挫折した天才の復活を描く、極上の卓球小説
- ★★★ Excellent!!!
幼少期から卓球界で天才と謳われてきた不知火湊。しかし、中学時代の敗北をきっかけに彼は卓球を辞めて男子卓球部のない高校へ入学することに。このまま卓球とかかわりのない三年間を送るはず……が、そこで出会ったのは廃部寸前の女子卓球部で一人活動を続ける佐村光。彼女との出会いをきっかけに湊はコーチとしてもう一度卓球に関わっていく……。
かつては勝利だけを追い求めた湊が、コーチとして今までとは違った視点で卓球に触れて、卓球の本来の楽しさを思い出していく……ある意味ベタな展開だ。だが、これが大変面白い! やはり王道とはベタの中にあるのだと改めて実感した。湊の指導を受ける部員たちも性格はもちろんだが、プレイスタイルがそれぞれ個性的でキャラクターとして全員に異なる魅力があるのが嬉しく、また彼女たちの影響を受けて湊が選手として復活していく姿も熱い!
挫折した天才の復活劇と同時に卓球初心者たちの成長という、スポーツ小説で一番おいしい部分がたっぷり描かれており、試合の描写も過度に説明的になりすぎずに、専門用語をさりげなく交えながら、スピード感のある試合もたっぷり描かれていて、満足度が非常に高い。
「正統派なスポーツもので何か面白い小説がない?」と訊かれれば、自信を持って本作の名前を挙げていきたい。
(「スポーツの秋! スポーツ小説特集!」4選/文=柿崎憲)