一学期-04
森宮さんは一組だけじゃなく、だんだん学年中の人気者みたいになってきた。先輩たちの間でも、ときどき話題になっているらしい。
だれ一人、森宮さんのことを悪く言うひとはいないみたいだ。みんな、森宮さんのことが好きらしい。図書室ではホラー系の本の貸し出し数がぐんと増え、司書の先生がおどろいていた。
六月になったけれど、私は相変わらずだ。森宮さんと話すのは図書当番のときがほとんどで、そうじゃない日はそれほど会ったり、わざわざ話したりもしない。クラスも部活もちがうし、そもそも森宮さんはいつもみんなに囲まれているから、なかなか機会がないのだ。
ついでに、椿さんと話したりする機会もない。だから私は、特に努力もせず、森宮さんとの約束を守り続けることができていた。
「いいよね、瑞希は。森宮さんと図書当番かぶるんでしょ?」
そんな風に言われることが増えてきたのは、いつ頃からだっただろうか。
図書当番だけじゃない。廊下ですれ違ったりすると、森宮さんは私にあいさつをしてくれる。知り合いなんだから当然だ。でも、ほかの子たちからすると、それがすごくうらやましいものに見えたりするらしい。
だって、みんな森宮さんのことが大好きだから。
うらやましがられることが増えるにつれて、私と元々仲がよかった子たちが、だんだんよそよそしくなってくる。おかしなことになってきたな……と思っていた矢先、登校したら私の机の上に花が置かれていた。しかもわざわざお仏壇に飾るような花を用意して。
「は? なにこれ」
本当にびっくりして、大きな声が出た。だってこれ、あまりに絵に描いたような「いじめ」じゃないかと思ったのだ。
「だれかこれ、ここに置いたー?」
もしかすると、だれかが別のところに置くつもりで、一旦私の席に置いたのかもしれない。そんな期待を込めて周りを見たけれど、だれとも目が合わない。みんな私の方を見ないのだ。明らかに避けられている。
今まで当たり前だった私の世界が、ガラガラと音を立てて崩れていくような気がした。
それから色んないやがらせが始まった。花だけじゃない。ロッカーの中身が出されて床に散らばっていたり、私物がなくなったり、みんなが私のことを無視するようになった。机の上にマジックで「調子にのるな」と書かれていたこともある。たった一週間くらいの間に、これらが全部起こったのだ。
だれかに相談しなきゃと思ったけれど、入学早々親には心配をかけたくないし、先生にも言いにくい。とにかく登校しなきゃ、一回休んだらもう学校に行けなくなる、と思って普段通りに学校に通っていたけれど、ある朝玄関で靴をはこうとしたとき、私は突然過呼吸を起こした。
あ、もうムリなんだ、と思った。その日はとにかく一日休むことになって、私は部屋に閉じこもった。ベッドの中で色んなことを考えた。やっぱり、森宮さんのことが原因だという気がする。ちょっと接点があるってだけなのに、こんなにねたまれることになるなんて思っていなかった。でもこんなこと、森宮さんには相談できない。
もし相談したら、森宮さんはたぶん私のことを心配してくれるし、いっしょに困ってくれるとも思う。でも、ただでさえ何か悩んでいるらしい森宮さんに、こんなことを言うのはイヤだ。ますます悩ませてしまうだろう。
でも、どうしたらいいのかわからない。涙が勝手に出てきてしまう。
寝ているうちにいつの間にか夕方になっていた。下校時刻を知らせる放送が小さく聞こえる。今ごろみんな家に帰ってるんだろうな。森宮さんは何してるかな……学校のことを考えると胸がつぶれそうだ。そのときだった。
部屋のドアがノックされた。
「瑞希、お友だちが来てるけど……」
母さんの声がした。
「友だちって?」
もしかして森宮さんかな、と思った。体を起こして声をかけると、ドアの向こうから母さんが答えた。
「椿さんっていう子。どうする?」
それにかぶせるように、「高田さん! 急にごめんねー」という高い声が聞こえた。
次の瞬間、私の口からなにかに導かれるように出てきたのは、「何で椿さんが?」でも「帰ってもらって」でもなく、なぜか「どうぞ」という言葉だった。
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