青春を捧げたTCAGがサ終するオタクの話

靖雪

第1話 戦慄の年末


世間も浮かれる年末、私だって例に漏れずそちら側だった。

もう8年以上もやり込んできたTCAG(トレーディングカードアーケードゲーム)の公式からのとんでもない告知を目にするまでは。


その日私は何時も通りに仕事を終わらせ、帰り道にある百均で売れ残りの犬用のサンタ帽と猫用のサンタケープを購入した。

用途は勿論、愛犬と愛猫に着せるためだ。

年末に近付いてきた街はカップルや家族連れで賑わい、クリスマスの残りであるイルミネーションがキラキラと輝いていた。

東京に来て4年長いような短いような時間だが、私をこんな日々に慣れさせるには十分な時間だった。


仕事に没頭し、家の愛犬と愛猫に癒され、たまの休みに息抜きで大好きなTCAGをやりに行く。

何の変哲もないただの社会人オタク。

何も起こるはずない、そう信じていたのだ。


電車に乗りこみ荷物を足の間に置き、一息ついてTwitterを開いた。

オタク共の来年への意気込みや、楽しそうにイベントを告知する公式を眺めながら最新ツイートへとスクロールする。


「お、公式ツイートしとるやん」


ふと指が止まった。

それはもうやり始めて数年は経つ大好きなTCAGの公式のツイートだった。

このTCAGは私が中学一年生の時にサービスが開始された。

異世界が舞台となった世界観で、モンスター達をカード化して戦う至ってシンプルなシステム。

アイテム数やモンスター数も多く、やり込み要素は無限大な上キャラデザインも素晴らしいので人気が下火になってきた今でも古参ファンから確固たる人気を誇っている。

だが最近はやはりプレイヤー数も減ってきたのだろう。

公式からの供給も減り、イベント開催も少なくなり、新章の解放や新キャラの発表も無くなったのだ。

寂しさを覚えつつも私個人としては、推しモンスターの最終進化まで出ているし特に気にしていなかった。

そんなTCAGの公式が久々に【重要】なんて書いてツイートをしていたのだ。


「満を持して新章か〜??なになに?えーっと…サービス終了の、お知ら、せ……」


サービス終了?

ちょっと日本語詳しくないので分からないのですが、サービス終了って"あの"サービス終了ですか?

え?待ってくれ、待って、ちょっとだけ待ってください。

サービス終了…?

もうすぐ9周年だぞ?何言ってる?


オタク特有の無表情のまま、頭の中をフル回転させて考える。

発狂したい気持ちを堪えながらも、最寄り駅に着いた電車から必死の思いで這い出る。

寒空の中改札を出て立ち尽くし、ふと空を見上げる。

その時の私にはただ「とりあえず家に帰ろう」と、それしか考えられなかったのだ。

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