五章 知ってるようで知らないよう
第41話 知らない私
泣いてるあなたを撫でながら、少しだけ想うことがある。
やっぱり私はこの人のことを、まだまだうまく知れていない。
どうして泣いているのか、どうすればその涙が止まるのか。
それすらうまくわからない。
だって知るべきことを知っていないから。
聞くべきことを聞いていないから。
あと、たったの二週間。
それまでにこの人のことを出来るだけ知らないと。
でないとスタート地点にも立てやしない。
最後の最後にこの人が出した答えを聞くときに。
その理由をちゃんと受け止めることすらできない。
きっと、最初で最後の恋なのだから。
それくらいわかったうえで終らせないと。
それを知るのは怖いけど。
そこに触れるのは怯えてしまいそうだけれど。
それでも私はこの二週間、出来る限りこの人のことを知らないといけないんだ。
時間はない、焦れ焦れ。
休んでる場合じゃない、喋れ喋れ。
迷いも、恐れも、恥ずかしさも、後悔も。
全部全部、踏み越えろ。
命は短いのだ。
だから恋をするのだ。
この想いが燃えてるうちに。
胸の奥がまだ熱いうちに。
私の恋がまだ息をしてる間に。
進め、進め。
振り返らずに。
後先も全部投げ捨てて。
平穏な未来も、激動の将来も全部全部なくていい。
ただ、今、この人を知れるならそれでいい。
胸の奥の灯が終わりに近づいているのだけを感じながら。
急げ、急げ。
あとたった二週間だけの、この人との時間を。
せめて精一杯走りきれ。
そして、せめてどうか最後には。
ちゃんと心から泣けますように。
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