四年二組-04
お母さんがお父さんに電話をかけている。
どうやらお父さんは、お母さんにお金をわたさなきゃいけなくて、なのにわたしていないらしい。どうしてお父さんがお母さんにお金をあげなきゃいけないのか、わたしにはよくわからない。お父さんとお母さんは離婚して、他人どうしになったはずなのに(お母さんがそう言っていた)、そうしなきゃいけない決まりがあるんだろうか。
お母さんの声がどんどん大きくなる。高くなる。叫びだす。
お金がもらえなかったら大変だろうなとは思うけれど、わたしはそれよりも、別のことが気になってしかたがない。またポストに「しずかにしてください」って手紙を入れられてしまう。掲示板のはり紙だって、絶対にうちのことだと思う。
わたしにはすごくうるさく注意するくせに、わたしが「しずかにして」と頼んだときは、お母さんは顔をまっかにして、どなったり、わたしの髪をひっぱったりする。
「そういうこと言うひーちゃんの顔って、お父さんにすごく似てる」
それはとても悪いことなんだって、お母さんの目がそう言っている。
わたしは何がいいことなのか悪いことなのかわからなくなってしまう。わたしの顔が全然ちがう子の顔だったら、お母さんはよろこぶんだろうか?
でもそんなこと、わたしにはどうしようもない。
わたしは最近、図書室で民話の本を借りるようになった。
図書室にあるおばけの本はもうぜんぶ読んでしまって、それでもこわい本がないか探していたら、司書の先生がすすめてくれた。
「全部じゃないけど、たまにおばけの話がのってるよ。ほかの話もけっこうおもしろいから、読んでごらん」
民話の本はいっぱいあって、今は岩手県の本を読んでいる。
名前だけどこかで聞いたことがあった「ざしきわらし」の話がのっている。むかし、ざしきわらしがどこかの小学校に出たけれど、大きな子や先生には見えなかったらしい。
そういえば、お母さんはナイナイのことがわかるんだろうか? お母さんもわたしの部屋に入って押入れを開けたりするはずだけど、ナイナイのことはなんにも言わないから、ぜんぜん気づいていないのかもしれない。
それでいいと思う。もしお母さんがナイナイのことに気づいたら、ナイナイを追い出してしまうかもしれない。
押入れのなかに入ると、ナイナイはわたしにそっとよりそってくる。最近、ちょっとあたたかさを感じるような気がしてきた。
ナイナイの名前は、わたしが勝手につけた。かたちもない、声もない、顔もないから、ナイナイ。ないものだらけだけど、ナイナイはちゃんと押入れの中にいる。
最近は四年二組どころじゃなくて、学校ぜんぶがおばけブームみたいになっている。
三階の女子トイレ、ちょうど四年二組にいちばん近くて、みんながよく使うところに、女の子の幽霊がでるってうわさになっているのだ。
その女の子は一番おくの個室にいて、となりの個室に入っていると、だれもいないはずのとなりからしくしく泣き声が聞こえるらしい。手を洗うところの鏡に、長い髪の女の子が映ったりもするらしい。だれかの友だちが見たとか、学校にきた工事のひとが見たとか、そういう話がとび交っている。その幽霊に会うと死ぬらしいなんて、まだだれもトイレで死んだわけじゃないのに、そんなうわさまで広まっている。
なんの証拠もないのに、みんなけっこうこわがっている。何人も集まってキャーキャーさわぎながらトイレに行ったり、わざわざべつの階のトイレを使っている子もいるくらいだ。そうやっているところも楽しそうだから、みんな幽霊のうわさで遊んでいるだけなのかもしれないけれど。
わたしはいっしょに行く友だちもいないし、別のトイレは遠くてめんどくさいので、幽霊が出るっていうそのトイレを、今までどおりにつかっている。
ありさちゃんはわざわざわたしに近づいてきて、「ひかりちゃん、トイレの幽霊こわくないの? ドンカンだね〜」なんて話しかけてくる。とても楽しそうに、にやにやしながら。
うわさだけの幽霊より、机をひっくり返したりする「幽霊」の方がよっぽど迷惑でこわいよ、と言いたくなるけど、言わない。またいじわるされたらいやだから、がまんしている。
でもじつは、こんなうわさだけの幽霊を、ありさちゃんは本当にこわがっていたのだ。
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