釣りに行った
夏伐
寿司ボーイ
友人のアキラの話だ。
少しオカルトチックな話になる。
たぶん最初は俺とアキラで釣りに行ったことが始まったと思う。
アキラがどうしても釣りに行きたいというんだ。そうとう仕事のストレスがあったのかもしれない。
それで、お互いの休みを合わせて川に行くことにしたんだ。渓流釣りっていうのか? 俺は釣りはよく分からないから百円ショップで千円もする釣り竿を買った。
山と言っても子供の頃からよく行ってる山で、地元の人間はわりとよくエンカウントするんだ。
ただ、この山には少し不気味な神社がある。貧乏神でもいそうな感じでパワーを吸い取りそうなスポット。
子供の頃はレアな場所だと思ってた。
実は俺は自分でも恥ずかしくなるくらい神さまとか幽霊とか信じてる。鳥居があるのに周りに何もないっていうのはおかしいと思ってた。
俺と違ってアキラはその神社がお気に入りみたいで、その日もバシバシと遠慮のないフラッシュをたいてた。
そんなこんなで、俺とアキラはまあ仕事の愚痴を言いながら神社の裏手を行ったところにある渓流で釣りをしてた。といっても愚痴ってるのは主にアキラだ。
「後輩が取引先を怒らせた」とか「上司の絡み酒が酷くてハゲそう」とかそんな話。
そんな感じで何時間経っても魚は一匹も釣れなかった。
腹が減った俺は釣りをしているアキラを見ながら飯を食うことにした。
アキラはやっぱり愚痴を言っていた。俺は適当に相槌を打ちながらコンビニの巻き寿司を食べる。いろんな種類があって美味しい。
「おいしそう」
俺は誰か近くにいたのかと思って、
「何か食べます?」
と聞いたんだ。
そしたら「稲荷寿司!! 寿司全部!!」と返ってきた。
全部かよ、遠慮のないやつ、だと思ったんだが腹でも減ってるのかと思って「今度おごれよー」って言って振り向くと、そこには小さな子供がいた。
古めかしい着物なんて着て、途中にあった神社の子かもしれない。神主家族だから何かの衣装かな、と思いつつ嬉しそうにもぐもぐ食べるその子を見ていた。
途中アレルギーとか大丈夫かな、と思って心配したんだが、ちょうどアキラが振り向いて、
「お前誰と話してんだ?」
俺に聞いた。
「え…? あ、誰だろう」
俺が持っていた寿司のパックは米粒さえ残らず空になってた。
その日は結局釣果は得られないまま、神社で飲んで帰ることになった。ノンアルコールビールなのに、アキラは神社で壮大に暴れた。
後片付けもしない、狛狐には蹴りを入れる、傍若無人ぶりに俺は心の中で必死に謝っていた。
それから少ししてアキラが事故にあった。
家族以外面会謝絶になって、俺は何となくだが山で「今度おごれよー」って言ったことを思い出した。本当に何となくなんだけどな。
アキラのじいちゃんはあの山のことをそれなりに詳しいと思って、川であったことから神社のことまで全部話したんだ。
ただの偶然だろうけれど。
だって寿司やったとき、アキラのこと、こいつ面倒くさいな、って思っちゃったから。嫌いなわけじゃないんだけど、その頃のアキラって愚痴ばっかだったから。
もしかしたら、その寿司をもらった奴がアキラをこんな目に合わせたのかもしれない。
アキラのじいちゃんは「何で止めなかった」と俺の頭を本気で殴って、その後拝み屋を呼んだり色々したようだ。
俺も一緒に呼ばれて、名前を書いた形代とかいう人形の紙に名前を書かされた。そこに息を吹きかけて儀式は終了。
隣にはアキラの名前が書いてある人形もあった。
それのおかげかどうか知らないけど、アキラの容体は回復して退院した後今までの愚痴が嘘だったかのように仕事もプライベートもうまくいくようになったらしい。
一ヶ月の間に昇進昇給、宝くじも高額くじに当選。可愛いい彼女も出来てまさに順風満帆だ。
アキラが入院してるときにお見舞いに行ったんだけど、アキラのじいちゃんに止められた。でも殴って悪かったとは言われた。
アキラとは会わなくなったけどメールや電話でやり取りしてる。
俺はまだ寿司をやった奴におごってもらってない。ただ信じる者は何とやら、アキラと反比例するかのように俺は立て続けに不幸に見舞われた。
拝み屋からは、アキラにも神社にも金輪際近づくな、と言われていたが家族に相談した所「どうにもならないなら謝りに行った方が良い」とアドバイスされ、俺は一人で例の神社に向かうことにした。
その時に、あの神社を管理しているのは隣街の神社であり、子供なんてあの辺りには住んでいないとも教えられた。
何かいると思って気になるんなら行った方が良いと言うのだ。
仕事が休みになったタイミングで神社に行ってお参りすると、俺の服をちょいちょいとあの寿司ボーイが引っ張った。
いつの間に後ろにいたんだろうか、そう思いながら手招きする子供についていくと、神社の周りを何度もぐるぐると回る。
からかわれているのかと思っていると、今度は神社の入り口に招かれる。
勝手にいいのかな、と考えるが神社の子が良いと言うのだから良いということだろう。結局上がりこむことにした。
子供に手を引かれて神社の奥へと進む。いつの間にか奥座敷のような所に立っており子供に習うようにしてその場に正座した。
「あら、人違いね」
声が聞こえるといつの間にか正面に
「ごめんなさいね。こんな古風な目くらまし、今時するものがいるだなんて思わなかったわ」
御簾と俺の間に、俺の名前が書かれた例の人形が現れて不自然に燃え始めた。
ずっと夢の中にいるような感覚で、人形が燃え尽きた瞬間に俺の意識もプツリと途切れた。
気づくと子供がペシリと俺の頬を叩いて見下ろしている。
神社でお参りしたまま気絶していたようだ。
「俺、寝てたのか……?」
「おごってやったから、今度は天ぷらがいい」
良くは分からないが子供のリクエストに、俺は笑ってしまった。
「何の天ぷら?」
「ねずみ! あと寿司も食べたい!」
「今度持ってくるよ」
きっとこの子は人間ではないのだろう。天ぷらのチョイスからもそうだと思う。
俺は幽霊も神様も信じている。
アキラの異様なツキもおさまり、今度は小さな不幸が重なるようにもなった。
反対に俺には小さな幸運が訪れるようになった。
子供とは月に一回一緒にファミレスや回転すしに行くほどに仲良くなった。
アキラとは連絡を取ることすらなくなってしまったが、寿司ボーイとは定期的に神社の裏で釣れない釣りをしながら小さなパーティを開いている。
もう何年も遊んでいる。俺にも家族が出来て、子供が出来るほどの年月が過ぎたが寿司ボーイはいつまでも姿が変わらなかった。
穏やかで幸せな生活の中で、一つだけ憂鬱な事がある。
寿司ボーイお気に入りのねずみの天ぷらは、どこにも売っていない。そのため爬虫類用の冷凍ネズミを使って調理しなくてはいけないことだけが憂鬱だ。
釣りに行った 夏伐 @brs83875an
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます