2−1 寂しい寮
入学式から5日間が経過して、新しい生活にも少しずつ慣れてきた。始めはこの学園内に厳しい階級制度が設けられている事に戸惑いを感じていたけれども、本格的に授業が始まってしまえば、何という事は無かった。何故なら平民の学生と貴族の学生たちではカリキュラムの内容が違っており、同じ教室で授業を受けることが殆ど無かったからである。科目の中では共通して一緒に受けなければならない授業もあったけれども科目は少なく、週に2回程度しか無かったので、それほど負担になるものではなかったのだ。唯一毎日一緒に受けなければならないのは朝と帰りのHR位で、時間も僅か5分程だったので、精神的な負担は殆ど無いと言っても良かった―。
キーンコーンカーンコーン…
午後3時―
本日最期のHRが終わり、いよいよ明日は待ち望んでいた週末だった。帰り支度をしていると、アニータが声を掛けてきた。
「ねぇ、ロザリー。明日から2日間のお休みだけど…里帰りはするの?」
その言葉に驚いた。
「え?アニータは…ひょっとすると里帰りするの?」
「あら?もしかしてロザリーは帰らないの?」
「平民寮に住む殆どの女子学生は里帰りするわよ?」
すると近くにいたアリエルにサリーも話に混ざってきた。
「そ、そうだったの…?皆遠くからこの学園に入学しているのに?」
彼女達は実家が遠く、全員汽車でも3時間はかかるはずなのに。アリエルに至っては4時間は汽車でかかると聞いている。
「私は午後4時の汽車に乗らないといけないから、先に寮に戻っているわね」
笑顔で手を振って去っていくアリエル。
「アリエル、楽しそうね…」
私の言葉にサリーが言った。
「それは当然よ。だって私達は普段抑圧された学校生活を過ごしているからよ。知ってた?週末里帰りするのは殆どが平民の学生たちだって事」
「そうなの?それも初耳だわ…」
それでは寮に残る平民の学生は私だけになるのだろうか?まさか夜は1人きりで…。すると私が心配そうにしていることに気付いたのか、アニータが声を掛けてきた。
「大丈夫よ、寮母さんは必ずいるから何か困ったことがあったら寮母さんを訪ねればいいのよ」
「そう?寮母さんはいるのね?」
「ええ、いるから大丈夫よ」
サリーが返事をする。でも…あの広い寮の建物から学生たちが殆どいなくなるのは、やはり私にとっては不安だった―。
****
午後8時―
寮の食堂で夕食を取った私は1人ルームメイトのアニータ不在の部屋へと戻ってきた。そして図書室で借りてきた本を読んでいた。
「…」
カチコチカチコチ…
しんと静まり返った部屋に壁に掛けた時計の音が響き渡っている。
「ふぅ…」
パタンと本を閉じるとため息を着いた。それにしても…まさか私以外の全員が里帰りしてしまっていたとは思わなかった。1人寮に残った私を気の毒に思った寮母さんが一緒に食事をしてくれたのだが、9月の新学期の頃はたいていの女子生徒たちは里帰りしてしまうそうだ。寮母さん曰く、元々女子生徒たちは貴族という爵位が無いだけであり、全員裕福な家柄の少女たちばかりらしい。学園生活で抑圧された生活から開放されたくて毎週末生徒達は帰省しているという事だった。
「当然…私は帰れるはず無いわよね…」
今夜はもうシャワーを浴びて…早めに寝よう。自分専用のチェストを開けて着替えを取り出すと、シャワールームへと向かった―。
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