五年一組-01
転校してきてから一年がすぎて、わたしとありさちゃんは五年一組になった。クラス替えで別の教室になった子たちも、休み時間になるとわたしに会いにきてくれる。新しくいっしょのクラスになった子たちとも、すぐになかよくなれた。
でも、一番なかよしなのはやっぱりありさちゃんだ。いつもわたしといっしょにいて、優しくしてくれる。
あいかわらず「好きで好きでたまらない」って顔で、わたしのことをじっと見つめる。
「ひかり、中学は公立に行くんだよね? わたしも公立にしたいなぁ」
ありさちゃんは、そんなことまで言い出すようになった。
ありさちゃんは勉強ができて、家もお金もちだから、ちょっと遠くの私立中学校を受験するものだとみんなが思っていた。もちろん、わたしも。なのに、
「私立に行ったって、ひかりがいないんだったらつまんないもん」
なんて言う。
「でも、もったいないよ。ありさちゃん頭いいのに」
わたしのために中学校を変えるなんて、あまりにも責任重大だ。なんだかこわくなってきてしまう。
「それにありさちゃんが公立にしたいって言っても、お父さんとかお母さんは私立に行ってほしいと思うんじゃない? 先生だってそう言うだろうし……」
わたしがそう言うと、ありさちゃんは「ふふっ」と笑って、わたしをじっと見つめる。
「大丈夫だよぉ。お父さんもお母さんも、先生だって、話したらきっとわかってくれるって!」
こうして六年生になる前に、ありさちゃんはもう公立中学校に行くことを決めてしまった。私立の受験はしない。お父さんもお母さんも担任の先生も、いつのまにかそれでちゃんと納得しているらしい。
「まぁ、今とくべつ公立が荒れてるわけじゃないしね。本人が行きたいところに行くのが一番だと思うの」
ありさちゃんの家に招待されたとき、ありさちゃんのお母さんがわたしにそう言った。ありさちゃんのお母さんだけあって、やっぱりとても美人だ。
「ありさってね、家でもひかりちゃんの話ばっかりしてるの。ひかりちゃんのことが大すきなのよ。中学校に行っても仲よくしてね」
大人にあらたまってそう言われると、どきどきしてしまう。「はい」と返事をしながら、わたしはお母さんの、ありさちゃんによく似た顔をながめる。
お母さんもあの「好きで好きでしかたない」みたいな顔をしたらどうしよう、と思って、背中がすっとさむくなる。
おかしい。
ナイナイがいなくなった日から、ずっとずっとおかしくなったままなのだ。
わたしの周りのひとたちが、わたしに優しすぎる。
そんなことはずっと前からわかっているけど、わたしにはどうしようもない。いじめられていた頃に戻りたいわけじゃないし、第一どうやったら戻れるのかもわからない。
みんながわたしに優しくしてくれる。わたしをちやほやしてくれる。わたしは五年一組のお姫さまみたいに扱われて、そのまま六年一組のお姫さまになった。
お母さんの怒ったところも、しばらく見ていない。わたしがちょっと部屋を散らかしたり、休みの日に寝坊したりしても、「しかたないわねぇ」とにこにこしている。今はありさちゃんのお母さんがやっているお店で働いていて、前みたいに髪がぼさぼさじゃないし、お化粧もきちんとしている。
お母さんが優しくなって、きれいになって、もちろんうれしくないわけじゃないけれど、でも、思ってしまう。
おかしい。
でも、どうしたらいいのか、どうなるのがいいのか、わからない。
おかしいまま一学期が終わって、二学期が終わって、三学期が終わって、卒業式の日がやってきた。
みんなが泣いている。卒業する子たちだけじゃなくて、先生たちも、下級生の子たちも泣いている。
「ひかりちゃんが卒業しちゃうなんてさびしい」
「もう会えなくなるなんて」
「中学生になっても遊びにきてね」
わたしが顔を知らないような子まで、そんなことを言って泣く。
言えない。
今さら「みんなおかしいよ」なんて、言えない。
そして、わたしは中学生になる。
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