day2

第15話 いたずら心と無防備とプロテイン(1)

「もしかしたら…だけどな?」


 俺がそう言うと、コンはビクッっと跳ねて驚く。


 フサフサの尻尾や耳にも力が入り、ピンと上を向く。


 俺の言葉に戸惑いを隠せないコンは、身を乗り出してこちらに詰め寄る。


 ピクピクと、頭上にくっついている耳がピンと上を向き、小刻みに揺れ動いている。


 そして、先程までゆらゆらと力なく揺れていた尻尾も、ぶんぶんと心なしか速さが 

 増して左右に揺れ動いていた。


「もしかしたら、とは…仙狐水晶を探す方法があるのか!?」


 と、コンは尋ねる。


 コンの問いかけにもう一度重要なことを確認する。


「可能性の話だ。その為に大事なことだから確認はさせてくれよ?淀みは見えると言ったが、それは具体的にどんな感じで見えるんだ?」


 と、尋ねると、コンはベッドから立ち上がると、体を使って説明し始める。


「悪意がある人間や、よからぬ事を考えておる輩の姿を見れば、その者の思いに応じた大きさの黒い…影状のものが見えるのじゃ…」


 と、言うとコンは俺の背後に回ると手で背中の中心辺りを撫で始める。


 くすぐったい感触に一瞬ビクッっと、背筋が震えたが、コンは構わず続けた。


「大体この辺から、こう、もやもや~っと見えるのじゃ~」


 と、コンは説明してくれた。


「ふむ、なら歩いてる人からそれが見えたら、そいつは良からぬことを考えているということか?なら…仙狐水晶を持っている人間の淀みはどうだ?」


「そのものが何を考えておるかは、見習い故まだ分からぬが…淀みの大きさを見れば大体どの程度の悪意かは分かるのじゃ。仙狐水晶は盗まれたことで、悪意を感知して今も穢れや悪意を増幅させているはずじゃから…見れば多分分かるのじゃ!」


「よし、なら話は簡単だ。よりこびりついて離れないくらいの濃い淀みを持ったやつを片っ端からとっ捕まえてやればいい」


 俺はさっき考えたことをコンに伝えた。


「ということで、明日から夜桜市の探索を始めよう。コンが淀みを探して、それが濃い場所に行くんだ…仙狐水晶があるとしたら、きっとそういう場所だろ?」


 俺が確認すると、コンはコクコクと首を縦に振る。


「なら、善は急げだ。今日は遅いから明日淀みの集まる場所を探そう…」


「そうじゃの!なら、明日はそうしよう…なのじゃ!」


 コンは少し考える様な素振りを見せたが、俺の考えに賛同してくれた。


 しかし、淀みが多い場所とは言っても…どこを探すかが問題だ。


 手当たり次第ではあるが、ある程度の予測は立てながらがいいかもしれないな。


 ふむ…となると…。


 と、俺が腕を組み考え込むとコンはおもむろに切り出した。


「その…淀みは、人の悪意から生まれるのじゃ…。じゃから、人が大勢集まるような場所から回るのが良いのではないか?どこかそういう場所はないかの…?」


 コンはベッドの上に膝立ちになり、人差し指を立てて俺の目の前に突き出す形で言う。


 と、コンの方から提案があった。


「あ、そうか…それなら…」


 と、一つ候補が上がった。


「そうだな、じゃあ明日はショッピングセンターに行こう。ここいらで一番人が多く溢れているし、仙狐水晶を持ってる人物とすれ違う可能性もあるかもしれない」


「しょっきんぐ…せんたぁ?とはなんじゃ?」


 と、首を傾げて尋ねるコン。


 微妙に間違っているがまあ、そこはご愛敬だ。


「ショッキングじゃなくて、ショッピングな。まあ、それは明日見てのお楽しみだ。とにかく人が一杯いるとこだ。樹と花奈も連れて行こう」


 俺がそう言うと、コンは耳をピクピクと動かして頷いた。


「よく分からぬが…了解、なのじゃ!」


 元気よく拳を上げて返事をするコン。


 そんな様子も可愛いのだが、そろそろ体の方が限界だ。


「しょっきんぐーしょっきんぐー!しょっきんぐせんたぁ~なーのじゃー!」


 と、謎の鼻歌を歌って、再びベッドサイドに座り、足をプラプラと揺らすコンを尻目に、スマホで時刻を確認するともう深夜一時を回っていた。


 俺は苦笑してしまいそうになるのを堪え、コンの頭にポンと手を置くと、軽く撫でる。


「ほら、明日も早いからもう寝るぞ。寝坊したら大変だからしっかり寝るんだぞ?」


 と、言うとコンは元気よく「あいっ!」と、返事をすると何故かその場で丸くなってしまった。


「おい、まさか…」


 俺の心配を他所に、コンはふかふかの尻尾に足を絡め、それを抱き枕にして眠りにつこうとしていた。


「おい、まさかここで寝るのか…?」


 と、尋ねると、コンは目をぱちくりさせて、何か問題でも?とでも問たげな顔でこちらを覗き込む。


「ん~?なんじゃぁ~…?早く寝るぞ…?」


 と、言うと再び膝を抱え丸くなると、すぐに寝息を立て始めた。


「まじかよ…」


 俺はこの状況に呆然としつつ、額に手を当てて天を仰ぐ。


 どうしろというのだ…いや、どもうならんが…。


 ベッドの半分くらいを占領されてしまった。


 シングルサイズだから俺一人くらいなら別に問題は無いのだが、コンも一緒に寝るとなるとそれなりに密着せねば…って、何考えてるんだ俺は。


 しかも風呂上りで良い匂いのするソレは、男のそれとは全く異なり、僅かに手に触れている背中の温もりも、無骨なごつごつとした感触ではなく、ふんわりと全体的に柔らかかった。


 ブカブカのTシャツから伸びるしなやかな手足は細っこくて、触れたら壊れちゃいそうなくらい華奢だった。


 首筋は尻尾で大部分が隠れて見えないが、だるんだるんのシャツの首元からは鎖骨がチラっと見えていて、寝息に合わせて小刻みに上下するそれは、その内ずり落ちてしまうのでは?と思ってしまう。


 いかん、俺はロリコンではないのだ…。


 ブンブンと頭を振って、余計なことを考えるのはやめた。


 雑念を追い払い、一度目を閉じて深呼吸。


 その際に鼻孔をくすぐる良い匂いも無視した。


 すぅ~、はぁ~…と、何度か繰り返す内に、余計な事を考える余裕はなくなった。


 ぶっちゃけ、もう体が限界だ。


 細かい事はこの際もう無視しよう、そうしよう。


「はぁ~…寝るか…」


 と、俺はそのままベッドに倒れ込む様に身体を預け、リモコンで明かりを消す。


 真っ暗になった部屋の天井を眺めていると、自然と瞼が重くなり、意識は徐々に途絶えて行った。


 ただ、俺の右の脇腹辺りには暖かな感触があって、小刻みに寝息を立てるそれを感じると、とても安らかに寝つけたのだった。


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