第77話 君の想い―①
大人になって、改めて想うことではあるけれど。
誰かを助けるっていうことは、想っているよりもずっと難しい。
漫画や小説みたいに、何か明確な出来事があって、人の心が救われるとか、そんな都合よくはできていないから。
ただ人を助けるだけでも、気にかけること、してはいけないこと、不確定なことなんて山ほどある。
例えば、その一件でその人を自分に依存させてはいけないとか。
例えば、そうやって助けようと思ううちに、自分もその不幸の泥に飲み込まれないようにしないといけないとか。
例えば、その人の取り巻く環境を考慮して、どれだけ手を出すべきなのか見極めないといけないとか。
そもそも、そうやって助けようとする自分が、なんのためにやっているのか。善意という名の、ただの自己満足になっていないか気にしなければいけない、とか。
あげだせばきりがない。完璧な善意というのは、実はフィクションの産物で。人が何かを起こせば、たいていの場合、何かを得る代わりに何かを失うのが常なのだ。完璧な救いなどどこにもない。
そうやって、沢山のお節介を見て。
そうやって、一方が助けようとしているはずなのに、結局、色んな理由で助けられない人間関係を何度か見てきた。
残念ながら、世の中には模範解答みたいな、完全な答えはどこにもないから。
これでよかったのかなって、問いはきっと、私が死ぬまで消えてなくならない。
今日だってそうだ、私は私の直感の赴くままにここねを守ってみたけれど。
これでよかったか、正しかったかはわからない。
最善は尽くしたけど、最良ではないかもしれない。一見、最善に見えてもその裏で致命的な何かを失っているのかもしれない。
私が貰える模範解答はどこにもないし、強いてそれを決めることができる人がいるとすれば、ここね本人だけだろう。
一日、時間を置いたのは、きっとここねが心の整理を付ける時間が必要だと思ったから。
私が騒動を起こして、私は謹慎、ここねは休養という形で、帰宅したその翌日。
もはや随分と懐かしい春休みの最初の一日に、私はここねの部屋の前でインターホンを押した。
ガチャリとゆっくりとドアノブが開いて、君がすっと顔を出した。
よかった……かな? そこまで顔色は悪くない。元気がないのが幾許は気にはなるけれど。
「大丈夫? 入っていい?」
「…………はい」
私の問いに、君は小さく頷いた。
本当にこれでよかったのかな、わからない。
誰かを助けるっていうのは、やっぱり難しい。
そんなことを考えながら、私はそっと君の部屋へと足を進めた。
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