ホームシック・オン・ザ・ライス

初月・龍尖

ホームシック・オン・ザ・ライス


 猛獣の咆哮を無理やり回避して大剣の一撃を叩き込む。爪での反撃を予測して転がり間合いを維持する。

 ソロ討伐はリスクが大きく敬遠されがちだが自分の技量に見合った猛獣相手ならかなりリスクが低くなり美味いのだ。

 ジュンヤはここの所、赤毛の猛獣・クゾネダヴの狩猟を周回している。

 討伐賞金はそれ程高くないが肉が旨い。旨いのだ。

 中堅の狩士になり、安定を求め色々な種類の猛獣を狩った結果、自分の狩猟スタイルに合っていると言う事とホームシックを中和してくれると言うふたつの面でジュンヤを満たしたのだクゾネダヴだった。

 クゾネダヴの肉は身と脂が完璧な比率で構成されている。

 現地住民は肉といえばステーキだ、赤身だ、脂など必要なしと言う。

 クゾネダヴは戦歴として1度戦えば良いと敬遠される猛獣だった。

 ジュンヤは狩ればカネが入る上に上質な肉も手に入るクゾネダヴの虜となった。

 一貫してソロで通してきたかいがあったな、などとも思ったほどだった。

 ジュンヤは1日1度クゾネダヴを狩っている。

 それだけで生活に必要な全てが満たされるのだ。

 何度狩ったのかわからないほど狩り、ジュンヤはクゾネダヴを狩りるのに効率的な狩り方を編み出した。

 大剣で発覚の一撃を入れ、あとはデレ行動を祈りつつ至近距離で攻撃を入れ続ける。

 咆哮や爪乱舞が出ない様に仕草が見られたら起動を阻止する。

 ジュンヤはクゾネダヴに限ればトップ狩士となっていた。

 ホームベースの保管庫に溜まってゆく肉をみて溜息を吐く。狩り過ぎたかな、と。

 毎日毎日狩り続け肉の保管庫が4つになっていた。

 二生分くらいあるのだろうか。流石にこれ以上は肉を溜め込めない。

 毎日食っていても飽きはない。だが、肉が増えると収納スペースが無い。狩るペースを落とせばカネが入らなくなる。

 ホームシックは解消されたが生きる為に最低限のカネをクゾネダヴ狩猟以外で見つけなければならなかった。

 そこで思いついたのは現地民はもちろん同胞たちにも隠していた自分の異能を使う、と言う事だった。

 ジュンヤの異能は炊きたてのご飯が出せるというものである。

 内部数値として熟練度の様な物があるらしく少しずつ出せる量が増えていた。

 この炊きたてご飯がジュンヤをホームシックへ誘っていた。

 ホームシックが解消され、ご飯を一度に出せる量もだいたい3,4升ほどになっていたので飯屋を開こう、そう思い立った。

 

 ジュンヤは自分の店を開らくために様々な猛獣を狩りカネを稼ぎ、そのカネで大量の物を仕入れた。

 固定店を開くのではなく移動販売とした。

 なるべく同胞の狩士たちの為に食事を提供したいと思ったからだ。

 クゾネダヴの肉と炊きたてのご飯、あとは仕入れ次第。

 メニューはそれだけだ。

 一応加入していた同胞ネットワークに情報を流して屋台を引きフィールドを駆ける。

 料理の研究も忘れない。

 料理にはバフが発生する時がある。

 その傾向を探り発生確定出来るように努めた。

 同胞から同胞へ情報が伝わりジュンヤの屋台はしっかり情報を持っていなければ出会えない名店となった。

 

 ジュンヤはほとんど街へと寄り付かなくなった。

 屋台での取引でほぼ全てが完結するようになったからだ。

 メニューは仕入れ次第、とだけ書かれるようになり食事にはカネは必要ない。

 持参した食材やジュンヤ自らが採ってきた食材で調理をするスタイルになった。

 ジュンヤの異能はほぼ無制限にご飯を出せるまでになっていた。

 

 ご飯が食べられる。

 

 それだけでジュンヤの屋台を探す同胞は多かった。

 結局、勇んで転移してきてもホームシックには勝てなかったのだ。

 それ思えばはじめからご飯を食って生活してきたジュンヤは勝ち組だったのかもしれない。

 転移前と同じ様にご飯を食べていたジュンヤと異世界料理しか選択肢のなかった同胞とではホームシックのレベルが違ったのだろう。異世界料理が一番と言う同胞もいたがそれは少数だった。

 ジュンヤはそこに思い至り同胞ネットワークを駆使し自分と同じ様な異能を持つ同胞を弟子にとった。ただ、その弟子が出せるのはジャポニカ米ではなくインディカ米だった。

 

 つまり、カレーだ。

 

 ジュンヤは自分のこの世界での経験を、知識を、全て弟子に叩き込み弟子に言った。

 

 同胞の心の拠り所になる料理を作るのだ。

 

 弟子は研鑽を積みジュンヤが作ったカレーのようなものからカレーらしきものを作り出しそして、それはやがてカレーとなった。

 様々な種類の創作カレーを作り出した弟子にジュンヤは満足した。

 少しずつ弟子へと権利を譲渡しジュンヤは引退した。

 ジュンヤが死に弟子が屋台を完全に引き継いでもメニューは相変わらず”仕入れ次第”であった。

 弟子は次の弟子を探し、次の弟子はその次を、と脈々とご飯を産み出すサイクルが出来上がっていた。

 神の掌の上で踊るかのごとく転移者たちはご飯を求めて屋台を探しフィールドを駆け回り猛獣を狩った。

 

 屋台の名は”オンザライス”と言った。

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