第32話





「それは困ったな…」


俺はバランスボールの上に座禅をしながら言った。


部員が6人以上って、前の勧誘でゼロだったしな…


「そういえばさ、僕達4人なのになんで部活成立したの?」

「ん〜?そりゃ5人いるからな部員」

「え?もう一人だれ?」

「凜香」

「凜香……え、もしかしてあのヤンキー…?」


久保の認識では凜香はヤンキーのようだ。因みに俺も同意見だが、本人は否定している。


「どうやって…?」

「そりゃ、『ここに名前書け』って言って書かせた」

「それは部活に入ったってことだよね?1回来たとこ見たことないけど」

「そりゃあ、名前書かせただけだしな。凜香も部員だと思ってないと思うぜ」

「へぇ〜、ていうかなんで成瀬ってその凜香と…」


久保が何かを尋ねようとしたとき、屋上の扉が開いて女子三人組が入ってきた。


「先輩〜♡一緒にご飯食べましょ〜♡」


その女子とはウサギだった。後ろについてきている二人は知らないけど…


「ん?また、ラビットか…」

「いや、もう宇佐美って言う気ないよね!」


久保の軽快なツッコミが済んだところで、宇佐美は俺の隣に座ってお弁当を広げた。他の二人は更にその隣に座って同様にお弁当を取り出した。


「先輩、この中でどれが食べたいですか〜?」


宇佐美は小さなお弁当を見せて尋ねてきた。


「ん〜、唐揚げ」

「卵焼きですか〜?分かりました〜♡」

「ん?俺は唐揚げって…」


俺は訂正して言うが、宇佐美は何故かそれを無視して半分に切ってハート型にしている卵焼きを箸で摑んで持ち上げる。


「あ〜ん♡」


俺は卵焼きでもいっかと思って口を開ける。





が、


パクッ


「……ふむふむ、ふっ、ありふれた世界の味だな」


購買でパンを買ってからやって来た朱里が横から急に割って入って食べしまった。


「いや、何で食ったんだよ」

「そこに黄色いダークマターがあったから」

「ダークマターじゃないだろ…というかどうしたんだ?朱里ってそういうことしないだろ、普通」


普段他の人と関わりを持とうとしない朱里が珍しくコミュニケーションをとった。それも悪い方向に…


「フッ、それは……め、盟友がその…ど、毒を盛られた可能があったから、我が毒味を…」


朱里が焦って変な設定をつけてくる。そんなに卵焼きが食べたかったのか…。


「じゃあ俺は唐揚げを」


俺は箸でつまんで食べた。うん、旨い。


「旨いな」

「それは冷凍食品だから…」


宇佐美は消え入りそうな小さな声で言った。


「………おう」


すっごく気まずい雰囲気…だから唐揚げは食べさせたくなかったのか…


「ウサギ、ほら、あ~ん」


俺はだし巻き卵を宇佐美の口に入れる。


「はむっ!?」


宇佐美は急なことで驚いたのか目をパチクリさせてから、ゆっくりと食べた。


「……美味しい」

「だろ?」

「わ、我にもその黄色いダークマターを!」

「ダークマターは食べさせねぇ〜よ」


そう言って俺は残りの卵焼きを食べた。


朱里が涙目でこちらを見ていたが、俺はわざとほうばるようにしてたべてやった。



結果、朱里に弁当を奪われて、俺は朱里の買ったパンを食べる羽目になる。


パンも美味しいんだけど…




ご飯が食べたかった…


今度からは直ぐに朱里にもご飯をあげよう。そう俺は心に誓った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

でんじゃら! 千夜一夜nnc @nyanyanyanko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ