5-13 訪れた人
「あ…本日は…どうもお世話になりました。それでは…失礼致します」
頭を下げて、そのまま寮に入ろうとした時―。
「ロザリー。少し話がしたいんだけど…」
背後でレナート様が声を掛けて来た。話…?一体どんな話がしたいと言うのだろう?フランシスカ様の事?それとも私の出自についての事なのだろうか?ユーグ様とどのような話をしたのか分からないけれども、何も触れられたくは無かった。
「あの…アルバイトで疲れているんです。明日もアルバイトなので早めに休みたいのです。申し訳ございません」
振り向くと、遠回しに断った。
「あ、そうだったね。ロザリーは明日もアルバイトだったね」
「はい、申し訳ございません。失礼致します」
頭を下げると足早に私は寮の中へと入って行った。
ガチャッ
真っ暗な部屋に入ると、テーブルに置いたアルコールランプに火を灯して明かりをつけていく。
「ふぅ…」
ようやく部屋の中がオレンジ色の明かりで満たされると、ベッドに座って溜息をついた。
「疲れた…」
レナート様が私の所へ来たのはユーグ様の件であることは分っていた。けれども、私はもうレナート様とは関わりたくは無かった。この学園生活を終えれば、私はそのままユーグ様の元へ嫁ぐことになる。そうすればもっと自由が奪われるだろう。だからせめて学園生活を過ごす間は余計な悩みを抱えずに暮らしていたかったのに…。
時計を見ると、時刻は18時半になろうとしていた。
「とりあえず、食事にしましょう…」
テーブルに移動してカトリーヌさんから貰ったパイをバスケットから取り出すと、私は1人きりの食事をとった―。
****
午後8時―
退屈しのぎに部屋で読書をしていると、窓がコツコツ叩かれる音が聞こえた。
「…何かしら…?」
立ち上がって、窓を開けると何とそこにはイアソン王子とフランシスカ様の姿があった。
「ど、どうしたのですか?2人共」
驚いて尋ねるとイアソン王子が言った。
「あの後、レナートに何か言いがかりをつけられたりしていないか気になってね」
「ええ。それでイアソン王子に誘われてロザリーの様子を見に来たのよ。どう?大丈夫だったのかしら?」
イアソン王子とフランシスカ様が私を心配してくれていた…。
「あ、ありがとうございます。気に掛けて頂いて嬉しいです」
俯きながらお礼を言う。
「いいのよ、それくらい。だってレナートが貴女にきつくあたったのは私のせいなのだから。逆に申し訳ないくらいだわ」
「いいえ。フランシスカ様のせいではありませんから」
「それで、あれからレナートはロザリーの所へ来なかったかい?」
イアソン王子の言葉に思わず表情がこわばってしまった。
「…やっぱり来たのね?」
「はい…」
「全くあいつは…俺から注意しておこう」
イアソン王子の言葉に慌てて引き止めた。
「ま、待って下さい!お願いですから何も言わないで下さい」
「だが…」
するとフランシスカ様が言った。
「そうね…確かにレナートに注意すれば、その矛先がロザリーに向かうかもしれないわ」
「言われてみればそうかも知れない…分かった。もうロザリーには近付くなと釘を刺す程度にしておこう」
「はい、宜しくお願いします」
「ロザリーは明日もアルバイトなの?」
「はい、明日も10時から17時まで仕事です」
フランシスカ様が尋ねてきたので返事をした。
「そうか、ならもう俺たちは帰った方が良いな」
「ええ、そうですね」
「それじゃ、またね。ロザリー」
「またな」
「はい、ありがとうございます」
そしてイアソン王子とフランシスカ様は帰って行った―。
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