占い師

初月・龍尖

占い師




 黒く深い闇の中。ぽつぽつと灯る街灯。建物と建物の間。鉄道の架橋の下。私は一人そこに存在していた。

 私のもとにはそこそこ客が来る。

 何らかの悩みを抱いて……。

 その悩みは時として、大きな欲望の渦を含んでいる。



 その日は、全く商売にならなかった。

 後から思えば、彼女の醸し出す空気が他の客を遠ざけていたとも言えるかもしれない。

 その女性は突然現れ、自分の名は山本恭子だ、と名乗った。

 そして、居なくなった自分の恋人を探して欲しい、と言った。

 私は断りの言葉が喉元まで上がってきたがそこから先へ出なかった。

 刺激すると何をするか判らない、そういう気配が彼女から感じられたからだった。



 山本恭子と名乗る女性は言った、彼はうさぎを追って消えた、と。

 彼女は笑った、まるで不思議の国のアリスみたいな話ね、だけど、それは真実だわ、と。

 そして、泣き始めた。

 彼を探して欲しい。

 彼は今、暗い所を彷徨っているんだ。

 早く探して欲しい、と彼女は叫んだ。

 周りの人間は私達の事を見てみぬ振りしていた。



 泣き崩れる彼女をなだめ落ち着いたところで占ってみると以外にも彼女の恋人は”近くにいる”と出た。

 その事を伝えると、彼女は正確の場所は何処だ、と喚き始めた。

 詳細に占ってみても結果はおぼろげで霧が立ち込めた様に見えなくなるのだった。

 その旨を伝えてお引取り願おうか、私はそう思ったが目の前に見えるこの般若の様な顔をした人間に果たして通用するだろうか? もしかしたら、私は*されてしまうかも……。

 そう思いながら占いなおす事数十回。

 見えた破片をパズルの様に組み合わせ、彼女にそれを伝えた。

 彼女はそれを聞くと満足そうに雑踏の中へ消えていった。

 彼女の姿が完全に見えなくなると私は手早く店じまいをして家路についた。


 家路につきながら私は闇に怯えた。

 先ほどまでの彼女の気配が私の周囲を蠢いている気がしてならなかった。

 

 玄関までたどり着くと私はひとつ息を吐いてノブに手を伸ばした。


 その時だった。

 せんせい、と真横から声を掛けられました。

 慌てて首を向けると先ほど雑踏に消えていった彼女が立っていた。

「先ほどはありがとうございました。ようやく見つけられました……」と言って彼女が私に近づいてくる。

 彼女の右手は闇の中へ伸びていた。

 彼女が右手を引くと、闇の中から大きな蟷螂が出てきました。

 私は大声で叫び走りました。

 何処へでしょうか、わかりません。

 夢中で走っていると空から声が聞えました。

「何で逃げるんです?」

 私はその声に驚いてつまづいてしましました。

 そこへ風切り音がして目の前に何か大きなものが下りてきました。


 目を凝らすと間違いなく彼女でした。

 しかし、先ほど会ったとき連れていたあの大蟷螂が居ませんでした。

 だんだんと目が慣れ、それを見た刹那、私は悲鳴を挙げて気絶してしまいました。


 彼女の口からは先ほどまでの仲良く手を繋いでいた大蟷螂の足が数本がはみ出ていたのです……。



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占い師 初月・龍尖 @uituki

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