第3話 私の写真
推しに促され、部屋に入った私は言葉を失った。
「え……?」
びっくりした。私を囲む四方の壁には、私の写真が隙間なくびっしり貼り付けられていた。それに天井までもだ。
「なに、これ……? わ、私の写真……?」
背景の中途半端な写真。いびつな形の写真。カメラ目線のものとそうでないもの……すべて私しか映っていない写真。
「な、なんで子供の頃の写真まであるの……?!」
驚きは恐怖へと変わった。
「ごめんね?」
「っ!!」
私はハッとして後ろを振り返った。そうだ、今、私は、推しの家に……。こんなことするのはストーカー……え。推しは私のストー、カー、だってこと……?
「こんなことしてごめんね。亜紀ちゃん」
「っ?!」
亜紀、それは私の名前だ。
「な、なんで、私の名前を知っているんですか!! そ、それにこんなたくさんの写真!! 小さい頃の写真まで!! 一体どういうことなんですか?!」
こんな大量の写真、しかも小さい頃の写真まで持っているなんて家族と……。
私はハッとした。一番嫌な答えに辿り着いた。子供のころの写真まで持っているのは……私の幼馴染しかいない。
すると、推しはすらすらすらすらと私の小学校、中学校、高校、大学の出身校や先生、友達など細部に至るまでに話し始めた。幼馴染にしか教えていない、私の家族も知らない秘密も。
「なん、で……」
「はは、気付いた? 俺のこと」
「え……?」
推しは自分のことを俺って呼ばない。
「この声に聞き覚えない?」
声。今一度考えるとこの声はどこかで聞いたことがあった。
テレビの中じゃない。もっと身近な。もっと昔から知っているような。
顔に夢中で今まで全然気にも止めていなかった。
「あーちゃん」
彼はニヤっと笑った。あーちゃん。そうやって呼ぶのは、私の家族みたいな人……幼馴染しかいない。その真実に私は腰を抜かして、尻もちをついた。
「きょ、
「せーかい。当ててくれるなんて嬉しいな、あーちゃん」
でも、顔は推しそのものだった。そう言うのと同時にカチャっと鍵のしまる音がした。この部屋の唯一の出口であるドアの。
京はリモコンを取ってテレビをつけた。
「俺さ、整形したんだ。あーちゃんのことずっとずっと小さい頃から好きで、すごく好きでさ……。でも、あーちゃんはこの男ばっかり好きでさ」
テレビにはリアルタイムでインタビューを受ける推しが映っていた。
「この男に整形すれば、あーちゃんは俺に振り向いてくれると思って……。この家だってあーちゃんのために用意したんだよ!!」
怖い笑顔からまさに推しのような笑顔に変わって言った。それは推しの姿をした化け物だった。
「はは、俺はあーちゃんの推し、なんだろ……?」
目は対象を捕らえた欲望そのものだった。目の前の私に興奮して口角が歪んでいた。京に幼馴染の面影は全くない。京はテレビを消した。部屋の中は静かになった。
「い、いや」
京はじりじりと近づいてきた。
「や、やめて……」
いったいどこから出したのか、さっきまでリモコンを持っていた手にはスタンガンが握られていた。
「あーちゃん、俺、あーちゃんに痛いことしたくないんだ……わかるよね?」
スタンガンを前に出しながら近づいてくる京に、私は恐怖から声が出せなかった。私は何も……できなかった。
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