お風呂回って響きはなんか良い

 体の隅々を肌が擦り切れるまで綺麗に洗い終え、ようやく湯船に浸かれる。

 まずは湯の温度を確かめるように手を入れ、確かめ終わったら次に足を入れる。

 ひゃあもう我慢できねぇ! 

 俺は勢い良く湯船に身を沈める。


「ふぅ〜……気持ちよすぎる……」


 お湯の温度は丁度良く、体がだんだんと溶けていきそうな感覚に囚われる。

 あの日桜島で浸かった天然温泉は死ぬほど熱かった。

 当たり前だ。人の手が入っていないから温度調節なんてされていない。最終的には慣れて丁度良く感じていたのだけど。


「奏多、気持ちいい?」


 浴室と脱衣所を隔てるすりガラスの扉越しに、こちらへ問いかけるように凛音ちゃんの声が響く。


「あぁ、気持ちいいよ。もう本当に最高。ここで一生暮らしたいほどにね」

「そう、よかった。じゃあ私も入るね」

「えっ」


 凛音ちゃんがそう言った後、ガラッと扉を開ける音がし、反射的に頭を扉の方向へ向けてしまう。

 遠慮なく浴室へ入ってきた凛音ちゃんは肌色一色の綺麗な姿で何も身に付けていない。

 長いプラチナブロンドの髪の毛は頭の上でお団子状にして纏められており、上も下も何も隠されていない。俺は思わず凛音ちゃんの神秘的な姿に視線を外せないでいた。


「奏多……そんなに見つめられると、恥ずかしい……」


 お風呂の熱気と恥ずかしさで赤くなったであろう顔をしている凛音ちゃんは、腕で少しだけ胸を隠す仕草をする。

 赤くなった顔で胸を隠す女の子、いいと思います。


 凛音ちゃんは体へ掛け湯をした後お湯の中へ足を踏み入れ、俺が浸かっている隣へと腰を下ろす。

 横目で凛音ちゃんを見てみれば、上気した頬とかお湯に浸かってじんわり赤くなった肩とか、外見も相まってとても妖艶な雰囲気を纏っているように見える。


「奏多……? どうしたの。のぼせた?」

「いや、あまりにも凛音ちゃんが自然に入ってくるもんだから、びっくりしてる」

「これからは毎日一緒に入るから……慣れてね」

「繋がりが深まるから?」

「ううん。私が一緒に入りたいだけ」


 こいつぅ〜、かわいいこと言ってくれるじゃないの。

 顔を赤らめて上目遣いでそんな可愛らしいことを言われたら、断れる人はこの世にいないんじゃなかろうか。

 いやいない!




 少しの間二人でまったりとお湯に浸かっていると、おもむろに凛音ちゃんは立ち上がった。


「奏多、体洗った?」

「俺は洗ったよ。もうそれは隅々まで隈なく綺麗にね」

「そう……」


 凛音ちゃんの表情はほぼ変わっていないが、何故かがっかりしているのはわかる。これは、繋がりが少し深まったということか?


「じゃあ、私を洗って」

「俺が? 凛音ちゃんを?」

「そう、だめ?」


 まさかの申し出に少し驚く。が、またもや凛音ちゃんは上目遣いで少し首を傾げてお願いをしてくる。

 仕方ないなぁ! 頼まれたらノーと言えない男だし、これは仕方ない。


 自分にそう言い聞かせながら、洗い場の椅子へ座った凛音ちゃんの後ろへ移動して、膝を床に着いてしゃがむ。


「じゃあ髪の毛洗うね。もし痒い所あれば言ってね」

「うん」


 お団子になっている髪の毛を解き、高級そうなシャンプーを手の平に出して凛音ちゃんの髪の毛を丁寧に洗っていく。


 実は女性の髪の毛を洗うのは別に初めてではなく、生活費を稼ぐためのバイトで美容院で洗髪のバイトをしていたことがある。

 ちなみに美容師資格などなかったが、その美容室も訳ありなので問題ない。

 その時に培った技術を総動員して、凛音ちゃんのサラサラヘアーを洗い終わる。

 トリートメントとコンディショナーもあったので、忘れずに使っておく。

 これをしないとキューティクルの神様に怒られるぞ☆



 さて、あとは自分でやってもらおうと立ち上がろうとした所で、凛音ちゃんからボディーソープを渡される。

 つまり、体も洗えということだろう。

 凛音ちゃんは自分の髪の毛を体の前に持っていき、完全に洗ってもらう体勢だ。

 仕方ないか……。


「ボディータオルとかある?」

「ない。手でいい」

「スポンジとか……」

「手でいい」


 有無を言わさないような凛音ちゃんの言葉。

 ボディータオルを使うより手で洗った方が肌を傷つけずに洗えるらしいが、それを見越しての発言だろう。うん、きっと他意はないはず。

 正直嫁入り前の女の子の肌を触ってしまうのは少し気が引けるが……そういえば俺、凛音ちゃんと婚約状態だったわ。じゃあなんの問題もない……のか?


 悩んでいても仕方がない。これから毎日こういうことをするのであれば、早めに慣れなければいけないのだろう。

 俺は覚悟を決め、これまた高そうなボディソープを手の平に取り、凛音ちゃんのシミひとつない背中へそっと手を伸ばす。


「んっ……、くすぐったい……」

「おっとすまない。これぐらいの強さで大丈夫か?」

「うん……丁度いい……」


 凜音ちゃんの背中へ慎重に泡を伸ばしていく。

 どれくらい慎重かと言えば、赤ん坊を沐浴させる時ぐらいの慎重さだ。

 昔色々あって赤ん坊を1日だけお世話した事があるが、あの時の慎重さがここに来て発揮されるとは、あの時の俺は夢にも思わないだろう。


 しかし、凛音ちゃんの背中スッベスベだな。一生触っていたいし、この生地の抱き枕あったら毎晩抱いて寝るまである。

 華奢な体に見えるが触ってみると意外と筋肉が付いている事がわかり、結構鍛えているか、毎日運動しているのかもしれない。どっちにしても健康的だ。


 とりあえず背中全体を洗い終わり、ついでなので首の辺りも洗おうと首筋へ触れる。


「ぴぇっ……か、奏多……そこ、弱い……」

「あっごめん。首嫌だった?」

「い、嫌じゃないけど……なんかゾクゾクする……」


 変な鳴き声を上げる凛音ちゃん。どうやら首筋が弱いらしいので、ぱぱっと手早く洗ってあげる。

 喉の辺りへ指が触れた時が一番ぴぇぴぇ言っていた凛音ちゃんは、なんかもう既に満身創痍だ。


「はぁ……はぁ……。なんか変な感じ……」

「大丈夫? 一応優しくしたつもりなんだけど……なんかごめん」


 特に嫌だと感じていない凛音ちゃんだが、なんとなく謝っておく。


「じゃあ凛音ちゃん。残りは自分で」


 手元のボディーソープを凛音ちゃんに渡そうとすると、凛音ちゃんは赤くなった顔をこちらに向け、心底不思議そうな顔で見てくる。


「……もしかして、前も俺が?」

「うん。あたりまえ」

「えっ本当に大丈夫? 首でそれだよ? あっ大事なところは流石に自分でやる……」

「ちゃんと、隅々まで、丁寧に……ね?」


 俺の言葉へ少し被せ気味に、全てを洗えと言う凛音ちゃん。またもや上目遣いで、しかしそこに妖艶さを含ませながら少し首を傾げお願いする姿に俺は頷く事しかできない。

 完全に俺に効くお願いの仕方を習得したみたいだ。なんて小悪魔的。


 もう俺はいっそどうにでもなれと、死地に赴く兵士の気持ちでボディーソープを手に取る。

 平常心を保て、でないと俺の体はもたないぞ! がんばれ俺の理性!



 とりあえず手始めに肩あたりから攻めていこうと、凛音ちゃんの肩を泡の付いた手で洗う。

 そのまま腕を少し上に上げてもらい肩から指先まで洗い、もう片方も同じように洗う。

 次は鎖骨辺りへ手を伸ばそうと腕を凛音ちゃんの体の前へ回し、鎖骨目掛けて手を動かしてみれば、返ってくる感触はとても柔らかいもの。


「あっ……んぅっ……」


 俺は慌てて手を退ける。


 言い訳をさせてくれ。

 俺は紳士なので極力体の前を見ないように洗っているわけだが、少し目標を見誤ったらしい。

 初手おっぱいはまずいですよ!


「すまん凛音ちゃん、鎖骨を狙ったんだ。しかしよく見えないせいで……」


 俺が下手な言い訳を述べていると、凛音ちゃんはおもむろに体を反転させこちらへ体の前面を差し出す。その瞬間、俺は反射的に目を閉じてしまう。


「大丈夫だから、ちゃんと見て洗って」

「いや、俺の目が神秘的な光景に焼き爛れそうに……」

「いいから、ちゃんと見て……」


 少し怒ったかのような、しかし恥ずかしさの方が勝ったのであろう、耳まで赤い顔でしっかり見ろと凛音ちゃんは言ってくる。

 凛音ちゃんは覚悟を決めている。それに答えるように、俺は目をカッと見開いた。


「……綺麗だ……」


 思わず感想が飛び出す。


「う……うん、ありがとう……」

「いや本当、ミロのヴィーナスぐらい綺麗」

「それは褒められてるの……?」


 古代ギリシアの彫刻かってくらい凛音ちゃんの体は綺麗だった。いやもう全てが完璧なバランスで、出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいる。

 この豪邸に凛音ちゃんの彫刻が置いていない事が不思議なくらいだ。


「そろそろ洗ってほしい」

「あっそうだね。それと今度彫刻家でも探そうか」

「なんで……?」


 彫刻家の件は否定された。



 ボディーソープを手の平へ倍プッシュし、今度こそ鎖骨へ泡を乗せて洗う。そのまま手を下の方へ動かし、胸に手をかける。

 形の良い乳房に手を当ててみれば、まずその柔らかさが手に吸い付き、手を動かすほどにふわふわと形を変えていく。しかし程よい弾力もあり、ツンと上向きの胸はまさに美乳と呼べるだろう。


 おっぱいについて心中で感想を述べていると、手のひらに当たるコリコリが少し硬くなってきたあたりで凛音ちゃんの呼吸が激しく乱れていることに気付く。


「……っ! んんん……っ、あっ……ん……! ぴぇっ……!」

「うぉっ! や、やってしまった……」


 どうやらあまりにも未知の感触だったため、つい夢中で洗うというより愛撫寄りの触り方をしてしまっていたらしい。

 目の前にある凛音ちゃんの顔は惚けており、こちらを見つめる瞳はとろんと惚けている。


「はぁっはぁっ……、奏多のえっち……」

「今のは弁明の余地もございません」


 気を取り直して、胸はさっきので十分すぎるほど洗ったので、さらにその下のお腹を洗い、足の太ももから足指の一本一本まで丁寧に洗う。

 さあこれで完璧に洗い終わったな! と、泡を流そうとシャワーを掴もうとしたところで、凛音ちゃんに腕を掴まれる。


「なっ何かな凛音ちゃん? もう洗い流そうとしてるんだけど……」

「まだ洗っていないところ、あるよ……?」


 凜音ちゃんは訴えかけるかのように俺をじっと見てくる。

 もちろんは洗い残しなんかじゃなく、わざと避けたところ。


「いやいや凛音ちゃん。そこはね、なんて言うところか知ってるかな?」

「おまん……」「そうだねデリケートゾーンだね!」


 相変わらず危なっかしい事を言おうとするお口だこと。

 実際、は完全に女性のデリケートなところだ。下手に洗えば傷付き炎症等起こす可能性がある。

 それを懇切丁寧に凛音ちゃんに説けば、渋々ながらもソコは自分で洗う事を了承してくれる。

 危ない危ない。これで俺が死ぬ運命は免れた。



 これで完全に洗い終えたので、凛音ちゃんの体に付いた泡を今度こそシャワーで洗い流す。

 洗い流した後にもう一度お湯に浸かり、少し他愛のない話をした後、一緒に10を数えて風呂から上がる。


「いや〜ほんと気持ちよかった」

「私のおっぱい?」

「いやそれは……まぁあるけども。久しぶりの風呂だったんだよ」

「そうだったんだ。……ねぇ、私が体拭いてあげる。こっち向いて」


 名案を思いついたと言わんばかりに、凛音ちゃんはバスタオル片手にこちらへ手を伸ばす。

 ここで自分でやる、と言ってもまた押し問答をするだけなので、ここは素直に濡れた体を拭いてもらってもいいのだが、その前に。


「いや、先に凛音ちゃん自分の体拭きな。風邪ひくよ」

「……じゃあ、奏多拭いて」


 持っていたバスタオルをこちらへ渡す凛音ちゃん。もうその行動には慣れたもので、手早く凛音ちゃんの髪の毛と体の水気を拭い去っていく。もちろん、傷付かないように丁寧に。

 特に女の子の髪の毛は拭く時もデリケートだ。バスタオルで頭を軽く包み込み、優しくバスタオルを当ててやるだけで十分。

 間違ってもゴシゴシ擦るなよ、俺。キューティクルの神様に殺されるぞ。


 凛音ちゃんの足先まで水気を拭き取り終われば、凛音ちゃんは新しいバスタオルで俺の髪の毛から拭き始める。

 腕を伸ばし少し背伸びしながら、俺の髪の毛を拭いていく凛音ちゃん。正面で向かい合って拭いてもらっている関係上、凛音ちゃんの豊かなおっぱいが俺の胸板でぽよんぽよんと跳ねている。

 ぶっちゃけそろそろ限界だ。まだ諦めるな俺の理性!


 丁寧に俺の体を拭いていく凛音ちゃんは、下へ下へと拭いていく途中、ある一点を見つめるとその動きを止めた。

 そしてついに、出来れば聞いて欲しくなかった疑問を投げ掛けてくる。


「奏多。ここ、なんで大きくなってるの?」

「凛音ちゃんそれはね、真面目にやってきたからよ」


 ははは……あっはっはっは!(ア○さんマーク)


 ついにバレてしまった、俺の息子が成長した姿。

 こんな立派に育って、父さん今は悲しいよ……。


 浴室で凛音ちゃんの体を洗っていた時は緊張感もあってか息子の成長を抑制できていたのだが、ここに至って緊張が解けてしまい息子の膨張率100%を記録してしまった。今冬初観測だ。


 ここは凛音ちゃんが無知だと信じて誤魔化すしかない。


「実はさっき虫に刺されてしまってね……」

「嘘。だって、奏多今すごく興奮してる。私に魅力を感じてくれてるって、わかるから」

「うっ……。確かにさっきより繋がりが……」


 誤魔化す事はできなかった。というか、繋がりが深まったせいで俺が興奮状態である事もバレてしまう。

 逆に凛音ちゃんの興奮も俺に流れてきているせいで、相乗効果で余計興奮状態になっている気がする。

 これは非常にまずい。

 このままだといくところまでいってしまいそうだと感じた俺は、秘策を繰り出す。


「ねぇ……私のせいでこうなったから、私の手で……」

「観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不〜」

「……奏多」


 葬儀場でバイトしていた際に頭が痛くなるほど聞いた般若心経が、まさかここで役に立つとは思わなかった。

 俺の息子は涅槃に至った。今日はもう眠れ。


 しかし、すっごいジト目で凛音ちゃんがこちらを見てくる。

 大丈夫だ、まだ慌てるような時間じゃない。


「凛音ちゃん。こういうのはもっと段階を踏んでからやるべきなんだよ」

「体を触り合った。大事なところも見せ合った。あとは挿れるだけでは……?」

「生々しい事言いなさるな。こういうのはもっと細かい段階があるんだよ。別に今じゃなくてもいい」


 これから俺たちにはもっと時間があるんだから……。

 そう凛音ちゃんに言えば、それもそうかと納得してくれた。



 いい加減裸のままだと本当に風邪になりかねないので服を着ようとカゴの中を見てみれば、俺のボロ雑巾みたいな服が無くなっていた。代わりに、ひと目で良い服だとわかるカジュアルなシャツとズボン、それに下着が置かれていた。

 気を利かせて滝さんが新しい服を置いてくれたのだろう、感謝しつつその服に袖を通す。


 着たらわかる、これめっちゃ高いやつやん!


 思わず宮○大輔が出てきてしまうほど肌触りの良すぎる生地にびっくりする。

 俺が今まで着ていたゴミ捨て場から拾って来た服と比べれば、まさに天と地の差だ。


 絶対高い服を汚さないように恐れ慄きながら着ていると、脱衣所の扉がノックされる。


「お嬢様、奏多様。お食事のご用意が済んでおります。準備ができましたら食堂へお越しくださいませ」

「わかった」


 滝さんの声に凛音ちゃんが答える。

 お食事という言葉を聞いた瞬間、思い出したかのように俺の腹の虫がなる。

 そういえば最近まともに食べてなかったな……。


「奏多。早く行こ」

「おっと。凜音ちゃん、その前に髪乾かさないと」


 凛音ちゃんに手を引かれるが、脱衣所を出る前に濡れた髪の毛をしっかり乾かさないと。


 凜音ちゃんを洗面台の鏡の前へ座らせ、ドライヤーの風を優しく当て、しっかりと乾かす。

 今なら、キューティクルの神様が満足顔でうんうん頷いているのが見えるようだ。


 髪の毛を乾かしながら飯に思いを馳せる。

 金持ちの食べる飯ってどんなんだろ。何でもかんでも金箔とか乗せてんのかな……。


 鳴り止まない腹の虫を携え、髪の毛を乾かし終えた俺たちは食堂へと足を進めていく。



























 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る