二学期-01

 夏休みの間はつまらなかった。ひかりに会う機会がめっきり減ってしまう。登校日に顔を見た程度で、なかなか話しかけるタイミングがなかった。

 だから夏休み明けはうれしい。休みの間に読んだ本の話とか、いろんなことを話したい。

 ひかり、元気になったかな? ありさがいるから大丈夫か。そう思って気軽に登校したら、どうもちょっときな臭いことがあったらしい。

「一組に転校生が来たんだって」

 みんながうわさをしている。二学期から転校生か、ちょっと変わってるなと思ったら、どうもワケありの子みたいだ。

「なんか、前の学校でトラブル起こして転校することになったらしいよ」

「あー、なんかわかるかも……」

「態度わるいよね。下駄箱のとこでぶつかったのに無視されたんだけど」

 一組も二組も、女子も男子もうわさで持ち切りだ。でも一番ざわついたのは、どうもその女生徒が、ひかりにつっかかったらしいという話が持ち込まれたときだった。

「森宮さんが本読んでたら、なんでそんな気持ち悪い本読んでんの? っていきなり言ったらしいよ」

「うわ、最悪」

「なんでそんなこと言ったんだろ?」

「森宮さん、目立つからちょっかい出したんじゃない?」

「ちょっと許せないよね」

 そう声をかけられて、私もうなずく。ひかりにそんなことするなんて許せない。ほかの子が相手でももちろん悪いと思うけれど、よりによってひかりにそんな風にするなんて。

 幸いそのときはありさがすぐに割って入ったらしくて、そんなには揉めなかったらしい。でも初対面の子に、しかもひかりにそんな風につっかかるなんて明らかにヤバい子だ。

 ひかり、大丈夫かな。挨拶くらいはするけど、なかなか話しかけるタイミングがつかめない。

 私は図書当番の日が待ち遠しかった。


 新学期が始まって二日後、ようやく図書当番が回ってきた。

 みんなはいやがる当番だけど、私はこの時間が一番好きだ。ひかりとゆっくり話せる。ひかりはいつもだれかと一緒だから、ふたりきりの時間はとても貴重だ。

「ひかり! ひさしぶり!」

 図書室に入ってさっそく声をかけると、ひかりはなぜかぎょっとした顔で私を見る。夏休みの間会えなかったので、私は顔を見られただけですごくうれしい。でも、なんでこんな顔されなきゃならないんだろう?

「……高田さん、今私のこと何て呼んだ?」

「え? ひかりって」

 そういえば私、前は森宮さんって呼んでたんだった。夏休みで会えない間に変わってしまった。なんでだっけ?

 ああ、時々ありさと連絡とってたからか。ありさが「ひかり」って呼ぶから、うつっちゃったんだ。

「やっぱり高田さん、ありさちゃんと仲よくなったんだ」

 するどい。

 森宮さんにそう言われて、私は約束をやぶってしまったことを思い出す。でも、ありさと仲よくなったのは、ひかりのためでもあるんだし……でも、やっぱりよくなかったかな。

「ごめんね、ひか……森宮さん」

「ううん、いいよ。ありさちゃん、すごいフレンドリーだし、グイグイくるもんね」

 森宮さんはそう言って、諦めたように笑った。本当にごめんね、と思いながらも、私は胸をなでおろす。すごく怒らせてしまって、絶交されたらどうしようかと思ったのだ。優しい子でよかった。

 やっぱりは、すごくいい子なんだ。


 ところで一組の転校生は、初日からしっかり孤立してしまった。

 まぁ、当然そうなったまでのことだ。私も好き好んで話しかけたりはしない。見るからに意地悪そうな顔してるし、そんな子に関わろうとは思わない。

 でも、となりのクラスの子だから、たまに顔を見てしまうときもあって、そんなときはいやな気分だ。胸がムカムカする。

 あの子、またどこか別の学校に転校すればいいのになんて、そんなことまで考えてしまう。

 私なんかはただ考えているだけだけど、なかには面と向かって「もう学校に来ないでよ」と言う子もいる。なかなかあんなふうにはっきりは言えない。私はいやな子に関わるのがこわくて言えないけど、内心(いいぞ!)と思って応援している。

 でも転校生は思ったよりしぶとい。そう言われたくらいじゃ全然学校を休んだりしない。

 話が通じないって、ほんとに困ったものだ。そう思っているのは私だけじゃないみたいで、最近は机にいたずら書きしたり、持ち物を隠したりする子もいるらしい。

 そういうことは、もっとやった方がいいと思う。言葉で伝えてダメなんだったら、「ここは君がいるべきところじゃないんだよ」って、態度で示さなきゃ。これはいじめじゃなくて正当防衛だ。いや、しつけって言った方がいいかもしれない。だめなことはだめって、ちゃんと知ってもらわなきゃ。

 いじめっ子がいたら、そのせいでひかりがいやな思いをするかもしれない。こわい思いをするかもしれない。実際、最近のひかりは元気がない。前よりももっと深い悩みごとがあるみたいに見える。

 早く元気になってもらわなきゃ。

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