第2話
さて、平坂が連れていかれたオカルト研究部において、新入部員の数は平坂含めて二人。
「あ、部長。捕獲できたんですか?」
「あぁ、
「よかったです」
「ふふふ。それでは、これより、超常科学研究部定例ミーティングを行う。とはいっても、君たちもこの『
夏菜美の提案になすがまま、なされるがままとなる平坂。そもそも、この場において、入部届けを一切書いていない平坂は部外者なのである。
故に、この部のルールに従う必要もないし、なんなら、バックレても文句なんてものはないだろう。
だが、どういうわけか流れに身を任せてしまっている。
「それじゃあ、改めて。
よくわからない特技だな……と、平坂は思う。
そもそも、心霊スポットを当てると言うのは特技なのだろうか? それは、特技ではなく特殊能力、特殊技能の類いでは? となっている。
とはいえ、そんな平坂をおいてけぼりにするのが、この部の特徴、というより、この部の雰囲気なのだろう。流れに身を任せた、小柄でその体躯でなければおそらく『イタい子』認定されてしまうであろう、ツインテールの
「
意外と普通だ。そんな感想を抱く平坂に、『そんなことはないですよー』と、返す卯茶。結果、平坂はドン引いた。
「あれ? なんかやっちゃった?」
「あぁ、そうだな。稲葉はちょっと特殊でな。真偽は確かではないが人の心が読めるらしい」
「読めないですって。前もいったじゃないですか。それじゃあ、泉くん。これからよろしくね」
「やっぱり読めてるんじゃないか?」
この間、平坂は一言もしゃべっていない。なんなら、自己紹介すらしていない。にも関わらず、初対面であるはずの卯茶は自身の名前を知っていた。それが謎である、が、自己紹介をしないのは礼儀に欠けると判断し、深呼吸する。
「
「そうなんだ。これからよろしく」
「よろしくお願いします」
堅苦しい挨拶と共に、超常科学研究部の定例ミーティングの幕は閉じる。
とはいえ、部活動は始まったばかり。朝に集まり、超常科学研究部がやること。それは……
「にしても、新たな情報は出ていないな」
「ですねー。やっぱり、UFOとかの方の目撃例と混同されて読みづらいったらありゃしないです」
新聞や雑誌、スマートフォンなどでのオカルト記事探しである。
とはいえ、そう簡単に見つかるオカルトが、身近にあるわけもなく、予算的にも難しいところが多いと判断される場所が多い。
時々、口に出される『事故物件に住んでいるものがいればもう少し楽なのに……』と言う言葉が、異常性を醸し出している。
「うーん、にしても、なんで泉くんだったんですか? もう少し、知識がある人とか、興味ある人とか連れてこれましたよね?」
「いや、そういうやつに限って、ほとんどの確率で私が気に入らないといってすぐ出ていくんだ。君も何度か見てきただろう?」
「あー、確かにそうでしたね……こんなのについていけるのは頭おかしいあなただけよ!! って言われちゃいました」
たはは、と卯茶の乾いた笑いが漏れる。あーなるほど。確かに……と、それをいった人物の顔など想像もできないが、言われそうだと平坂は思った。
そして、その思考を読んだのか、はたまた感じたのか、平坂の頬をギューッとつねる卯茶。
いや、何でだよと、睨んでみると、あっかんべーとおちょくってくる。
それを見ても、別に苛立ちはしないが、あることを平坂は思い出した。
「そういえば、稲葉さんって」
「卯茶でいいよ?」
「稲葉さんって告白してきた男子の顔に上段回し蹴りを入れて一ヶ月停学処分を受けた稲葉さんであってる?」
「な、ななななな、何でその事知ってるの!?」
「むしろ、なんで、知らないと思ってたの?」
「いや、でもさぁ……」
「はっはっはっ、そんなこともあったな。それはそうと、平坂くん。君も二年の間では噂になっているんだぞ?」
「なんで!?」
「あー、たしかに。泉くんはいろんな意味で有名ですからね……」
いや、心当たりないんだが……? そんなことを言いたくなるような話に発展していき、平坂は首をかしげる。
「いや、僕に有名になるエピソードとかないですよ?」
「君は何をいっているんだ?」
「そうそう、入学式初日に私服で登校して、お姉さんに制服届けてもらって、着替えたら女子用で、それが割りと似合ってて、ここ二ヶ月男子から告白され続けてる人に、有名にならないエピソードがないって、冗談でも受けないって」
「いや、だって、あれは……その」
「あぁ、知っているとも、お姉さんが間違えて注文した女性用の制服のひとつだったのだろう? 調べはついているんだ。にしても、まさか、新聞部の調査した『妹にしたい一年生ランキング』に男子の名前がノミネートされるとは、なかなか愉快な出来事だったよ」
──あれ? もしかして、僕、狙われてた?
そんな疑問が、この会話のなかで、生まれてきた。というより、この超常科学研究部は変人が揃い踏みであるという事実が、この場で明らかになってしまっていた。
とはいえ、部活動として進展しない、目的もわからないまま進むのは、なにか違う。そんな感じにも思え、平坂は、自分なりに、なにかできないか、考えてしまう。
「そういえば、心霊スポットを当てるとかどうとか言ってましたけど、どこかでみんなでいってみませんか?」
「おや、拉致った私が言うのはなんだが、適応が早いね。面白そうだ。それでいこう」
「うんうん。いいねいいね。泉くん、やっぱり、元々こっち側の人だったんだ」
「こっち側って……」
「へーんじーんサーイド」
「わざわざ伸ばす必要ある?」
「ないよ?」
「ないんだ……」
どこかずれている会話、適応力高めの平坂は未だ入部届けを書いていないことに気づいていなかった。
※※※
「さて、九月に迫る文化祭の展示についての話をしようではないか。クラス発表については、各員問題ないな?」
「はい。全部断っておきました」
「ならよし。では、早速展示課題についての議論しよう」
「あの」
「やっぱり、心霊スポット特集とかどうです? みんなそういうのに興味あると思いますし」
「あの!」
「いや、それだと当たり前すぎて面白味に欠ける。もう少し捻ったものにすべきだ」
「あの!!」
「うるさいぞ、平坂くん。今は真剣な話をしている最中なんだ。提案するなら発言を許可しよう」
んな、横暴な。そんなことを言いたくなる夏菜美の論に、ズンッと肩を落とす。
いや、ていうか、色々おかしくないか? そもそも、一学期の半ば、クラスメイトはそろって文化祭よりも、『体育祭』の準備に手間取っている。
とはいうものの、平坂はどういうわけかクラスメイトから、『あー、いずみんはそれ着て座ってて。たまーに、がんばれーって声かけてくれればみんなのやる気が上がるから』といわれ、差し出されたチアリーディング衣装(女性用)から、逃げてきたので人のことは言えない。
「ふむ。だが、入部二日目にして、やる気と誇りがあることに、少々誇りを感じるが、君はそれでいいのかいとも感じる」
「あー、いや、それは、まあ……それより、なんで、今文化祭の話なんですか? まだ六月。来月の半ばには体育祭ですよ?」
「あぁ。そうだな。卯茶くんには入部時点で話していたが、君にはまだだったな。このオカケンは、その性質上、文化祭の部活展示に莫大な時間と労力がかかる。なにしろ、まだ、証明されていない『ないかもしれない』事象の証明だからな。ゆえに、我らはこの時期、このタイミングで準備を始める必要があるのだよ」
はぁ……平坂は、そんな、中途半端な返事を返すしかなくなる。
いや、そもそもだ。オカルト研究にガチで挑んだところで、無駄に時間を消費するだけでなにも成果をあげることはできないだろう。
それを自覚しているがゆえの、早めの文化祭準備というわけだ。
「なるほど? でも、それって、別に僕がいなくても……」
「何を言う! 我ら三人でオカケンだ。仲間を見捨てると言うのか、君は!」
「いうのかー!」
「この人たち脊髄でしか話ができないのか……?」
「ちなみに言うが、君には我が店の『看板娘』をやってもらうことは決定事項だ」
「何でですか!? ていうか、僕は男です!!」
「なら、男子からの告白はどう受け止めていると言うのだ。まあ、これも一種のオカルト的な事象ではあるな。男であるはずの君が、『女性的な魅力』を有しているという、な」
「いっそのこと、『平坂泉展』って感じで、泉くんを展示するのはどうです?」
「より嫌なんですけど!?」
「ふむ。人気はでそうだが、明らかに平坂くんへの比重が大きい。却下だ」
「じゃあ、どうするんですかぁ……」
卯茶の落胆する一言で、沈黙の空間が出来上がる。
時計の針が動く音が妙にうるさく感じてきはじめたころ、平坂はあることに気がついた。
「そういえば、今日の晩御飯、僕の担当だった。すみません。先、失礼します」
「そうか。少し残念だが、そういうことなら仕方ない。また明日……と言いたいところだが、私もお邪魔しよう」
「は?」
「いやなに。久々に平坂家にお邪魔するのも悪くないと思ってな」
「は? いや、なにいってるんですか?」
色々おかしなところがあり、どこからツッコミをいれればいいかがわからない。それは、卯茶も同じようで、首をかしげている。
「平坂家とはなにかと縁があってな。平坂くんとは、はじめましてだったが、ご兄弟や、ご両親とは割りと仲良くさせてもらっているのだよ」
「なんで、僕と会うことはなかったんですかねぇ……」
「まあ、泊まりとかはしてなかったし、君も部活動などが忙しかったらしいじゃないか。それが大きな要因だろう」
「うっ……まあ、そうですね」
「それよりいいのかい? 晩御飯の準備があるのだろう?」
「よくないですよ!! それじゃ、失礼します」
バッと、自身の鞄を持ち、科学準備室を出ていく平坂。その背中をあきれながら、見送ると夏菜美は立ち上がり、鞄を持つ。
「では、行くぞ、卯茶くん。平坂くんの家はなんだかんだ広い。大家族だからな。君がいったところで、彼らは困らんさ」
「えっと……うーんと……はい! 私もついていくことにします!!」
仲間はずれは嫌だと言わんばかりに、立ち上がり鞄を持つと、下駄箱へと向かう。
そうはならんやろぉ……という展開に、ツッコミをいれるものは、既にこの教室内にはいなかった。
オカルト研究ガチ勢のオカルト研究はやはりオカルトだった やまたむ @yamatamu
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