オカルト研究ガチ勢のオカルト研究はやはりオカルトだった

やまたむ

第1話

「魔術!平坂ひらさかくん、魔術について学ぼうではないか!!」


 科学準備室。中心におかれたテーブルを囲い、三人の生徒の内、一人の少女がそう声をあげる。

 議題は『文化祭における展示について』というものだ。


「何いってるんですか、部長?」


 それに、『平坂くん』と呼ばれる少年は、呆れたように返す。心底、『こいつは何をいっているんだ?』というような目だ。

 一応、部活動ということもあり、その少女のことを少年は『部長』と呼んでいる。

 そして、その部長は、平坂から向けられたら視線をものともせず、ことの経緯を話し始めた。


「いや、なに。最近、文化祭での発表用の研究が進んでいないと思ってね。去年は机上の空想的な感じのネタで盛り上げたが、今年も同じ手は通じないと思うのだよ。だが、その点において、『魔術』というテーマは素晴らしい!ひとつの儀式を参考に、ちゃんとした『実験』を行える。卯茶うさくん、君からも何か言ったらどうだい?」

「はい!私も部長の意見に賛成です!!いずみくんはちょっと魔術をバカにしすぎです!!」

「いや、バカにしてるとかじゃなくて、テーマとして、受けが悪いと思うって話で……」

「いーえ。バカにしてます!魔術というのは、たくさんあるんですよ?それに、ファンタジーなどで描かれる錬金術にしたって、現在では『ばけ学』として、広く認知されているじゃないですか!」


 ――だから、どうしたのか。


 そんな感想しか平坂には、思い浮かばない。

 平坂自身、オカルトは『嫌い』ではない。とはいえ、それは、あくまで個人の趣味嗜好での話。積極的に、熱を入れるほどのものではない。

 故に、この少女二人の熱量に圧倒されてしまっていた。


(どうしてこんな部に入ってしまったのだろうか?)


 そんな、感傷に浸る『平坂ひらさかいずみ』だった。



 ※※※



 さて、実際問題、こんな温度差のある部活動において、平坂が所属する経緯なんてものは、単純だった。

 平坂は至って真面目な、ちょっと、ひねくれた感性を持つものの、先の二人より普通に近い人物である。

 そんな彼が、朝、校門を過ぎた瞬間に異常を察知するなんて言うことは、当然のことだった。


 いや、誰もがその異常を察知したのである。なぜなら


「臭い」


 平坂自身の頭に、女性ものの靴が飛来し、そのまま、頭に鎮座していたからである。

 靴から香る異臭。それは、変態な不審者ばりに、偏屈な感性を持っている人物でなければ、興奮することがない。そういわざるを得ない臭いが、鼻を差してくる。


 そして、比較的普通の感性を持つ少年のとる行動はひとつだった。


「先生、空から靴が」


 そういって、近くにいた教師に空から降ってきた靴を渡そうとして、その事件は起きた。


「はーはっはっは!ようこそ超常科学研究部、通称オカケンへ!歓迎しよう私は部長の『伊佐いざ夏菜美ななみ』だ。少年、君の名は?」


 膝上までに調整された学校指定のスカート。ブレザーを押し上げるように強調されている胸。百六十センチくらいの高めの身長。

 腰くらいまである長い黒髪は、見る人を惹き付けるほどの美しさを放っており、少し鋭いつり目が平坂の目に焼き付く。


 一瞬だけ見たら美少女とも言える女性。伊佐いざ夏菜美ななみという少女には圧倒的に足りないものがあった。


「あの、もしかしてこれ、あなたのですか?」


 スラッと伸びたキレイな足を包み込む、白いニーハイソックス。そして、外であるにも関わらず、片方欠けている足下。

 靴の持ち主を特定するのは、そんなに難しいことではなかった。


「いや、いい。それは、君にあげよう。入部記念だ。さあ!部員が待っている。『ロマン』を我らと共に探求しようではないか!!」

「は?いや、なにいって……?」

「では、教員諸君。さらばだ!」


 靴を脱ぎ、平坂に持たせ、夏菜美は平坂を抱え、駆け出した。


「は?え?なーんでぇぇぇぇぇええええええ!!」

「はっはっはっ!気持ちいいな少年。いや、私は最高にハイってやつな状態らしい!!」


 これが、平坂が変な部活に所属することになった超がつくほどの特殊な経緯であった。

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