第37話 エピローグ

 久宝パンがデリシオッソカフェを買収してから、二ヶ月ほどが経過した土曜日の午後、宏樹と健治、晶と瑠璃の四人は、改装のために金曜の夜に閉店したコジマベーカリー二号店を訪れていた。

 デリシオッソカフェを買収した久宝パンが、カフェベーカリー事業の先駆けとして、コジマベーカリー二号店を改装し、”デリシオッソカフェby久宝パン”の第一号店としてオープンするためだ。

 この店は”デリシオッソカフェby久宝パン”のモデル店舗となり、デリシオッソカフェは順次、カフェベーカリーの形態へと店舗を改装していく予定である。


 月曜から始まる改装工事に向けて、備品の整理をするため宏樹たち四人は店内に足を踏み入れた。


「この店もコジマベーカリーじゃなくなるのか……そう考えると、やっぱり寂しいな」


 昼間なのに誰もいない静かな店内、火が入っていないオーブン、宏樹の記憶にある活気があったカフェとの落差が哀愁を誘う。


「そうだな……でも、本店の方が残っただけでも良しとしようじゃないか」


 健治が言うようにコジマベーカリーの本店は、その名称を残して営業を続けることが決定している。パンの製造販売は今まで通り行い、カフェベーカリーで販売する商品の開発とパン生地を製造、という役割が業務として新たに与えられた。

 カフェベーカリーでは店内にパンを焼くオーブンは設置するものの、パン生地の製造はしないため、コジマベーカリーで製造したパン生地を輸送してもらい使うことになっている。


「でも……コジマベーカリーの設備じゃ、デリシオッソカフェ全店のパン生地は製造できないからね。いずれ久宝パンの工場で製造するようになるんだろ?」


 デリシオッソカフェは順次カフェベーカリーに業態を変えていくので、いずれコジマベーカリーではパン生地の製造は追い付かなくなる。


「その時はコジマベーカリーが商品開発の拠点になって、健治おじさんには新商品の開発に専念してもらうから大丈夫よ」


 宏樹とは対照的に、瑠璃は特に心配した様子はなかった。政光から今後の事業展開を聞かされているからだ。

 コジマベーカリー本店を残し、久宝パンにカフェベーカリーで使うパン生地の製造設備が整うまでの一時的にパン生地の製造と、新商品の開発の拠点にするというアイデアは瑠璃が考えたらしい。


「瑠璃ちゃん、俺たちのためにそこまで考えてくれてありがとな。ああ、宏樹のためにだったかな?」


「ち、違います! 健治おじさん、揶揄からかわないでください! 宮古さんに勘違いされちゃうじゃないですか……」


「むぅ……」


 照れて慌てる瑠璃とは対照的に、晶は口を尖らせ面白くなさそうだ。


「おっと、晶ちゃんもありがとな。シフトにたくさん入ってくれたから本当に助かったよ」


「いえ、社長も元気になって良かったです。ひろくんが無理しないように言い聞かせてくださいね」


「宏樹は俺に似て頑固なところがあるからな……これから俺がシッカリ見張っておくから」


「健治おじさん、お願いしますよ」


 瑠璃も宏樹が頑固なのが分かっているので、健治に対して念を入れてお願いする。


「そういえば宏樹……お前は瑠璃ちゃんと、晶ちゃんのどっちが本命なんだ?」


「け、健治おじさん!?」


「し、社長!?」


 健治の唐突な質問に、当の瑠璃と晶も驚き戸惑いを隠せないでいた。


「ほ、本命ってなんだよ!?」


「そりゃ、どっちと付き合ってるんだ? ってことに決まってるだろ」


「二人がいる前でなんて話をしてるんだよ!? 二人は大事な幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもないよ」


 宏樹は本人たちを目の前にして迂闊なことは言えないと、無難な回答に留めた。


「面白くねぇ回答だなぁ……といっても、瑠璃ちゃんと晶ちゃんじゃ選べないか、そういやめぐみちゃんもいたっけな……お前、随分とモテるんだな」


「親父……何言ってんだよ……」


「まあ、瑠璃ちゃんも晶ちゃんも、宏樹は優柔不断だから大変だろうけど、うちの息子のことを今後も頼んだよ。いざとなれば頼りになる男だからな」


「はい、これからは店で無理しないように、私と宮古さんの二人でちゃんと見張ってますから」


 ――ん? 晶は一緒に働いてるから見張ってられるけど……どうして瑠璃もなんだ?


 瑠璃と晶の二人で見張っているという発言に、宏樹は疑問を感じた。


「なあ、同じ店のスタッフの晶なら分かるけど、瑠璃も俺を見張るってどういうことなの?」


「ひろくん知らなかったの? 瑠璃ちゃんはこの店の改装が終わったら、アルバイトとして一緒に働くんだよ」


「ええっ!? 親父、聞いてないぞ!」


「そういえば話してなかったな。瑠璃ちゃんも社会勉強として働いてみたいって相談されてな。だから新装オープン前の準備から一緒に働いてもらうことになったんだ。宏樹はクルーリーダーとして教育係な」


「親父、そういうことは早く言ってくれよ……」


「ふふ、よろしくね。宏樹クルーリーダー」


 ワザと役職名を付けて宏樹を呼ぶ瑠璃は楽しそうだ。


「瑠璃ちゃん、一緒に働くの楽しみだね! 私も負けないからね!」


 何の勝負の事を言ってるのか分からないが、晶も瑠璃と一緒に働けることを楽しみにしているのが窺える。


「宏樹、二人まとめてお前に任せたからな。ちゃんと責任を持つんだぞ」


 健治は色々な意味を含めて”責任”という言葉を使ったのだろう。


「ひろくん、ちゃんと責任取ってくださいね!」


 晶は宏樹と再会した時と同じ台詞せりふで、そして同じように満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに笑っていた。



~ 第一部完 ~


――――――――――


ヤマモトタケシです。

これにて第一部は完結しました。

完結までに長い時間を要してしまい、申し訳ありませんでした。

にもかかわらず最後までお読みいただきありがとうございました。


面白かった、書籍化・コミカライズに期待してます、など応援して頂ける方は☆でのレビューをお願いします。

また、コメントやオススメレビューもお待ちしています。


現在、更新が止まっている異世界ファンタジーも投稿を近日中に再開いたします。

こちらもよろしければお読みください。


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幼馴染のパンツを脱がせたら、十年後に責任とってねと言われました。 ヤマモトタケシ @t_yamamoto777

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