最終話 推しと幸せに

あの日のあの時。雨のせいで視界が悪かった日。あれは全部計画だった。京は私の予定を確認していた。何もかもが計画だった。京はそう言った。


変な気持ちだった。顔は推しなのに、中身は幼馴染。テレビにリアルタイムで推しが映っていたから、目の前の人は推しではないことは分かっていた。なのに。この人は私の推しではないのに。


誰でも勘違いしそうなその顔。


「ほんと、この顔は大変だったよ~。沢山女が寄ってきて大変だった~」

「っ!! その人達の気持ちをもてあそん、」

「別にもてあそんでないよ」


食い気味にピシャリと言われた。冷たい目で重低音に言われた。そんな顔今まで見たことがなかった。京が怖かった。


「俺はあーちゃんだけがだーいすき、だから」


本当に変な感じだった。

顔は推しなのに、声は小さい頃からよく聞いていた幼馴染。

顔は推しなのに、仕草は幼馴染。

顔は推しなのに……。

数えきれないほどの点がだった。ここに来るまで、京はバレないように、推しのように、声や仕草など何もかも真似していたのだ。


目は、脳は、完全に勘違いしていた。その勘違いから抜けられなかった。迫りくる顔は推しだから。この人は京なのに。京でしかないのに……。


唇が触れ合うのが嬉しい、だなんて。


唯一写真の張られていない床は格子状の模様だった。


「へぇ、あーちゃん、鳥が好きなんだ」


京の言葉が記憶の中で響く。


私は籠の中の鳥のようだった。これもきっと京の計画の一部なのだろう。


体だけでなく心までも洗脳するために。


私を見るカメラ目線のは籠の中の鳥を見る人々の目みたいだ。


仕事のことはもう考えなくて良かった。

もう私はここから出られないのだから。

ここが私のいえだから。


扉が開いた。


「あーちゃん、ご飯だよ」


あの人は、京は、私のご主人様……。


「この顔にホイホイついてくるなんて……はは、あーちゃんって悪い子だね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推しに似たストーカー BULLETandARROW @mikadukirui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ