楽しい誕生日会-最終話

はっぴーばーすでい

「はっぴーばーすでい、とぅーゆー

 はっぴーばーすでい、とぅーゆー

 はっぴーばーすでい、でぃあ、リークー!

 はっぴーばーすでい、とぅーゆー!!!」


オレが捕まったのは……オレの誕生日を何日か後に控えた日だった。


生まれてきたことを、一年成長したことを、祝う楽しい歌は、死にそうなオレがかろうじてその日を迎えられたことを祝うような、そうやってオレを侮辱するような屈辱的な歌にしか聞こえなかった。


「あれ~? 嬉しくないの? そんなことないよね? 嬉しいよね?」


すぐ自分の気に入らないことがあったら、その化け物は随時オレの腹を蹴って、ママの顔を殴った。


「……っ」


言葉の発せないオレは、首を動かすことでしか返事を表せなかった。でも、その手段の結果も結局は一つしかなかった。オレはうなずくことしかできなかった。首を右に向けた瞬間、オレの目は飛び、左に向けても、この化け物の癪に触って、蹴られる回数が多くなるだけだから。


「あぁ、うなずけて偉いねぇ~! お誕生日おめでとう!! リク!! 今日からはれて高校生だねってまぁ……学校には通えないけど……仕方ないよね! 僕はずーーーーーっと片時も離れないで家族三人でいれて嬉しいよ! アヤもリクもそうでしょ!?!?」

「……っ」

「……っ」


オレたちは揃って、うなづく。


「ほら、ケーキ買ってきたんだ~! 布を外してっと……ほら、リク、口開けて? はい、あーん。美味しいー? リク? 美味しいって言ってごらん?」


甘い物は嫌いなのに、それを知っているはずなのに、それを忘れたかのように無理やり口に押し込まれた。


「あ、あっ」


そして、もう声の出ない喉で必死に声を作る。


「あ、そっかぁ。もーう声が出なくなっちゃったんだね。はっ、あんなに叫ぶからだよ、バッカだなぁ。この部屋は完全防音室なのに。アヤも最初のころはそうしてたよ。ほんと……親子そろってバカだね? それでさ、美味しいの?」


「……っ」


オレはコクコクとうなずいた。


「そっかぁ! 美味しいかぁ! 良かったぁぁ! アヤも食べる? はい、外して、あーん」


いったい、私たちはここで何をしているのだろう。


「はいはーい、写真撮るよ~! ちゃんと笑ってる……あ、笑えてるね、口角にもう痕がついちゃってる」

「……」

「……」


私たちは……果たして、この状態は、生きている、生活している、と言える状態なの?


「あ、プレゼント用意したんだよ!! アヤには、新しいワンピースで! その服ももう何日も何日も着ているから。あの写真の服は思い出だから良いけど、その服はもう古いから捨てなきゃね! それで、リクには新しい首輪!! こっちの方が頑丈そうで、特に力の強いリクに逃げられる心配なさそうだから!」


化け物は、最後の方はご機嫌だった。


「じゃ、また来るから! 二人ともいい子でね~!」


薄暗い部屋に取り残された私たち。拷問みたいな……いや、拷問が続く地獄の日々。


私は疲れ切ってしまって、そのまま眠りに落ちた。


ママの首が前にガックリと落ちてしまったのをオレは気配で感じた。ママは眠ってしまったようだった。


オレの意識も徐々に徐々に遠くなってきていた。これは眠気か、それとも体の中の血が少なくなってきた証拠か。


オレはこれに耐えられるのか……オレとママは耐えられるのか、分からない……。


薄暗い部屋の中で、誰にも届かない祈りを、ただひたすらにすることしか、他に何もなかった。

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ママがいない。 ABC @mikadukirui

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