第2話

進んだ先の空間を前には私は言葉を失った。

目の前に広がる圧巻の光景。見たことも無い数の本が並んでいる。

あたりは暗く、光は所々に灯る蝋燭の火がうっすらと照らす程度しかない。


「噂は本当だったのか…」


未知なる光景に見とれていた私に声がかかる。


「ようこそ、世界のあらゆる知識が集う場所【メーティス】へ」


そこに居たのは一人の女性。手には黒い本が一冊。長く美しい白い髪がこの薄暗い空間でもハッキリと分かる。


「貴方は…何者でしょうか?」


私は彼女に問う。目の前で一冊の本に目を落とし、佇む彼女はどこか神秘的な雰囲気すら漂わせている。


「私はこの図書館メーティスの館長であり、司書。とりあえず、オリーブとでも呼んでください。名高き賢王、アルベルト王とこうして声を交わすことができる今日を嬉しく思います」


オリーブ、そう名乗った彼女は名乗っていない私の名を呼ぶ。しかし、ここが噂通りの図書館であり、その館長が彼女であるならば私の名くらい知っているだろう。


「挨拶もなしに失礼、改めて名乗ろう。我が名はアルベルト・リコルス。南の大陸ドラグニアに存在するリコリス王国の国王だ。此度はとある噂を耳にし、この地に訪れた」


続けて私はこの空間を賞賛する。


「しかし、噂通りとはいえこの光景は圧巻ですね」


ここは言うなれば敵地、相手の領域。

目的のためにも印象を良くするべきだろう。


「此処に存在する本は私の達。そう言っていただけると嬉しいですね」


どうやら掴みは上々。彼女の表情はご機嫌の様子だった。


ここに来た目的を果たすため、話題を切り替えようとするが…


「さて、今の貴方に長話は不要でしょう。本題に移りましょう、アルベルト王。貴方は先程とある噂を聞きここに来たとおっしゃった。」


彼女の方から話題を切り替えた。


今なお…手に持つ本から目を離さない彼女、しかしその存在感は先程とは比べ物にならないくらい濃くなっている。



「何より、私の楽園に張り巡らされている結界を通り抜けて今この場にいる」

「なら、貴方の目的はひとつだけでしょう」



彼女は手に持つ本をゆっくりと閉じ、その目を紅く光らせて告げる。



「汝、如何なる知識を求めるものか」

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