇぇ…」


 と、落ちた拍子にさらにおでこに追撃を食らったらしく、凄い剣幕でこちらを凝視しているコン。


 目にはうっすらと涙を溜めて、額にクロスアームブロックよろしく腕を交差させて額に手を当てている。


 自慢の尻尾や耳もブンブンと大きく揺れていて、どうやら相当痛かった様子だ。


 手刀は手加減していたのだが…転がって落ちたのは自業自得だろ…。


 と、心の中でツッコミを入れつつ、ようやく目覚めた寝坊助幼女に呆れつつ再び問いかける。


「すまんな、大丈夫か?」


 と、問いかけるとコンは何とも理不尽な怒りをぶつけてきた。


「フーーッ!一度ならず二度三度と…よくもワシをいじめてくれたのぅ…!もっと優しく起こさぬか!」


 いや、十分優しく起こして…その結果ダメだったのだが…。


「いや、優しく起こしても起きなかったお前が悪い!」


 一度目が合って、それで尚二度寝に励もうとしたことはどうやら覚えているらしい。


 歯を食いしばり、ばつが悪そうに眼を反らすコン。


「ぐぬぬぬ…おぬしぃ…覚えておれっ!」


 と、心底悔しがっている様子だが、このまま漫才をしている訳にはいかない。


 そもそも、朝食が冷めてしまうかもしれないから呼びに来たのだからさっさと来てもらわねば困る。


「ほら、起きたなら顔洗ってこいよ?母さんが朝食作ってくれてたから…冷めると勿体ないぞ?」


 と、言うとコンはすぐに目をぱああっと、輝かせて言う。


「なんじゃ、それをはよ言わぬか!ふへへ…腹~へったのじゃ~…」


 と、涎を垂らし手の甲でそれをずずずと拭うとコンはぴょんと軽やかにベッドから飛び降りると、俺の頭上を越えてドアの前に空中一回転を決めて軽やかに着地する。


「先に行っておるぞ?おぬしも早く来るがよい!とーこのご飯…楽しみじゃ~!」


 と、階段を駆け下りて行ってしまった。


 どたどたと階段を駆け下りる音がしたかと思えば、階下からはガラッと扉をスライドさせる音と、元気なコンの声が響いてきた。


「とーこ!ごはんなのじゃ!」


 と、挨拶もそこそこに食欲優先のコン。


 昨日あれだけ食べたのに、起きた途端にこれだ…。


 ご飯の話をすると、痛みを忘れてしまったのかもうすっかり満面の笑みだった。


 額はまだうっすらと赤く、ぶつけたあとが残っていたが、それも全く気にならないらし。


 神様幼女の食欲恐るべし。


「はぁ…なんつー食欲なんだよ…」


 と、悪態を吐きながらも、俺もその後を追ってリビングへと向かうのだった…。


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