四年二組-07

 つぎの朝、わたしが教室にいくと、ありさちゃんが一番に「ひかり! おはよう!」とあいさつしてくれた。

 ふだんだったら絶対にこんなことないし、いっしょに話してた子たちもびっくりしている。わたしがもじもじしていると、ありさちゃんはわたしの方にぱたぱたと走ってやってきた。

「おはよう?」

 もう一度そう言って、わたしの目をじっとのぞきこむ。こんな顔、ありさちゃんだけじゃなくて、今までだれにもされたことがない。

 なんていうんだろう。「好きで好きでたまらない」みたいな顔だ。

 授業中も、ありさちゃんはときどきわたしの方をふりむいて、うれしそうににこっと笑う。わたしはどんなふうに返していいのかわからなくて、でもなんだかうれしくてどきどきしてしまう。

 でも、こわい。

 昨日あったことはわたしの夢なんじゃないかと思っていたけれど、でも、やっぱり夢にしては変だと思う。ありさちゃんがうちに来たのは本当のことなんだし、なにかが起こったことは確かなはず。

 それに、ナイナイだっていなくなったままだ。

 ありさちゃんにちゃんと話を聞かなくちゃ。

 休み時間、ありさちゃんに「ふたりで話したい」と言うと、ありさちゃんは「いいよ!」とすぐに返事をしてくれた。今まで話していた友だちには「ちょっとごめんね!」と声をかけて、わたしの手をぎゅっとにぎる。

「行こ、ひかり!」

 わたしたちはいっしょに渡り廊下に行った。いつもあまり人がいないからだ。わたしたちはなんとなく、そろって手すりの上に両手をのせて、下をながめながら話をした。

「昨日、ありさちゃん、うちにきたでしょ?」

「うん、楽しかった。ありがとね! また行っていい?」

「うん、いいけど……あの、わたし、ありさちゃんに押入れを見せたでしょ? そのあとって、その――どうしてた?」

「そのあと?」ありさちゃんはわたしの方を向く。小鳥みたいにかわいらしく首をかしげて、

「うーん、押入れの中を見せてもらったでしょ。で、なんにもなかったーって言って押入れから出してもらって、それからジュース飲みながらいろいろ話してたんだよね。そしたらひかりがなんかうとうとし始めて、つかれたって言って寝ちゃったんだよ」

「そう……?」

「うそぉ、覚えてないの?」

 ありさちゃんはそう言って、わたしのおでこに手をあてた。やわらかくてあったかい。

「だいじょうぶ? ひかり、体調わるいんじゃない?」

「ううん……だいじょうぶ。ありがとう」

 渡り廊下には屋根がない。空はよく晴れて、今日はとても明るい。気持ちのいい風が吹いている。

 なのにこわい。これ以上ありさちゃんに話を聞くのがこわい。本当はなにがあったのかなんて、知らない方がいいような気がする。

「ひかり、気持ちわるくなったりしたら言ってね? 保健室ついてってあげるから」

「うん……あ、あのさ、ありさちゃん」

 わたしはもうひとつだけ、とても気になったことがあって声をかけた。ありさちゃんは「なーに? ひかり」と言ってまた、わたしをじっと見つめる。

「あのさ、ありさちゃんって、前からわたしのこと『ひかり』って呼んでたっけ? 『ひかりちゃん』じゃなかったっけ……」

 ありさちゃんの動きが、ぴた、と止まる。動きがなくなって、表情がなくなって、ありさちゃんは急に人間をやめたみたいに見えた。

「……そうだったっけ?」

 またいきなり、ありさちゃんが人間に戻る。「忘れちゃった」

「そっか……」

「あ、もしかして『ひかりちゃん』の方がよかった? だったら」

「ううん、そういうんじゃなくて、ちょっとそんな気がして気になっただけ」

 わたしはあわててそう返した。ありさちゃんはうれしそうに笑いながら「そっかぁー」と言った。

「あ、そろそろ戻ろっか。チャイム鳴っちゃう」

 ありさちゃんはそう言うと、わたしの手をぎゅっとにぎった。

 わたしは、自分の手がふるえているような気がした。それがありさちゃんにばれるんじゃないかって、気になってしかたがなかった。

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