第3話

私がその噂を耳にしたのは、我が国の宮廷魔導師長の口からだった。

我が国の抱える問題解決のため、臣下と意見交換をしていた時に彼は告げた。



『この世界の北端、世界中のどの国の領地でもないひとつの島。そこには世界最古の図書館があるらしい』

『その図書館には、かつて世界中に存在したありとあらゆる本が集められている』

『そして、そこにたどり着くことが出来ればどんな知識でも手に入れることができる』



この世界には書物というものはほとんど存在しない。魔法を用いた音声による発信や記録技術は発展しているものの、書物はまず手には入らない。

我が国でも王家に代々伝わる記録が紙束として残っている程度である。


その図書館ならば…、我が国の問題を解決する方法も分かるかもしれない。そのようの考え……私はこの血を訪れ、今この場に立っている。


「私がここに来た目的はただひとつ。今我が国で猛威を奮っている流行病、その正体と対策を知りたい」


なるほど、なるほど…と彼女は頷きながら


「確かに、貴方にとっては未知なる病でもこの地、ここの知識ではあれば既知である可能性が高いですね。しかし、知恵を授ける代わりに、対価を貰います。それが……此処メーティスでのルールです。」

「対価とはいったい?」


私は身構えるが、彼女は先程までと違いゆったりとした雰囲気で続ける。


「もちろんそれは知識です。形態はその時次第ですが…貴方の国には対価として差し出すことのできる書物や記録はありますか?」


なるほど。彼女の言う対価は納得のいくものだった。そして、ひとつのこと気がつく。


「此処にあるものの一部は…対価で得たものもあるのか」


私の問に彼女は満足気な顔で答える。


「その通り。対価知識を書物に記録し残す。そうしてこの図書館メーティスは拡大していく。時には禁忌とされた魔導書を、時にはその人の魂のこもった作品を、時にはその人の生涯を、対価知識として徴収するのですよ」


理解した。誰かが知識を求めに訪れる度にこの地の本は増え続けていく。これだけの数…いったいどこまでが対価で得た知識なのだろうか。

私は思考を切り替え、彼女に提案する。


「では…我が王家の成り立ちか現在までの記録を記したものがある。我が国の歴史の記録とも言えるもの。これは対価にふさわしいだろうか」


その場に緊張感が走る。

私は彼女の反応をうかがう。


「少し待っててくれるかな」

そういうと彼女は手元の黒い本を手にし…何かを呟く。


しかし、特に何も起こらない。


「うん、その知識リコリス王家の記録はここにはないようですね。対価として問題ないでしょう」


そうして、彼女はこちらを見つめる。


「それでは、貴方の知識欲を満たすこととしましょう」

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最果ての図書館と知恵授けの吸血姫 御上 零 @rei0753

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