第4話 1日目 ネットニュース

始業時間になっても、殆どの社員が無断欠席。いや、来るかもしれないので遅刻をしている。

部長も次長も、来ていない。何よりみんなが連絡して来ないのが、何となく不気味だ。

俺は、自分のディスクでパソコンの画面を見た。

仕事をしている訳ではない。ネットニュースだ。こういう時の為に、閑散期に鍛えたネットサーフィンの力が発揮される。

大手のネットニュースも良いけど、こういう時は地域密着型のサイトが強い。普段はテレビで放送されない小さな事件も直ぐに掲載される。Twitterとも連携しているので、情報収集量が圧倒的に違うので、このサイトが好きだった。

どれどれ?

何があったんだろうか?

色々な情報が飛び交っていた。


【 人間が狂犬病 】

【 ドラックが飲料水の混入で錯乱している人間が多数 】

【 新種のウィルス 】

【 集団催眠 】


ゲームとか、映画の設定の様な言葉が飛び交っていた。

今日はエイプリルフールじゃないぞ? 冗談じゃない。

俺は、そのサイトから大手ニュースサイトに飛んだ。


【 トラブル多数 】

【 錯乱している人が暴行 】

【 凶暴、錯乱、制御不能。多数の逮捕 】


こちらも似た単語が使われていた。

俺は腕組みをした。どういう事だ? 世界規模のドッキリ? Googleがエープリルフールの日、大々的に付く冗談が今現在、行われている!?


「いやいやいや」


思わず、頭まで考えた恥ずかしい事柄に対して、声が出てしまった。

自分でも驚く程、ガキ臭く。

駄目だなぁ。タバコを吸いに行こう。

俺は、席を立ち、喫煙室に向かった。

勤めているこの会社は、9階建てのビルだ。喫煙所は何故か、9階にある。そして俺のオフィスは2階。かなりの距離だ。それでもタバコを吸いたいのは、依存が強い証拠だ。

直子には「タバコは自分にも他人にも悪影響」と煙たがれていた。物理的にも精神的にも。辞めようと努力はしたものの、辞める事は出来なかった。直子は「妻を愛していないのね」と泣き真似をしていたが、それでもタバコは容認してくれているので、良妻だ。

あ〜そう言えば、足の傷は直子にどう話そう? と、考えながらエレベーターホールに行く。

たまたまだろうか。1回目は偶然でも2回目は奇跡だ。

また会ってしまった。あの娘だ。


原野はらのさん、また会いましたね? 傷はどうですか?」


笑顔で話し掛けてくれた。俺はこの娘に名前を知られているのに、俺はこの娘の名前を知らない。

えっと。

何だっけ?

マミちゃん? マイちゃん? あ!? 白井しらい 麻衣まいだ! 思い出した。みんな白井ちゃんって呼んでいた。


「何とも無いよ。白井ちゃんもコレ?」


タバコのジェスチャーをする。

見た目はダサいけど、1番分かり易い。それにタバコという単語を使うのは、駄目だ。誰か聞いているか、分からない。タバコ休憩を忌み嫌う人種が一定数、存在する。

喫煙者だけ、ズルい。

仕事しろ。

と、いったどうでも良い理屈を言うのだ。俺から言わせて貰えば、アホか? と言いたい。

タバコを吸える位の余裕を持って、仕事をしないと駄目だ。あと、タバコを吸う事で、ブーストが掛かる。俺はコレをニコチンドーピングと言っているけど、能率が上がるのは確かだ。


「はい。今日は人が少ないので、バンバン吸いに行こうと思います」


ガッツポーズをする仕草がめっちゃカワイイ。

小型犬の様に愛らしく、猫の様に無邪気だ。直子という妻が存在しなければ、後ろから抱きしめて、股間をお尻に擦り付けている所だった。

勿論、妄想だ。実際、妻が居なくても、股間を擦り付けはしない。口に出して、「カワイイねぇ」とは、言ったかもしれない。


「俺もそうだよ。何か、今日少ないねぇ人? なんかネットニュースではトラブルが多いらしいよ? もう世紀末だねぇ」


はっはははっと笑う。

でも白井ちゃんは乗ってこない。何だか、深刻な顔をしている。そのまま、エレベーターに乗り込んだ。

重い沈黙だった。

そこで分かった。白井ちゃんは、無理して笑っていた。近くで見ると汗を掻いていた。襟の所が湿っている。

何だ? どうしたんだろうか?

俺たちは無言で、喫煙室に入った。何か、話をしないと沈黙に押し潰されそうだ。ここは自虐ネタでもぶっ込むか?


「白井ちゃん、彼氏は?」

「へ?」

「いや、彼氏とか居るの?」

「いえ、居ませんよ。彼氏とか2年は居ません」

「あれ? なんで? カワイイのに」


あ。言ってしまった。完全にナンパ野郎だ。俺もそろそろアラフォーだ。こんな軽口を叩くのは良くない。馬鹿に見られてしまう。

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7日間で終わるゾンビ生活 火雪 @hi-yu-ki

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