第2話 推しの家

最悪なコンディションの顔で迎えた次の日。


えええええええ!!!! う、嘘?!?!?!? 


同じところで推しを見かけた。そして……推しは手を振ってくれた。


え、なに、私の顔、覚えててててくれてる?! 


頭がエラーを起こしそうだった。


良かったかな……手なんか振っちゃって……他のファンに怒られないかな。だって、推しはあんなにもキラキラしているもの。誰も気が付かないわけないのに。


あ、でも誰も気づいていないのか……。


ずっと心臓がドキドキしていた。そして、推しは去っていった。


次の日、また推しに会えた。

その次の日も。

またその次の日も。……


なんか付き合っているみたい!!


でも私は違和感を感じた。


地元ここじゃないのに……仕事かな? でもドラマやっているのに……違う仕事かな? あ、引っ越したのかな? なんか……おかしい……気のせいかな?


疑問はずっとグルグルしていた。


別の日に、また会ったとき、推しは私に近づいてきた。


なになになになになに?!?! 何だろう?????


「ねぇ、僕の家に来ない?」


その言葉を聞いた瞬間、私の脳は正常に作動しなくなった。完全に脳がイカれちゃった。あの時の、あの「気のせい」を私はその時ちゃんと疑わなかった。

スキャンダルとかそういう問題を一切考えずに、後先考えずに、舞い上がって……私は推しについていってしまった。


「ひぇ?!」


推しは私の手に自分の手を絡めてきて、恋人つなぎをつくってから、いつも着ている黒いコートのポケットにつっこんだ。


な、慣れてる?! あぁ……ああ……あ……私、推しに手を握られてるよお……しかも、恋人繋ぎ……!!


仕事のことなんて全く忘れていた。今まで優等生みたいに会社に出勤していたから、そんなやつが無断欠勤なんて、ショックでクビにされる。


推しの後ろ姿を凝視していた私が連れられてきたのは、とてつもないほど大きな家だった。それは推しの家で、想像していたとおり豪邸だった。


この家、ファンでは私しか知らないなんてっ!! え、私だけよね? 

ああ、感動で涙が出そう……。


推しに連れられ、私は家に入った。手が引っ張られ、バタバタと靴を脱いで推しについて行くと、本来入るはずであろうリビングやキッチンを通過していった。


あれ?


推しが引っ張る方向は明らかに部屋の奥だった。


あ、あれ、どこ行くんだろう……? 


「あ、あの、」

「大丈夫だよ、心配しないで。こっちだよ」


見上げる推しの顔はいつもの、テレビで見る優しい顔だった。


少し不安になりながらも、推しを信じてついて行くとある扉の前に着いた。


「見せたいものがあるんだ」

「え……?」


扉の先には何があるんだろう。この時の私は、少しの期待を持って、まだそんな呑気なことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る