12 進路を次の星系へ

 マノス・ビスマート、そして西野誠は、かつて銀河系征服を目的に、征服戦争を繰り返した。


『Eternal Galaxy』の世界においては、星系内に防衛ステーションを建造することで、星系の領有権を主張することができ、自勢力の支配領域とすることができる。

 あるいは、他勢力の防衛ステーションを攻略し、占拠した場合も、同様の扱いになる。


 征服戦争を繰り返し、勢力は順調に拡大を続けた。



 だが、ゲームをしていた西野誠は、ある時を境に征服戦争を諦めることになる。


 ゲーム『Eternal Galaxy』最大の敵は、ゲーム内に登場する強大な戦力を有した敵勢力ではない。

 それはPCの処理能力に起因した、処理限界。


 防衛ステーションを建造し、奪い取ることで、勢力を拡大させればさせるほど、PCに負荷がかかった。

 彼はFPSフレームレート1桁を通り越して、1で固定された状態になっても、勢力の拡張を続け、何とかプレーを続けようとした。


 だが、あまりにも負荷のかかりすぎたPCが、ブルースクリーンを連発するようになってしまう。


「このままだと、マジでヤバい」


 ゲーム内の強敵でなく、PCの性能で負けを悟った西野誠は、征服戦争を諦めて、ゲームの処理を少しでも軽くするために、防衛ステーションを次々に破棄して、それまでに築いてきた勢力を解体していった。


 それが西野誠の記憶だ。




 一方マノス・ビスマートの記憶では、どうなっているかと言うと。


 彼女の場合、勢力を拡大すればするほど、面倒な仕事が彼女の下に、舞い込むようになった。


「面倒臭い」

「私がやる仕事じゃない」

「私の貴重な時間を奪わないでくれる?」


 勢力の拡張とは、国家としての拡大を意味する。


 彼女は広大な領域を支配する、星間国家の偉大なる女帝陛下として君臨したが、どうしても彼女でないと決済できない事務仕事が舞い込むようになった。

 それも、やってくる量が尋常でない。


 星間国家の運営のため、彼女の仕事を代理で行う宰相をおいたが、それでも彼女の下まで仕事が舞い込んできた。


 結果、我慢することを知らない女帝陛下は、事務仕事をしたくない一心で、広大な支配領域を放棄し、自由気ままな宇宙の旅へ出ることにした。


「私は星の海に旅立つわ。そうね、銀河全体の星図マップを作るのなんて楽しそう。国家の民?そんなもの知らないわよ」


 なんて言って、彼女は自分が作り上げた国家を放り出し、エリュシオン艦隊にて、まだ見ぬ銀河の旅へ赴いた。


 約210億人のクルーと共に。




 そして、マノスが銀河系全体の星図を作ることを決めたように、西野誠のプレースタイルも、彼女と同じものになる。


 銀河の各地を巡って、『Eternal Galaxy』銀河系全体の星図を作ろう、と。


『Eternal Galaxy』では、ゲーム開始時に、舞台になる銀河系がランダム生成される。

 ただ、西野誠のプレーはMODを複数導入した環境だったため、ランダム生成された銀河には、約10億の星系が生成された。


 ちょっと桁がおかしいが、それがMODの力だ。



 ゲームの仕様では、銀河系のマップは、プレーヤーの宇宙船のレーダーが、探索した範囲しか作られない。

 それ以外は未知の領域として、マップに詳細な情報が何一つ表示されない。



 広大無辺の銀河マップ埋めプレーに、覚醒した西野誠。


 ただ、彼が20年もの歳月をプレーしておきながら、未だに作成された銀河系のマップは、全体の十パーセントを少し超えた程度だ。


「死ぬまでに全部探索するのが夢だけど、確実に俺の寿命が先に来るな」


 半ばあきらめつつであるが、ゲームの為に人生を掛ける男が、西野誠だった。



 マノスと西野誠の記憶は、理由はともかく、やっていることは一致している。



 ただ違いがあるとすれば、西野誠にとっては、ゲームだったこと。

 マノスにとっては、現実として行っているということ。




「進路を次の星系へ、ワープ開始せよ」


「ワープ、開始します」


 銀河系全体の星図作り。

 口にすればそれだけだが、マノス率いるエリュシオン艦隊は、それだけのために、広大な銀河系を旅していく。


 彼女の命令によって、旗艦エリュシオンと、直掩する駆逐艦部隊がワープ航法へ入る。


 彼女たちの旅は、これからも続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙を旅する女帝陛下は、超弩級宇宙戦艦の艦長 エディ @edyedy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ