四年二組-08

 そのつぎの朝、わたしが教室に入ると、ありさちゃんがまた一番に振り返って「おはよう!」と言う。

 ありさちゃんが話していた女の子たちもわたしの方を見る。

「あ、ひかりおはよう!」

「おはよー!」

 その子たちも口々に声をかけてくる。まだ一度もちゃんと話したことがないような子まで、にこにこしながらわたしにあいさつをする。

 わたしがランドセルをロッカーに入れるとありさちゃんが来て、「ひかりもいっしょに話そ」と言って、わたしの手をぎゅっとにぎった。

 ありさちゃんと仲のいいグループの子たちは、まるでわたしもずっと同じグループだったみたいに話しかけてくる。

 みんなたのしそうに笑っている。なにかの話をしていて、わたしがそのことを知らなさそうだったら、ていねいに教えてくれるか、別の話に切りかえてしまう。

 ありさちゃんは休み時間になるとわたしのところにやってきて、「いっしょにいてもいい?」と聞いてくる。断るのがこわくて、わたしは「いいよ」と答えてしまう。放課後はわたしのところに来て、「いっしょに帰ろ!」とさそう。

「ねぇ、今度うちにこない? こないだひかりの家に行ったから」

「えっ、ありさ、ひかりんちに行ったの?」

 話を聞きつけて、ほかの子も声をかけてくる。

「いいなぁ、私も行ってみたい!」

「あの、うちせまいし、古いし」

「じゃあ今度、うちでみんなで遊ぼ!」

 ありさちゃんが言うと、みんなも「いいね!」「行きたい!」と声をそろえる。

 その日はみんなでおしゃべりしながら、にぎやかに下校した。まるでずっと前からこうやっていたみたいに、みんな当たり前のような顔をしていた。


 次の朝、わたしが教室に入るとやっぱりありさちゃんが一番に「ひかり! おはよう!」と声をかけてくる。それから同じグループの子たちが口々に「おはよう!」「おはよう!」とあいさつしてくれる。

 別のグループの女の子も、男の子たちも、わたしに声をかけてくれる。これまで一度も話したことすらないような子たちが、みんな、わたしのことをちやほやする。

 でも、一番わたしのことが好きなのは、やっぱりありさちゃんらしい。

 ときどきわたしの顔をじっと見て、あの「好きで好きでたまらない」みたいな顔をするから、それがよくわかる。


 もうわたしの机がひっくり返っていることなんかない。

 ロッカーの中身がばらまかれていることもない。

 持ち物がなくなったり、汚されたりしていることもない。


 今までは、ありさちゃんが四年二組の女王さまみたいだった。

 今はわたしが、四年二組のお姫さまみたいになっている。


「ひかり、次の土曜日、あたしんちにこない?」

 授業が終わると、いつのまにかありさちゃんがわたしの机の前に立っている。

「あたしの部屋、いっぱい本があるよ。幽霊とかの本。妖怪とかUFOのもあるよ。何でも読みたいやつ貸してあげる」

 ありさちゃんはわたしに、とてもかわいい笑顔を見せてくれる。

「ひかり、こわい話よく読んでるもんね」


 わたしのことなら何でも知ってるみたいな顔で、わたしを見つめて、そう言う。


 わたしが学校でうまくやっているので、お母さんは少し機嫌がよくなって、前みたいにあまり怒ったりしない。

 それどころか、少しやさしくなった気がする。

 ありさちゃんは時々うちに遊びにくる。そのたびに、お母さんはやさしくなっていく。前みたいに部屋をめちゃくちゃにしないし、ものをこわしたりもしない。片腕だけど家事をして、わたしが手伝うととてもよろこぶ。お礼も言ってくれる。

 今まではそんなことなかったのに、まるで前からずっとそうやってたみたいに、当たり前みたいに、やさしい。


 ナイナイはもうずっと、押入れの中からいなくなったままだ。

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