第44話 いつかの君といつかの私
ふーん、それで私とみそのの昔話リバイバルしてるの。
で、なんで私呼ばれたの?
……みそのが、恥ずかしがって話を進めたがらない? おおうい。
で、どこまで話したの?
一年目の七月? バイトのし過ぎで倒れたとこ?
あーはいはい、あったね。
まあ、いいでしょう。とりあえず、そっからね。
しゃーない、じゃあ、まなかさんが話を適当に進めてあげよう。みそのの羞恥心は置いていくから、そのつもりで。
はい、泣きごと言わなーい。まなかさんが、懇切丁寧に大学生の頃の思い出を語ってあげるから、ありがたく思いなさい。
※
そもそも、まあ、あの頃のみそのって視野が狭くてね、独りで生きていかなきゃ! っていう思い込みがとてつもなかったんだよね。
…………家庭環境とか、親との折り合いとかあったんでしょ。まあ、それくらいはわかるよ。ま、若者にありがちな過ちという奴だね。わはは。
まあ、それはそれでいーんじゃない、誰だって間違いはあるんだから。今想うと、若者らしいなーってちょっとかわいくなる。
私としては、最初は真面目な子なのかなーって想ってたけど、途中から、あれ、これなんか違うなって想い直したよ。
他人への頼り方をしらないだけじゃん、これってね。
どういう人生を歩んできたのか知らないけどそう勘違いしてる。
正直ね―――腹が立った。
自惚れんな、そんなもんで生きていけるわけないでしょってね。
―――—あれ、意外? まなかさんだから、もうちょっと優しいって想ったかい? 残念、私にもまだまだ青い時期があったのだよ。
丁度、私の病気が医者に指摘されて、色々と動揺してた時期でもあったからさ。言い訳だけど。
まっとうな身体を持って、少なくとも私から見ればまっとうな家庭環境を持ってる癖に、そうやって躓いてる様がね……、こう無性に癪に障った。あ、言ってなかったけど、私、親がいないの。施設育ち。だからねえ、こうムカっと。
…………なんで、みそのが今更ショック受けた顔してんの。君には一回、言ったでしょうが。え、それでも改めて聞くと心にくる? あはは、そっか。
でもまあ、私から見れば勿体ないにもほどがあったのよ。まっとうな状況なんだから、ちゃんと人頼って、身体の調子を整えたら、あとはどうとでも生きていけるのに、それをしない。自分で自分を使い潰すみたいに、すり減らして、壊していく。
だから、思い知らせてやろうかなって、ちょっと意地悪を考えた。
話なんて聞かないで、勝手にお金出して、一週間病院にぶち込んで。バイト先にも勝手に連絡入れて休ませて、みそののスマホから親に電話して、あなたのところの娘倒れましたよ、過労で。どういう関係でそうなってんのかしらないけど、娘の命が惜しいんなら生活費くらい振り込んだ方がいいですよって。
ふっふっふ、気付いたかね? ……………………私にとってもえらい黒歴史なのだ。
いやー…………、なんかこう自分の境遇への鬱憤と、卑屈さと劣等感でこうよくわかんない正義感みたいなものも発揮しちゃっててね。…………深掘りしないで、恥ずかしいから。……あ、喋りたくなかったみそのの気持ちがちょっとわかってきたかも。
……それからどうしたかって?
どうもこうも一週間お世話してたよ。知り合いのサークルの子に頼んで、みそのがとってた講義の過去問だけもらってきてさ。これでテストは大丈夫だからって言って、あとはゆっくりさせてたよ。
その間のみその? うーん、ぼーっとしてたかな。エネルギーが切れたみたいにさ、色々と焼ききれてたねあれは。多分、心中では、私への不満とか驚きとかもあったはずなんだけどね。
どうだったの、そこらへん?
…………安心してた? ……それ今だから、言えるでしょ。あの当時はそんなこと、一ミリも言ってなかったからね。
口を開いたら、『なんで』『どうして』の繰り返し。
私も最初はしんどいでしょ、いいから休みなとかだけ言ってたけど、しばらくしたら飽きて特に答えも返さなくなっちゃった。
私としては、まっとうに品種も鉢植えもしっかりしてるはずの苗が、誰にも水をやられずに日向にほっぽり出されてるから、代わりに水をやってたくらいの感覚なんだけど。
勿体ないじゃん、って、ただそんだけ。
ま、あの当時の私的には、ちょっとやっかみもあったよ。
どうせこれだけちゃんとしたら、君は勝手に元気になるでしょうって。それだけの環境が、下地が、君にはちゃんとあるでしょう。…………私にはないのにさ。みたいなね?
時々、おやつを差し入れて、暇になったら隣で本でも読んでたよ。
私があの時やったのは、ただそれだけ。
お金は治験のバイトで別にまかなえてたし。私も単位はとりあえず足りてたから、結構時間の余裕もあったしね。
日差しがきつくて外にいるのもしんどい時期だったからさ。
特に喋りもせずに二人して、病室で本を読んだり寝てたりしてた。
あの時、私達がやってたのは。ただそんだけ。
ただ、あれだね丁度海が見える病室だったから。
たまーに、窓を開けて入ってくる海風が気持ちよくて、きらきらした海がすごく綺麗だった。覚えてる? そう、そいつは何より。
あの時、私がやったのはただそれだけ。後は勝手にみそのが立ち直っていっただけだよ。君が言うほど、まなかさんは大したことはしてないのだ。
色々と話をした? ……したっけ?
あー、みそのの身の上話ね、してたね。確かに。
あれでしょ、親への愚痴とか、バイト先への鬱憤とか。
言ってたね。確かに泣きながら言ってたじゃん。懐かしい。
あそこで初めて誰かに言った? そっか、そりゃあまあ、惚れちゃっても仕方ないかな? ああ、まだ惚れてない? あはは、さようでございますか。
それからは何だっけ夏休みは一緒にバイトに誘ったっけ。
そー、縁日の出店のバイトとか、私とみそのでかき氷屋やったりポップコーン作ったり。あー、それで面白いのがさ、みそのがねポップコーン機の前でなんかそわそわしてるの。何してんのって言ったら、ポップコーンできるのなんて初めて見たって。家が厳しくて、映画館とか行ったこともなかったってさ。
うっそ、ってなってね、気分良くした縁日おっちゃんが、袋にもりもりに持たせてくれて。そしたら、他のお店でもこれ見たことあるか、ないか、じゃあ持ってけっていってね。なんかイカ焼きとか、牛串とかいろいろと持たせてくれたっけ。そうそう、知らなかった? こう見えてお嬢様だよ、みその。
秋になったら……何したっけ? そっか、サークル入ったんだよね。
さて、何をしてたでしょう?
ふっふっふっふ……あのねえ、文化祭実行委員。
そう、意外でしょ? まあ、私が入ってたから流れでそのまま誘ったんだけど。
私ばイベントの企画やってたから、そこに一緒に入れてもらってね。
五・六人のメンバーでイベントを考えるの、文化祭の当日にどういうステージをして、誰に喋ってもらって、時間割が何時から何時でって、そういうことをね。
ノリがいい人が多かったから、最初はみそのは隅っこのほうで引っ込んでたけど、段々、周りとちょっとずつ喋るようになってね。
最初はぶすーっとした顔してたから、とっつきにくいんだけど、まあみそのがそういう顔してる時、大体怖がってる時だからね。イベントが終わって、てんやわんやだけど上手くいったときは、みんなと一緒に笑顔で飛び跳ねてるくらいにはなってたよ。
面白いのがさ、幹部会議で今日の特記事項みたいなのを定期的に報告してるんだけど。その時の部長が『柴咲さん心の扉の解放率』とか言って報告すんの。もちろん、あれよ? 他の下回生の子の様子も報告すんのよ? でも、毎回それだけ変な数字で報告されるから、上回生みんな笑ってんの。「今日は15%、話しかけても視線が痛い」とか「今日は50%、雑談に花が咲く。意外とルービックキューブが好き」とかね。で、ある日心底嬉しそうに「今日は笑顔が見れた……」って感極まってんの、もうみんなずっと腹抱えてた。
バカみたい……ほんっとうにバカみたいだけど、死ぬほど楽しかったわ。
…………っふう、ちょっと喋りすぎたなかな。じゃあいったん休憩。
続きはまた今度、ね。
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