美味い飯

凜音ちゃんに連れられ食堂とやらへ来てみれば、大広間の中央にデカいテーブルが置いてある部屋へ辿り着いた。

テーブルの上には様々な料理が並べられ、その色とりどりの見た目と美味しそうな匂いに鼻腔をくすぐられ、否応なしに腹の虫を刺激される。


「もう既に準備は出来ております。お嬢様は既にご夕食を召し上がりましたので、奏多様は遠慮せず召し上がり下さい」

「えっ! 全部食べていいんですか!?」

「ええ。遠慮せずどうぞ」


15年間生きてきた中で見たことも無いような豪華な料理の数々。

テーブルに座り滝さんへ感謝を述べながら、俺は遠慮せずに食べ始める。

ちなみに金箔は乗っていなかった。


無我夢中になり食べ進めていた所で、ふと横から目元へハンカチを当てられる。


「奏多、泣いてる……」

「えっ? あっほんとだ」


横に座っている凜音ちゃんが、何故か流れ落ちる俺の涙をハンカチで拭っていく。自分でも全く気が付かない内に泣いていたらしい。


思うに、これは嬉し泣きだ。

15年の人生の中で食べた事の無い料理の数々。もちろん味も申し分無い。そこに今までの俺の食糧事情も相まって、感動で涙が出ているのだろう。


「ごめん。もう野草とかダンボールとか食べなくていいんだって思うと、感動の涙が……」


もちろん食事の美味しさもレポートしておく。もうこれは星三つを通り越した何かだ。味の宝石箱や!


俺が今までの誰得な食糧事情を話してしまったせいで、場の雰囲気が少し暗くなってしまう。それを払拭するように「ダンボールも煮詰めて醤油で食えば意外といけますよ!」なんて、渾身の明るくなる話題を出す。

明るくなりませんでした。おっかしいなぁ。


「奏多様……本当に、遠慮なさらずお食べください」

「奏多、あーん」


滝さんは少し涙声で、凛音ちゃんはスプーンに乗せた料理をこちらへ食べさせようとしてくれる。

お言葉に甘えて、凛音ちゃんからひたすらあーんで食べさせてもらい、テーブルの上にあった料理を全て平らげる。


「本当に美味しかったです。ご馳走様でした!」

「それは良かったです。腕によりをかけて作った甲斐がありました」


さすが家事全てをこなす滝さん。料理も完璧だ。三つ星レストランで出てきても不思議ではない。三つ星レストラン行った事ないけども。


満足そうな俺の顔を見て凛音ちゃんも嬉しそうな顔をしてくれている。傍から見たら無表情に見えるが、今の俺ならわかる。そして、今何を要求しているのかも俺ならお見通しだ。

凛音ちゃんの頭へ手を持っていき、髪の毛を梳くように頭を撫でる。


「凛音ちゃんもありがとうね。ほーらうりうり」

「うん……。気持ちいい……」


目を閉じて大人しく撫でられる凛音ちゃん。やがてふらふらと船を漕ぎ始め、ついにぽてっとこちらの胸元へと倒れ込む。

凛音ちゃんは規則正しい寝息を立て、俺の胸の中で夢へと旅立ってしまった。


「あら、どうやら寝てしまったみたいですね」

「そう言えば、今深夜ですもんね……。滝さんもごめんなさい、付き合わせてしまって」


壁に架けられている時計を見れば、針は深夜2時を指していた。

俺にとっては夜勤等でまだまだ活動している時間だが、凛音ちゃんや滝さんにとっては夜更かしも良いところだろう。

お肌の天敵である夜更かしを女性二人にさせてしまうとは、今度はスキンケアの神様に殺されそうだ。


「いえいえ、私は問題ありません。それより、申し訳ありませんがお嬢様を自室へお連れして頂いてもよろしいですか?」

「わかりました。凛音ちゃんの部屋は……」

「この子について行って頂ければわかるかと」


滝さんはそう言い、右手を地面へと向ける。すると煙とともに何かが現れる。

これは……小人?


「ブラウニーです。私の召喚というスキルで生み出すことが出来る、一般的に家事妖精と言われている妖精です」

「おぉ……なんとも可愛らしい」


滝さんが召喚したブラウニーは、身長およそ1mほどで可愛らしい顔をした小人だ。他にも何人か仲間がいるらしい。普段は滝さんの家事や掃除の手伝いをしているとの事だ。ここは尊敬を込めて、ブラウニーさんと呼ばせてもらおう。


ブラウニーさんが俺に向かって右手を出し握手を求めて来たので、俺も左手で小さい手を握り「よろしく」と一声掛けると、ブラウニーさんは満足そうな顔で頷いてスタスタと出口の扉へ足を進める。

俺は遅れないように、眠ってしまった凛音ちゃんを抱えてブラウニーさんへついて行く。凛音ちゃんをどう連れて行こうかと迷ったが、普通にお姫様抱っこで抱える事が出来た。

凛音ちゃんめっちゃ軽いけど、ちゃんと食べているのかが心配だ。


ブラウニーさんと連れ立って廊下を歩いて5分ほど。やっと凛音ちゃんの部屋に着いた。さすがデカい家だけあってか、部屋まで行くのに5分掛かるとは思っていなかった。


凛音ちゃんの部屋のドアにはドアプレートが架かっており、可愛らしい字で【りんね】と書かれている。

思えば、ここに来るまでにあった部屋のドアにもプレートに名前が書いてあったな。またここに住んでいる人に挨拶しなければ。引っ越し蕎麦はないけど勘弁してくれ。


ブラウニーさんは部屋のドアを開けて俺を中に入るように促してから、召喚された時と同じように煙を出して消えた。役目を終えたら消えるシステムなのだろうか。


ブラウニーさんが消えた場所へお礼を言い、凛音ちゃんの部屋の中へ入る。

部屋へ入った瞬間、これまで凛音ちゃんが引っ付いてきた時に香ってた、甘いミルクのような良い匂いが何倍にもなって押し寄せて来た。

ずっと嗅いでいたいような、そんな匂いだ。


俺が少し気持ちの悪いことを考えていると、開け放っていたドアの方向から声がする。


「奏多様、お嬢様をベットへお連れしてからそちらで歯を磨いてください」


滝さんが手で示した先を見てみれば、なんと洗面台があった。部屋に備え付けの洗面台があるとは、お金持ちすごい。

洗面台の上にコップがあり、中に赤と青の歯ブラシが立て掛けてある。恐らく赤が凛音ちゃん、青が俺のだろう。どうやら既に用意してくれてたみたいだ。


ずっと抱えたままなのも悪いので、凛音ちゃんをベットへそっと降ろす。


「ありがとうございます。それと、寝る場所は……」

「もちろん、お嬢様と一緒のベットでございます」

「まあそうですよねー」


添い寝から始めると車の中で言っていたから、今日から俺の寝る場所はもちろん凛音ちゃんと一緒になってしまう。頑張ると言っていた凛音ちゃんは寝てしまっているけど。


「それでは奏多様、おやすみなさいませ」

「はい、おやすみなさい。あ、それと滝さん、今日は本当にご飯おいしかったです。明日からもよろしくお願いします」

「いえいえ、お粗末様でした。あぁ、それと奏多様……」

「はい?」


滝さんはベットの横に鎮座している小さいチェストを指し示すと、少し微笑みながら言う。


「そちらのチェストの二番目の引き出しに、コンドームが置いてあります。いざその時が来ましたら遠慮せずお使いください」

「……滝さん、俺はせめて成人するまでは、凛音ちゃんとは清い関係でいるつもりなんです。ですのでそれを使う機会は当分ないかと……」

「お嬢様はそのつもりはないと思いますが……。それでは、そちらは破棄しておきます」


滝さんの言葉に、そういえば凜音ちゃん結構強引なところあるな、と危機感を募らせる。

凜音ちゃんに求められたら果たして俺はノーと言えるのか。使うつもりは無いが、こういうのは念の為あった方がいいかもしれない。

ほら、世の中の中学生でも財布に入れている時代らしいから。

俺はそんな言い訳じみたことを言いながら、滝さんを止める。


「いえ一応置いといて下さい。一応ね? 使わないけど万が一に備えて! だから手を離して滝さん!」


滝さんは引き出しをガラッと開け、高そうな箱に入った0.1㎜のやつを持って行こうとする。

やめて! 俺の理性が崩壊した日にそれは必要だから持っていかないで!


なんとか滝さんから奪取に成功する。「使う日が来るのは早そうですね」なんて嬉しそうな顔で言わないでくれ。


「はぁ……、それじゃあ滝さん、今度こそおやすみなさい」

「ええ、おやすみなさいませ。明日の日曜日は、奏多様が学校へ行くための準備を致しますので」

「あぁ、はい。……え?」


滝さんは最後に爆弾を投下してから部屋を出ていった。

俺の聞き間違いでなければ、学校へ行くだとかそれの準備をするだとか聞こえたような……。

いや、気にしても仕方がない。もう流石に眠気が少し来てるし、考えるのは明日にしよう。


俺は歯磨きをしっかりしてから、既にベットで寝ている凛音ちゃんの隣へ横になり、布団を被る。


ベットに横になってまず感じたのは、ベットがとてつもなく柔らかく、寝やすいということだ。

まあ今までが酷すぎた。ペラッペラな布団か、床か、酷い時は土の上だ。

そいつらと比べてしまうのはこのベットに悪すぎる。これ以上は考えないでおこう。


そして何よりも、布団を被った瞬間、凛音ちゃんのミルクのような甘い匂いを何倍にも濃縮したような匂いがブワッと広がり、それだけで頭がクラクラしそうだ。


なんとか心を平常心に保ちながら、早く眠れるようにと深く目を瞑る。

凛音ちゃんの可愛らしい寝息と俺の浅い呼吸音だけが部屋の中へ響く中、突如凛音ちゃんがガバッと俺へと抱きついてくる。

驚きながら隣の凛音ちゃんを見るも、相変わらず寝息を立てながら寝ている。どうやら普通に寝相が悪いのか、それとも手頃な抱き枕があったから手に取ったのか……。


俺は凛音ちゃんを抱き返し、凛音ちゃんの高めの体温を肌で感じながら、自分でもびっくりするくらい安らかな眠りについた。






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夜逃げした両親を生贄に、世話焼きクーデレお嬢様を召喚! ゴリラゴリラgorilla @kitutuki217

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