第2章 Trance- トランス⑫

「ごめん・・・。そんなつもりじゃ・・・・。ほら、例えば絶叫マシンとかホラー映画とか、そういうものって怖いのにみんな面白がるだろう?そういう感じなんだ。確かに自分はおかしいな。」

 イチゴの返事はなかった。いつの間にか早足になっていて、気がついたら駅についていた。イチゴも一緒に改札口をくぐった。見送ってくれるつもりなのだろうか?

「なぁ、イチゴ。ごめんって。あのさ、それじゃあ俺とイチゴってぴったり合わないかな?確かに世間からはずれてるかも知れないけど、俺たち二人ははずれ者同士パズルみたいにぴったり合うようなきがするんだよね?」

男言葉でそう言った自分の声は、女の子の声。

 男と女がぴったりはまるようにできていて、自分たち二人はどっちでもないからどっちにもはまらない。でも、イチゴがもともと男で女になったというなら、もともと女で男の格好をしている自分とはぴったり合うピースなんじゃないか?

「本当に?本当にそう思うの・・・・?」

イチゴは泣き出していた。


 ガタン・・・ゴトン・・・・ガタン・・・・・・

「もちろん本当さ。また会いに来るよ。」

 轟音とともに、自分の街へ向かう電車が近づいてきていた。ひとまずは、家に帰ろう。久美子が怒っているだろう、きっと。なんて言い訳しようか・・・・

「本当ね。じゃあ、来てね。私の世界に。絶対だよ。」 

 イチゴはそう言って、笑った。たしかに、自分にも分かるように笑ったんだ。ドキリとする。「私の世界」って、やっぱりイチゴはアプリの中から飛び出してきた女の子だったんだ。そうして自分は異世界に来ていた。

 こんなに、非現実的で怖くて、面白い出来事があるんだな。絶叫マシンに乗る時の感覚に似ている。怖くて、面白い。


 ・・・・とん。


 とても軽やかに、ものすごい力で誰かが後ろから押した。

 自分は前につんのめって倒れる。・・・・・・・!ものすごく変な視界。ものすごくうるさい音。ものすごく嫌な予感・・・。世界がくるりと一回転した。

 自分がいるのは線路の上であり、起き上がれない!


 ざわざわと人が騒ぎ出す。轟音を響かせながら、乗るはずだった電車が迫ってくる。



「なんで・・・・?」

 自分を見下ろしているイチゴへやっとの声で問いかける。

「来てくれるっていったじゃない?私の世界に。大丈夫、ちょっと痛いけどすぐに楽になるよ。」

「・・・・・・!」


 怖い・・・・いやだ・・・・!助けて、誰か・・・・!


「ここはお前の世界じゃないのか?」

「ええ。違うわ。ここはあなたの世界よ。まあ、あなたにも予想外のことが起こっていたみたいだけどね。ジュン。」


「キャー」

という、見知らぬ誰かの悲鳴が聞こえた。

 

一秒・・・・二秒・・・・・

 その瞬間に音が消え、そして光も消えたんだ。




 まあ、面白いと言えば面白かったよ。

 まるで小説を書いているようだった。



「自分の人生を小説にしてはいけないよ。人生をドラマのように弄んだら、きっと不幸になってしまうから。」


 自分は知らなかったんだ。その罪が、こんなに重いなんてな。







End 第3章も読んでね


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バーチャル恋愛アプリに登録したら、リアルすぎた件 北浜あおみ @black_diary

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