俺と頭 元日編

灰色セム

俺と頭 元日編

 元日の朝日は弱々しいが、どこか清々しい。

 おせちの準備をしていると「新年あけましておめでとう」と足元から声がした。頭だ。

 律儀な頭部型異星人へ「あけましておめでとう。今年もよろしくな」と挨拶を返す。


 そういえば、俺はこいつの本名を知らない。去年の夏に知り合って同居を始めた俺たちだが、お互いに本名は名乗っていない。


「お前、名前はあるのか?」

「今の姿の私では発音できない」

「そうなのか」


 箸を持った手が止まる。


「母国ではその姿じゃないのか!?」

「頭部だけで生活できるわけないだろう」


 ごく当たり前のように告げられる。絶句する俺をよそにうごめく髪の毛で箸をあやつり、おせちを堪能する頭は幸せそうだった。

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俺と頭 元日編 灰色セム @haiiro_semu

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